『稲妻』という映画を見ました。
成瀬巳喜男監督と、高峰秀子の初コンビ作。
後に名作「浮雲」を世に出すコンビですが、成瀬監督自身には、もっとも愛された作品だったようです。
製作は1952年といいますから、昭和27年の映画。
かなり複雑な人間関係の映画ですが、手際よく87分にまとめたというところ。
原作よりは、かなり、すっきり整理されている感があります。
その原作は林芙美子。
高峰秀子が、バスガールとして観光案内をしている冒頭場面。
『秀子の車掌さん』のころよりは、当然の事ながら、格段と、うまくなっていますね。
「東京のえくぼ」の婦警の役もそうでしたが、この人は、基本的に、制服姿が映える女優です。
母子家庭で、父親がすべて違う三女一男の末娘(高峰秀子)から見た人生のつらさ、みにくさ、空しさが、描かれているのですが、ドロドロとでもいっていい人間模様を描いていながら、そこはかとした清廉ささえ感じさせる作品に仕上がっているのは、ひとえにこれ、成瀬監督の「腕」。
そして、相変わらず、この監督の「目」は、男たちには厳しいですね。
この映画に、登場する男たちは、もうグチャグチャ。
経済的に甲斐性のないダメ男。
あつかましくて、お金で女性を自由にしようとする実業家。
挙句の果ては、女房を残して自殺してしまう亭主。
あの当時は、そうも珍しくなかった、まだ戦争の色影が残る市井の庶民たちの、笑えない人間関係のもつれを描いて、結局この映画は、ラストまで、なにひとつ解決させません。
それでも、高峰と浦辺を、仲良く歩かせて、映画的には、エンドマークにしてしまう力技。
むしろ、無理なお涙頂戴芝居で、話をまるめて、強制終了する「あざとさ」がない分、リアルさと、「一流」の気品が生まれていたかもしれません。
まだまだ、この頃の日本映画には、「基礎体力」がありましたね。
もちろん、この映画の主役は、高峰秀子。
しかし、物語の核となるのは、むしろその母親役を演じた浦辺粂子といっていいでしょう。
父親がすべて違うという三男一女の母親役の弱さと甘さと、そして逞しさを演じて、絶妙でした。
晩年は、片岡鶴太郎のモノマネのネタにされるなど、バラエティ番組にも出演をしたりで、おばあちゃんアイドルとして活躍していましたが、日本映画華やかりし頃は、貴重なバイブレーヤーとして、巨匠たち愛され、その名作群にもあまた出演しておりました。
自宅で料理中、服に火が燃え移って焼死というショッキングな最期でしたが、忘れられない女優でしたね。享年87歳。
見終わって、ペットボトルのお茶をグビリ。
一息ついて反芻してみると、一番印象に残ったのは、高嶺秀子の白いブラウスのまぶしさでした。
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