シリーズ第2作目は、「ロシアより愛をこめて」。
これは、今でもシリーズの中では、最高傑作の誉れが高い作品。
僕も、この第2作目が、映画としては一番好きですし、また実際リアルなスパイ活劇として、よく出来ています。
監督は、前作と同じくテレンス・ヤング。
この2作目で、いまでも続いている007の定型パターンは、かなり出そろいます。
まずは、プレタイトル・シークエンス。
オープニング・タイトルの前に、007が活躍するシークエンスがひとつ入るようになったのはこの作品から。
スペクターの殺し屋グラントが、007を殺す予行演習をするというシークエンスがオーブニングの前に入っています。
とどめは、グラントの時計に仕込まれたワイヤーで背後からギューッ。
予行演習で、相手役にわざわざ、ジェームズ・ボンドのマスクなんてかぶらせなくてもいいとも思いますが、まずは冒頭で007が殺されるというショッキングなシーンを見せたかったのでしょう。映画はここからスタート。
そして、オープニング・タイトル。
くねくねと艶めかしくゆれる女性の体に、クレジット・タイトルが映し出されるというお馴染みのスタイルは、この作品からです。
さて、本編に入ると、ジェームズ・ボンドは、河畔で美女とピクニックの最中。
自動車電車が鳴り、ボンドはMに呼び出しされます。
この時のボンドの愛車が、ベントレーマークIV・コンバーチブル。
お相手のシルビア・トレンチは、前作でも登場したボンドのガールフレンド。演じているのは、ユーニス・ゲイソン。
ちなみに彼女は、ショーン・コネリーよりも年上です。
ボンド・ガールで、コネリーよりも年上だったのは、彼女と第3作に出演したオナー・ブラックマン。
あと、ボンドガールではありませんが、ミス・マネーペニーを演じたロイス・マックスウェルも年上でした。
でも、ボンドガールの中でも、同じ役名で、続けて作品に登場したボンドガールは、彼女だけでしょう。
さて、英国諜報部MI6に出向いたボンド。まずはお決まりの帽子投げシーン。
これを前作同様、ショーン・コネリーは、見事にワンカットでやってのけますね。まずはこれにニヤリ。
そして、Mから今回の任務を聞かされるボンド。
暗号解読器レクターを手土産に、西側に亡命したいという、ソ連の女性工作員と接触せよというのが今回のミッション。
まあ、敵の罠の匂いがプンプン。
怪しい怪しい。
しかし、ボンドは、彼女の写真を見て、ニッコリと任務承諾。
そして、Mに呼ばれたのが、今回初登場の、武器支給係Q。
軍隊で備品調達係をクォーター・マスターといいますから、その「Q」なのでしょうか。
前作で、ワルサーPPKをボンドに支給する係は、ブースロイド少佐。
まだQではありませんでした。
Qを演じるのは、デスモンド・リュウェリン。
このとき彼は、49歳でしたが、なんと85歳になるまであしかけ37年もこの役を演じ続けることになります。
最後の彼の出演作品は、「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」
この作品で引退したその年に、自動車事故で亡くなりましたね。
さて、そのQから、支給される今回の武器は、わりと地味でした。
アタッシュケース一つです。
しかし、このアタッシュケースを侮るなかれ。
なかなかどうして、渋い優れものです。
中に入っているのが、AR-7用銃弾20発、ナイフ、ソブリン金貨50枚(25枚ずつ2本のストラップに収納)そして、赤外線照準器付きアーマライトAR-7。
そして、極め付きが、タルカム・パウダーの容器に詰めた催涙ガス。
特別な開き方をしないと、これが炸裂するという仕掛け。
この一つ一つが、ちゃんと、映画のクライマックスシーンの伏線になってくるので、このシーンは是非とも見落すことなかれ。
話はそれますが、僕はこの映画を見て、どうしてもアタッシュケースが欲しくなって、小遣いをためて買いに行きましたね。
僕は当時、さいたま市に住んでいましたから、出かけたのは、浦和のロジャースだったなあ。
まだ高校生でしたから、さすがに、学校には持っていけなかったんで、大学に通い始めた時に、ここぞとばかりに使い始めました。
もちろん、秘密兵器の代わりに入っていたのは教科書でしたが、ケースを開けるときのあのパカッパカッという音が好きなのは、この映画の影響が大です。
あれを持って、街を歩いただけで、気分はジェームズ・ボンド。
僕が今でも、デジタルモバイル機器を、必要以上にバッグに入れて持ち歩くのは、考えてみると、007映画の影響なんだと、ここでハタと気が付きました。
さて、アクション映画を面白くするのは何といっても敵役。
これがちゃんと描けていないと、勧善懲悪の映画は、しまりがわるいし、メリハリがつかない。
ジェームズ・ボンドの宿敵は、シリーズを通じて登場する悪の組織スペクター。
イアン・フレミングの原作では、スメルッシュだったりもしますが、映画ではスペクターで統一。
第一作では、ドクター・ノオ博士が、「私はスペクターの一員だ」というだけでしたが、今回はそのボスが姿を見せます。
しかし、姿を見せるといっても、映るのは首から下のみ。
膝に、ペルシャ猫を抱いていて、その指にはスペクターの指輪。(タコのマーク)
このシーンです。
スペクター№1の役名は、ブロフェルド。
顔は映らないので、エンドクレジットのキャスト紹介には、「ERNST BLOFELD ?」となっていました。
この辺のお遊びは大変上手。
ブロフェルドは、第5作の「007は二度死ぬ」で、やっとその姿を現しますが、敵役のボスを、シリーズの中で、ちょっとずつ出していくというやり方は上手でしたね。
顔を出さないナンバー1に代わって、ボンドの命を狙うのは、ナンバー3と、ナンバー5。
ナンバー3は、ソビエト情報局のクレッブ大佐。演じるのは、ロッテ・レーニャ。
ミュージカルの舞台女優出身で、ご主人はあの「三文オペラ」を作曲したクルト・ヴァイル。
この映画に出演したときは、彼女はすでに64歳でしたが、ラストではボンドとさしの決闘を演じるなど、かなりエネルギッシュでした。
ナンバー5は、チェスの名手クロンスティーン。演じたのは、ヴラディク・シェイバルというポランドの俳優。
いかにも悪役が似合う爬虫類系の風貌で、僕らの世代では「謎の円盤UFO」で憶えている顔でしたね。
そして、シリーズ屈指の殺し屋レッド・グラント。
以降、ボンドの命を狙う敵側の「無口な大男」というのは、シリーズには、手を変え品を変え登場することになります。
グラントはフィジカルなタフネスさに加え、ボンドを理詰めで追い詰めてゆく知性も併せ持つ殺し屋。
その存在感は、後に登場するリチャード・キール演じる「ジョーズ」に匹敵します。
ちなみにな、この後、ロバート・ショウがブレイクすることになった作品が、スピルバーグ監督の「JAWS」でした。
さて、それでは、いよいよ今回のボンドガール。
暗号解読器レクターを持って、ボンドに接近してくるソビエト情報局の情報員タチアナ・ロマノヴァを演じたのは、ダニエラ・ビアンキ。
シリーズの中で登場するボンドガールの中でも、とびきりの美人です。
僕らの世代では、彼女のファンは多いんじゃないでしょうか。
イタリアの女優で、映画出演はこれがはじめてでした。
前作のウルスラ・アンドレスが肉体派だとすれば、彼女は知性派。
加えて、ナチュラルなチャーミングさも彼女の魅力。
演技の経験はなかった彼女の「素人っぽさ」を逆手にとって、テレンス・ヤング監督は、上手に彼女の魅力を引き出しました。
僕の中ではナンバーワン・ボンド・ガールは、いまでも彼女ですね。
ちなみに、彼女も、ウルスラ・アンドレス同様、英語がしゃべれなかったので、映画でのセリフはすべて吹き替え。
さて、罠と知りつつ敵地へ乗り込んできたジェームズ・ボンド。
身構えながら、接触してくる彼女を待ちます。
さてそのボンドの宿泊するホテルに、彼女は、なんと素っ裸で登場。いや、正確には、黒いリボン一つを身につけて登場。
チラリと映る、こんなワンカットにドキリとしましたね。
ん? 見えてる? 見えてない ?
この彼女は吹き替え ?
ちょっとこのカットからではわかりませんが、少なくともヒップラインは確認できましたよ。
スケベは、絶対にこういうシーンを見逃しません。
ボンドとキスをするとき、彼女が言うセリフ。
「口が大きすぎないかしら?」
まあ、そのいろっぽいこと。
そして展開される二人のラブシーンを、敵側は鏡の背後のカメラで撮影しているという寸法。
口といえば、もうひとつ印象深いシーンを思い出しました。
息子を殺された英国海外情報局のトルコ支局長・ケリム・ベイ。演じたのは、ペドロ・アルメンダリス。
彼がボンドの手を借りて、相手の殺し屋に敵を討つシーン。
アジトから逃げ出てくる殺し屋を、ライフルで狙い撃ちするのですが、その逃げ出てくる窓が、ちょうどアニタ・エクバーグの大きな看板の口の部分。
そこを狙いすまして、ズドーン。
殺し屋はそのまま種瀬面に落下してお陀仏。
ボンドがサラリというセリフ。
「口は禍の元」
この、人を殺して、サラリと軽口というパターン。
これは、このシリーズの定番になっていきます。
不謹慎極まりないのですが、これがかっこいいのだからしょうがない。
どんなにシビアな展開になっても、あわてず騒がずクリアして、最後はジョーク。
これが、ジェームズ・ボンドの決定的なキャラになっていきます。
さて、タチアナと接触してレクターを手にしたジェームズ・ボンド。
手筈通り、オリエント急行に乗り込んで、イギリスへと脱出を図ります。
しかし、スペクターの刺客グラントの魔の手は、このオリエント急行の中で、ついに牙になってボンドに襲いかかります。
有名な、オリエント急行の客室キャビンの中での死闘です。
グランドに銃を突きつけられて、絶体絶命のボンド。
「煙草を一本くれないか。お礼に、ソブリン金貨50枚をおまえにやる。」
しかし、僕らは知っています。
ソブリン金貨の入ってるあのアタッシュケースには、あの催涙ガスが・・・
鍛えられた殺し屋グラントに形勢不利なボンドでしたが、最後は、アタッシュケースに仕込まれたナイフで逆転。
とどめは、冒頭のプレタイトル・シークエンスで、グラントがとどめに使った時計のワイヤーで首をギューッ。
手に汗握るアクション・シーンとはこう作るんだよというお手本のような格闘シーン。
伏線を上手に活かしていましたね。
そして、ここからが息つく暇もない、見せ場の連続。
まずは、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」を彷彿とさせる飛行機からの狙い撃ち。
そして、ボートでの水上銃撃戦。
これで、ベニスまで逃げとおしたと思ったら、最後はなんと、宿泊ホテルのメイドに扮したローザ・クレップの靴の先から、毒針・・・。
この畳みかけるようなアクションのテンポの良さは、他のシリーズ作品にはちょっと見られないものでした。
テレンス・ヤング監督の気合の入った演出は、彼の生涯で最高の出来。
この「ロシアより愛をこめて」がシリーズ屈指といわれる由縁です。
ラストは、ボンドガールとのラブシーン。
背景のベニスの風景は、スクリーンプロセスを使用してましたね。
ここで、主題歌の「ロシアより愛をこめて」。
歌っているのはマット・モンロー。
タチアナと運河をランデブーしながら、敵に盗撮されたベッドシーンのフィルムを確認するボンド。
「熱演だね。」
「なんなの。それ?」
「さあ、再演しようか。」
フィルムは、運河にヒラヒラと舞ってゆき、バイバイするボンドの手のアップでエンドマーク。
そして、このエンドマークの後にはこう続きます。
NOT QUITE THE END
JAMES BOND
WILL RETURN IN THE NEXT IAN FLEMING THRILLER
"GOLDFINGER"
これで終わりじゃないよ。
ジェームズ・ボンドは次回作「ゴールドフィンガー」で帰ってきます!
こんなに面白い映画を見せられて、エンドロールでこんな予告をされたら、そりゃあ、誰だって次回作は見に行くよというもの。
この「ロシアより愛をこめて」は、「ドクター・ノオ」の2倍の製作費200万ドルをかけて作られ、4倍の収益をあげました。
これで儲かって勢いに乗ったイオン・プロ。
次回作「ゴールド・フィンガー」ではさらに製作費をアップ。
以降、次第に内容をスケールアップしていくことになります。
しかし、お金をかければ面白い映画が出来るというものではありません。
アクション映画は、なんといっても畳みかけるテンポが命。
緩急をつけて、次第に観客をこちらのリズムに乗せること。
007シリーズが、アクション映画として、不動の地位を築いている原点には、この映画があることだけは間違いないようです。
さあ、次回は「ゴールド・フィンガー」でお会いしましょう。
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