ビング・クロスビー、ボブ・ホープ、ドロシー・ラムーア主演による「珍道中」シリーズの三作目です。
珍道中シリーズは、1940年から1962年までに、8作作られていますが、このトリオで作られたのは、1952年の6作目「バリ島珍道中」まで。
本作以外の邦題タイトルには全て「珍道中」というタイトルに付いていますが、本作だけは原題の直訳になっています。
これは、本作がこのシリーズで一番最初に公開された作品だったためのようです。
シリーズのスタイルは、この時代にヒットしていた冒険活劇映画をパロディがベースになっています。
そしてビング・クロスビーの美声をフーチャーしたミュージカル映画としての側面。
ヒロインのラムーアを巡ってクロスビーとホープが恋のさや当てを繰り広げるロマンティック・コメディとしても楽しめます。
そして、なんといってもシリーズの白眉は、製作会社のパラマウントを笑い飛ばす楽屋落のギャグの数々。
これがなかなか楽しいんですね。
この時代のアメリカのコメディ映画は、僕が名画座をハシゴしていた大学生時代でも、なかなか見れませんでした。
テレビの映画劇場ではやっていたかもしれませんが、当時はあまり艶っぽくない映画は観ていませんでした。
僕がこの「珍道中」シリーズを意識したのは、80年代当時、イラストレーターの和田誠さんが書いた映画エッセイの傑作「お楽しみはこれからだ」を読んでからです。
和田氏の名調子で、シリーズの気の利いた名セリフやギャグが紹介されるのですが、確か本作からのネタもあった記憶です。
これが楽しくて、このシリーズはそれ以降、見る機会があれば見逃すまいぞと思っていたんですね。
本作を鑑賞後、この文章のネタ探しにネット検索をしていたら、自分がかつてこのブログで書いた文章がヒットして驚きました。
1966年の「スパイダーズ バリ島珍道中」の映画鑑賞ブログでした。
これは、本家本元の本シリーズの「バリ島珍道中」をベースにして作られていたからでしょう。
そこで、僕はこのシリーズの、「アラスカ珍道中」を観たと書いているんですね。
自分のことながらこれには首をひねってしまいました。
恥ずかしながら、その記憶がありません。
でも、その文章には、映画冒頭のパラマウントのオープニングを茶化したギャグに付いて触れています。
どうやらこれは、和田誠氏の「お楽しみはこれからだ」に紹介されていたネタを覚えていて、そのブログに転用したのだと思われます。
だとしたら、観たというのはウソ。誠に申し訳ない。
しかし、あるいは本当に観ていたものを忘れてしまっているという可能性もあります。
調べてみたら、残念ながら、この珍道中シリーズで、DVDを持っていたのは本作のみ。
どこかで、鑑賞する機会があったら確認してみることにします。
船で密航していた二人が、モロッコにたどり着き、ラクダの背に乗って、歌いながら街へ向かいます。
二人がいい調子で歌っているのが本作の主題歌でもある"(We're Off on the) Road to Morocco"
この歌の歌詞がなかなか傑作です。
作詞は、ジェニー・バーク。
こんな楽屋落ち丸出しのフレーズがあります。
♩
8:5の確率でドロシー・ラムーアに会える
♩
これ以上言うと映倫に引っかかる
♩
盗賊が現れても怖くないぞ
パラマウントとは五年契約だから守ってくれる
映画の主題歌としては、おフザケも甚だしいノリではありますが、これがこのシリーズの味になっているのは間違いのないところ。
芸達者のビング・クロスビーとボブ・ホープの当意即妙のアドリブが、映画ではそのまま使われることも多いとのこと。
僕くらいの英語力では、なかなかそれを全て楽しむことは出来ませんが、雰囲気くらいはわかります。
こんなシーンもありました。
砂漠の真ん中で、網と縄でぐるぐる巻きにされて放置された二人が、次のカットでは、シレッと普通に砂漠を歩いています。
ボブ・ホープが、ビング・クロスビーに問いかけます。
「どうやって袋の縄を解いたんだ?」
するとビング・クロスビーが、カメラ目線になってこう言います。
「観客にはちょっと説明できない。」
この辺りは、御都合主義のハリウッド製冒険活劇を、完全に笑い飛ばしたギャグですね。
このシリーズには、このような第四の壁を破った楽屋落ギャグが度々登場して、笑わせてくれます。
ラストは、また冒頭のようにイカダに乗ってニューヨークに帰ってきた一行。
ボブ・ホープが歓喜の雄叫びをあげると、すかさずビング・クロスビーが茶々を入れます。
すると、またボブ・ホープ。
「これはアカデミー賞がもらえる演技だぜ。」
この人は、後にアカデミー賞の司会の常連になった人。
1978年のアカデミー賞の授賞式の冒頭では、その年の目玉であったジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」にひっかけて、司会者としてこう一言。
「今夜が、本当のスター・ウォーズ!」
個人的にはこのシーンを思い出して、ニンマリとしてしまいました。
本作は、すでにパブリック・ドメインになっている作品ですので、これくらいのネタバレはご容赦を。
主演トリオの他に、本作にはよく知っている俳優が一人出演していました。
ドロシー・ラムーア演じるシャルマー姫の許嫁の王子カシムを演じていたアンソニー・クインです。
この人の作品は、フェデリコ・フェリーニ監督の「道」で大道芸人ザンパノを演じた以降のゴツいタフガイの彼しか知らなかったのでちょっと驚きました。
1952年に作られた「道」を遡ること10年前の、27歳の彼はなかなかイケメンの色男でした。
Wikiをしてみると、この人は、1940年の本シリーズ第一作目「シンガポール珍道中」にも、キャスティングされていました。
機会があれば、これも観てみたいところです。
ラクダの下顎と目玉だけをアニメにして喋らせたり、なにかとノーテンキな悪ふざけ満載の本作。
ラストのドタバタは、ドリフターズのギャグに通じるものがありますね。
とにもかくにも、この作品が作られたのは、アメリカが我が国と太平洋戦争を始めた翌年だということはお忘れなく。
日本が国を挙げて、「欲しがりません。勝つまでは」と、ほとんどのエンターテイメントが制限されてしまっていた悲壮感あふれる時代にあちら様はこの余裕です。
改めて思いますね。
どう考えても、勝てるわけなかったよなあ。アメリカには。