日本の演劇界を支え続けてきた、日本を代表する女優杉村春子。
彼女は、映画では、主演作品というのはないのですが、数多くの監督たちに、その確かな演技力を買われ、名だたる日本映画の名作群に、重要なバイブレーヤーとして数多く出演し、その存在感で、映画に厚みをもたせています。
とまあ、ここまでは、ちょいとGoogleすれば、あちこちで見かける杉村春子評。
まあ、僕にしてみれば、、いつでも、お見合い写真を小脇に抱えて、あわただしくやってきては、「嫁」がどうとか、「婿」がどうとかと、言うだけ言って、忙しく帰ってゆく、世話好きのオバサンあたりのイメージが強いのですが、それでも、演劇に携わる人たちから見れば、彼女は、「神様」みたいな人のようです。
さて、BSの衛星映画劇場で、彼女が出演している作品を見たんですね。
「晩春」という映画。
1949年の小津安二郎監督作品です。
学生時代以来、30年ぶりに再見いたしました。
さて、この映画の中で、「さすが杉村春子」というシーンを見つけました。
たぶん、30年前に見たときには、気が付いていません。
うっかりしていると、見過ごしてしまうかもしれないような、細かいシーンですが、今回は強烈に印象に残りました。
ふたつあります。
ひとつは、自分が持ってきたお見合いの返事を、叔母として、原節子演じる則子に確認に行くシーン。
則子は、複雑な思いながらも、このお見合い相手との結婚を承諾します。
うかない顔の則子から、その返事を聞いて、満面の笑みを浮かべる杉村春子。
「よかった。よかった。じゃあ、お父さんに報告してくるわね。」
まあ、足取りも軽く一階に下りて行こうとしたとき、部屋にころがっていた「なにか」をみつけるんですね。
すると、その瞬間に、世話好きな叔母様が、きれい好きな主婦の顔にかわります。
階下に降りようとしたその足がくるっと方向転換して、さっとその何かを拾い上げると、そのまま戻ってきて、テーブルの上にポン。
この間は、完全に主婦の顔です。
そして、則子の顔を再度確認すると、再び「世話好きな叔母」モードに戻って、満面の笑顔。
そして、また足取りも軽く階下へ。
とまあ、こんななんでもない、シーンだったんですが、杉村春子が、その「なにか」を拾い上げる所作が、なにやら偉くリアルで、そしてあまりに自然で、ほとほと感心してしまいましたね。
今回は、大女優の「技」をちゃんと、見逃さなかったぞと思っていたら、この直後に、もう一発きました。
おなじみ笠智衆の「おとうさん」に、その朗報を報告。
さっそく、帰って準備にとりかからなくちゃと、帰ろうとする杉村に、笠智衆が歩み寄ります。
まあ、そこで、二人の名優を立たせたままの芝居を、小津監督おなじみのローアングルがとらえます。
さて、ここでまた世話好きの叔母様が、そんな話を、笠智衆の父親とはじめるんですが、ここで今度は、笠智衆の服についている「糸くず」らしきものを発見するんですね。
これを、サッサッと払いながらも、会話は続いているという、まあ単純に、たったそれだけのシーンなのですが、この所作が、また自然でリアルで唸ってしまうんですね。
今の女優で、台本に書かれない、こんな「小技」を、駆使できる人がどれくらいいるでしょうか。
これを、芝居として、演技として、計算づくでやっているのだとしたら、この人はやはりタダモノではない。
そんな発見でしたね。
杉村春子おそるべし。
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