Part 3 まで、やっと見終わりました。
予想通り、大変見ごたえのある8時間でしたね。
2022年の仕事始めは、これをきっちり見終えてからと決めていましたので、感想まできっちりアップしていたら、なんだかんだとやはり5日間かかってしまいました。
ついでに、所有していた映画「LET IT BE」の海賊版までチェックしなおしましたが、当然といえば当然のことではありますが、映像や音声のクゥオリティがまるで違いました。
いまのデジタル修復技術の賜物なのでしょうが、これだけの高品質で見てしまうと、もういままで見て来たような海賊版には戻れなくなります。
Apple TV のキットを買えば、わが家の50インチ液晶テレビで鑑賞もできたのですが、やはり本作だけのためにそこまでの贅沢は出来ませんでした。
その他の方法でもいろいろとトライしてみましたが、今ある機材でテレビに映像を飛ばすことは出来ず断念。
結局、本作は、iPad Proでの鑑賞となってしまいました。
けれど、愛機を目の前にデンと置いて、ヘッドフォンで見た方が、画面には集中できて、この作品を楽しむに当たっては案外これでよかったかもしれません。
Part 3 の冒頭は、リンゴが、自作の"OCTOPUS GARDEN"をピアノで披露しているシーンからスタートです。
リンゴが行き詰まったところで、ジョージが、ギターを抱えてすかさずフォロー。
このシーンは、もちろん映画「LET IT BE」にもありましたが、やはり意識的に、旧作で使ったカットは使用しないように編集されているようです。
これに、興味を示して、そのデモ・セッションに加わってきたのが、ジョージ・マーティンでした。
彼は言わずと知れたビートルズの音楽プロデューサーですから、彼らのセッションするところには、かならずその姿があります。
しかし、今回のセッションにおいては、完全にビートルズのメンバー主導で現場は動いており、彼はそばで何も言わずじっと見守っているというだけの印象でした。
それだけ、ビートルズが、この7年間で音楽的には大きく成長しているということでしょう。
その彼が、はじめて「口をはさんだ」シーンがこの場面でしたね。
ルーフトップのライブまで、すでに一週間を切っている状況です。
当初は1月の29日に予定が組まれていましたが、この日は悪天候の予報があったようで、ライブは1日延期されて30日になります。
この日付は、ビートルズ・ファンとしてはしっかり記憶していたので、いよいよだなという感じです。
しかし、この段階においても、メンバーたちの気持ちは揺れています。
これまでのアルバムのように、新作が14曲完成していないという不満があったようです。
グラント・ピアノは、さすがに屋上には運び上げられないので、何曲かの演奏は無理。
メンバー4人と、オルガンのビリー・プレストンが加わったバンド編成で、演奏可能な新曲は6曲程度。
それでも、やるべきかという迷いがあったようです。
4人が話し合いをするシーンもありましたが、最初に「やろうよ」と声を上げたのはリンゴでした。
これにジョンが呼応し、その様子を見てポールも手を上げ、最後はジョージが渋々という感じでした。
ジョンが、こう説明していました。
「ビートルズが何かを決定するときには、いつでも、全員賛成であることが基本。
誰かが独裁的に、グループを引っ張ることは絶対に有り得ない。」
これはもちろん、ポールも承知しているところなのでしょう。
この時期の、ビートルズは、なにかとポールが主導していると言われがちなことは、彼自身も十分に承知していて、ポールも自分の言いたいことはかなり意識的に抑えている様子は随所で見られました。
実際のところ、今回のセッションを見ていても、やはりこの時期のポールは、その才能の輝きが4人の中ではグンを抜いています。
ヨーコにべったりのジョンが、ビートルズへの関心がかなり薄れてきているのが明らかな中で、バンドのリーダーシップは自分が取らなければ、バンドは前に進んでいかないという状況であることは、彼が痛切に感じていたことだったかもしれません。
ジョンの言葉は、ある意味では、そんなポールへの彼なりの牽制だったかもしれません。
そのポールが所用で出かけてしまって、3人だけになったセッションが終わった後、そのタイミングを見計らうかのように、ジョンがジョージとリンゴに、アラン・クレインと会ってきたという話をし始めます。
アラン・クレインは、ビートルズに多少なりとも知識のあるファンなら、きいたことのある名前かもしれません。
この人は、音楽家ではなくて、実務家です。
過去にはローリング・ストーンズのマネージャーなどもしていたという人物。
名マネージャーであったブライアン・エプスタインの死後、ビートルズの稼ぎ出す莫大な資産は、きちんと管理されずに、彼らは、自分たちが稼ぎ出した金額には到底見合わないようなギャラしかもらえていないという状況でした。
これに目を付けたアラン・クレインが、この時期、ビートルズに対して、積極的に売り込みをかけていたんですね。
この頃、ビートルズの資産管理は、ポールの身内である人物に任せようという話も持ち上がっていたので、これを嫌がったジョンが、このアラン・クレインと接触したというわけです。
ファンなら、誰でも知っていると思いますが、この人物もかなりのクセモノだったりするわけですが、この時点では、ジョンは彼をべた褒めしています。
ジョージとリンゴに対して、ギャラが公平に分配されるためにも、この人物をマネージャーに推すことに同意を求めているという様子が伝わってきます。
ヨーコが前夫との正式離婚が決まったばかりで、すでに自分のプライベートは任せたみたいなことをジョンは言っています。
一方、Part 2 では、ジョンがいない状況で、ヨーコのことで、三人が話し合っているというようなシーンもあったりで、ピーター・ジャクソン監督は、音楽以外でも、こんな生々しいシーンを、積極的に見せてくれていて、ファンにとってはなかなか興味深いシーンが見れました。
生々しいといえば、ジョージも、こんなことをいっています。
ジョンとポールという大木の陰で、ビートルズの中では、なかなか自作を思うように発表できないでいたジョージ。
そのジョージが、ジョンにこう愚痴っていました。
「かなりいい曲がたまっている。一度ソロとして、この曲を発表してみたいんだ。
バンドはやめるつもりはないが、ソロ活動と並行してバンドも続けられれば、いい結果につながると思うんだ。」
ジョンは、今バンドがまとまってライブをやろうとしている時に、君はソロの話をするのかとジョージの相談を一蹴してしまいますが、ジョン自身はすでに、ビートルズのメンバーでありながら、ヨーコと一緒に、かなり物議を醸しだした前衛アルバムを発表しています。
ジョージとしては、それゆえにポールではなく、ジョンへの相談だったのでしょう。
事実、ビートルズの解散後に、ソロ・アーティストとして、4人の中で、最も早くブレイクしたのはジョージでした。
彼の言葉通り、彼のソロ・デビュー・アルバムは、なんと3枚組の大作で、確かに楽曲は粒ぞろいでした。
やはり、この時期に、アーティストとして、一番ストレスを抱えていたのは、ジョージだったのかもしれません。
さて、Part 3 になってくると、彼らの演奏もかなりまとまってきていることがわかります。
いろいろなセッションが聞けましたが、なかでも、個人的に面白かったのは、ジョンの"I WANT YOU"のセッション。
ここで、ジョンは、この"I WANT YOU" のところを"I HAVE A DREAM"と歌い替えているんですね。
"I HAVE A DREAM"といえば、公民権運動のリーダーだったマーチン・ルーサー・キング牧師の、有名すぎる演説のフレーズです。
これに、目を輝かせていて印象的だったのは、オルガン・プレイヤーとして参加していたビリー・プレストン。
彼はもちろん黒人です。
それまでは、オルガンに専念していた彼でしたが、このセッションで、はじめて歌まで歌っていましたね。
よほど嬉しかったのでしょう。
このあたり、後にヨーコと一緒に、積極的に政治活動にも参加していく、ジョンの面目躍如です。
さて、いよいよクライマックスのルーフトップ・コンサートです。
ピーター・ジャクソン監督は、これをほぼノーカットで見せてくれています。
ありがたや、ありがたや。
10台のカメラで撮られた映像は、マルチ画面を活用して、曲間の様子も含めて、惜しみなく公開。
ルーフトップに5台、向かいのビルに1台、サビル・ロウの通りに3台、そして、警官が来るのを予想して、アップル・ビルの玄関に隠しカメラが一台。
合計10台。
黒澤明も真っ青なマルチカメラの布陣で、ビートルズにとってはおよそ3年ぶりとなる歴史的なコンサートの模様は記録されたわけです。
このセッションでは、演奏された6曲のうち、"GET BACK" は都合3回、"I'VE GOT A FEELING""DON'T LET ME DOWN" "DIG A PONY"はそれぞれ二回ずつ演奏されていました。
通りに出たカメラは、突然の大音響で始まったビートルズの演奏を見上げる人たちの様子を撮り、周辺のビルの屋上に上がってくる、ビジネス・スーツやOLユニフォームのままの観客もとらえていきます。
苦情の電話が殺到していると、アップル・ビルにやってきたのは、レイ・シェイラー巡査、ピーター・クラドック巡査、デビッド・ケンドリック警部補の三人。
三人の実名は、本作にもきちんとクレジットされていて、幸か不幸か、たまたまこの日のシフトであったために、この三人の名前は、その映像と共に「歴史」刻まれてしまったわけです。
この演奏は、ビルの地下で、ジョージ・マーティン監修のもとできちんと録音されており、アルバム「LET IT BE」にも採用されたものも多いので、これまでにも何度聞いたことかしれない、お馴染みのテイクばかりなのですが、それを改めて聞かされても、とにかく彼らの演奏はカッコいいの一言に尽きました。
ここにいたるまでは、とにかくおふざけのジャム・セッションや、アレンジ未完成のものをこれでもかと聞かされてきているわけです。
どの楽曲も、ただその断片をつなぎ合わせていくような編集ばかりで、まともな演奏は聴かせてもらってはいません。
ですから、ここで初めて聞ける、完成された、彼らのフル演奏の効果は抜群。
ポールが言うところの、「僕たちはこれまでも、追い詰められた時に本領を発揮してきた」という言葉通りの、本気になったガチなビートルズの最後の生演奏は、やはり圧巻でした。
LIVEで鍛えられてきたビートルズは、やはり本番には強かった。
そして、すべてはこのクライマックスに向けて、緻密に練られてあった、8時間の長丁場にわたるその構成と演出も見事。
ピーター・ジャクソン監督の演出手腕もあっぱれでした。
この伝説の演奏の翌日、このセッションの最終日となるのが1月31日てす。
この日には、屋上で演奏されなかったピアノ・ナンバーである"LET IT BE" "THE LONG AND WINDING ROAD"、そしてアコースティック・ナンバーの"TWO OF US "が正式録音されています。
映画「LET IT BE」では、録音順番を逆にして、この三曲が、ルーフトップ・コンサートのシークエンスの前に、フルバージョンで並べられていましたが、このPART3では、屋上で演奏されなかった三曲は、NGや別テイクと一緒に編集され、エンドクレジットのBGMとして使われており、フルバージョンは登場しません。
結局本作で、完成された楽曲として聞けるのは、ルーフトップで演奏された6曲のみ。
その中で、三度も演奏されたのが"GET BACK"です。
最後の"GET BACK"の演奏途中、ジョージは、一度は切られたアンプのスイッチを自分で入れなおして演奏を続けます。
そして、ポールは、屋上まで上がってきた警官たちに向かって、当意即妙に「屋上で遊んでいると逮捕されちまうぞ!」みたいなアドリブを入れ、「ゲット・バック! もと居たところに帰れよ」とシャウトするわけです。
中学生の時に、初めて見て以来、何度見ても「いやあ、かっこいいわ!」と思ってしまったシーンです。
これは還暦を越えてから見ても、まったく変わることのない感想でした。
さすがは、ビートルズ。
とにかく、いろいろな再発見やサプライズにあふれた8時間だったのですが、「へえ」と思ったことが一つ。
"THE LONG AND WINDING ROAD"の録音テイクを、メンバーがミキシング・ルームで聞いているシーンです。
ジョージがストリングスを入れるアイデアを口にするのですが、それに対してポールが以外にも、「それは僕も考えている」みたいなことを言うんですね。
これは意外でした。
後に、アルバム「LET IT BE」は、ビートルズが完成させるのを放棄してしまったため、音楽プロデューサーのフィル・スペクターに託されるのですが、彼はここで、"THE LONG AND WINDING ROAD"に、コテコテのストリングスをオーバー・ダビングし、女性コーラスまで入れてしまいます。
そして、このバージョンは、ビートルズの事実上、最後のシングル・レコードとしてリリースされます。
ポールは、このアレンジに対しておおいに不満で、この曲の本来のコンセプトに反するとして、後にフィル・スペクターのアレンジをすべて取っ払った「LET IT BE...NAKED」というアルバムを発売するにいたるわけです。
この経緯は、ファンなら誰でも知っていることなので、ジョージのアイデアに対するポールのこのリアクションは、正直意外だったというわけです。
ポール自身の日本公演は、僕も見に行きましたが、興味津々だったこの曲のアレンジでした。
しかしそのライブの演奏では、"THE LONG AND WINDING ROAD"には、しっかりとストリングス・アレンジ風のシンセサイザーがフューチャーされていました。
果たして、ポールの本意はどこにあったのか。こうなると、真相は闇の中です。
因みに、個人的には、フィル・スペクターのバージョンを繰り返し聞いてきましたので、逆に「...NAKENAKED」のバージョンの方に違和感を感じておりましたね。
やはり原体験の感動というものは、そう簡単には覆らないようです。
いずれにしても、そんなこんなも含めて、あれこれと伝えられてきた、この解散直前の1969年1月のビートルズの姿を、残されたフィルムをもとに、できる限り正確に、ドキュメントとして伝えようとしてくれたピーター・ジャクソン監督の製作姿勢には、改めて心からの敬意を表する次第です。
PART 3 を見終わった直後から、一気に書いているので、まだまだ掘り下げたいネタは、たくさんありそうですが、とりあえず、ここまでにしておきます。
とにかく、今はカラオケで、アルバム「LET IT BE」を全曲歌いたくてムラムラです。
ご馳走様でした。満腹です。
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