実は、僕は「老人フェチ」です。
特に、素朴で、可愛い老人には目がありません。
僕の趣味の老人に、妙な色気や飾り気はご法度。
ですから、基本的に、芸能界には、僕好みの「老人」は、見当たらないのですが、この人だけは別。
笠智衆さんです。
笠さんは1904年生まれ。
1993年に、89歳で亡くなるまで、役者人生の大半を、老け役でまっとうした、筋金入りの「おじいちゃん」俳優です。
人呼んで、「日本のおじいさん」
それまで、大部屋俳優としてくすぶっていた彼を、「老け役」として、初めて起用したのが小津安二郎監督。
その時、笠さんはまだ32歳。
以来、60年近く、数え切れないほどの、日本映画の中で、笠さんは、「おじいさん」を演じ続けたわけです。
中でも、やはり彼の独特の「味」を引き出したのは、小津安二郎監督でしょう。
特に、「晩春」以降の、父と娘の関係を主軸に置いた小津監督の名作群の中で、笠さんの魅力は、ブレイクしました。
必要以上に「喜怒哀楽」を前面に押し出す大芝居を嫌った小津監督のストイックで独特な演出スタイルに、笠さんの、極端に抑揚のないセリフ回しが見事にハマった結果でしょう。
晩年まで、抜けることのなかった「熊本訛り」とて、最終的には、役者・笠智衆の「味」になっていました。
さて、映画「晩春」は、いわゆる小津スタイルが確立した最初の映画といっていいでしょう。
この時、笠智衆は、45歳。
しかし、映画のセリフの中で自分は、57歳だといっていますから、ここでは設定よりもひとまわり若かったことになります。
しかし、笠さんは、しっかりと「枯れた演技」を披露。
とてもとても、このブログを書いている僕よりも、5歳も若い実年齢だったとは思えません。
娘役の原節子は、この映画では、29歳という役どころでも実際の彼女もこのとき29歳。
この親子役の二人の実年齢差は、16歳しかないのですが、そこは映画のマジック。
映画の中では、しっかりと初老のおとうさんと、行き遅れている三十前の娘として、二人のツーショットは、とても納得のいく画面になっておりました。
さて、この映画のすぐ後に見たのが、同じ小津安二郎監督の「麦秋」。
「晩春」の2年後の映画です。
前作と同じテーマを扱った映画で、原節子の娘役は、変わらないのですが、小津監督は、、この作品では、お父さん役には、菅井一郎を起用。
笠さんには、珍しく「お兄さん」役を演じさせておりました。
まあ、年の離れた兄という役どころでしょうが、やはり、こちらは、おじいさん役で見慣れているということもあって、実年齢とほぼ変わらない設定の役なのに、この笠智衆には、なんとも奇妙な違和感をかんじてしまいましたね。
小津作品を全部思い出せるわけではないのですが、こんな役どころの笠さんは、ちょっと他に思い出せません。
やはり、笠智衆の髪の毛は、黒々としていてはいけない。
背筋がピンとしていてはいけない。
枯れていてこそ、我らが「おじいさん俳優」笠智衆ですね。
コメント