大学生の頃、名画座で鑑賞して以来久しぶりに見ました。
本作は、1980年に公開されたミュージカル・コメディ映画です。
監督はジョン・ランディス。
この監督の白眉といえば、映画ではありませんでしたが、なんといってもマイケル・ジャクソンのMTV「スリラー」でしょう。
マイケルからのご指名があったのは、「狼男アメリカン」という秀逸なホラー・コメディが彼のお眼鏡にかなったからだったと思われます。
しかし、それ以前の彼の作品は、ほとんどがおバカ・ムービーでしたね。
とはいっても、「ケンタッキー・フライド・ムービー」は、ショート・コメディの連打映画で、日本テレビの伝説のコメディ番組「ゲバゲバ90分」を見ているみたいで、僕は好きでした。
笑える作品というのは、センスがないと作れないものです。
その次に作ったジョン・ペルーシ主演の「アニマル・ハウス」は、低予算ながらも大ヒット。
これで監督としての株を大いに上げ、予算を大幅に獲得出来るようになったところで作られたのが本作です。
主演を務めたのは、コメディアンのジョン・ベルーシとダン・エイクロイド。
この二人は、アメリカの伝説的エンタメ・テレビ番組「サタディ・ナイト・ライブ」人気コメディアン・コンビでした。
ブルース・ブラザーズは、同番組ですでにデビューを果たしており、映画が作られる1980年頃には、レコードなども発売されていて、アメリカでは有名なソウル・デュオでした。
あらすじは、番組での設定をそのまま踏襲して脚本が作られています。
刑務所から出所したジェイク・ブルースは、エルウッドとともに、孤児院を救うために伝説のブルースバンドを再結成。かつてのミュージシャン仲間を集めて、演奏旅行に出発します。
道中、警察、ネオナチ、謎の破壊女、カントリー&ウェスタンバンドなど、あらゆる敵を尻目に、行く先々でハチャメチャな破壊を繰り返すというロード・ムービー。
とにかく、映画で繰り広げられる破壊が凄まじいのなんの。
アクション映画ならまだ理解もできるのですが、これをコメディ映画でやってしまうのが本作の凄いところです。
まるで、ドリフターズのコントを、スケールアップさせて、見せられているようでした。
地下街をまるまるカーチェイスで破壊したり、ビル一棟を爆破させたり、パトカーをクラッシュさせたり・・
とにかく、ストーリーもへったくれもなく、なにもかもを、ただ無駄に破壊していくシュールさ。
さすがは、ハリウッド映画です。
笑いひとつとるにも、予算のかけ方が違います。
極めつけはレイア姫。いやその役を演じてトップスターだったはずのキャリー・フィッシャーですね。
ただひたすらジェイクの命を狙うという謎の女が彼女の役ですが、それがバズーカ砲だったり、火炎放射器だったりするから、これはもう笑うに笑えません。
もちろん、本作の魅力は破壊だけではありません。
なんといってもこの映画の魅力を牽引するのは音楽です。
そのタイトルからも、わかるように、本作の全編に溢れるのはリズム&ブルース。
1980年といえば、ディスコ・ミュージックが、音楽シーンを席巻していた時代です。
日本では、YMOが登場して、テクノ・ポップに火が付き、デジタル・サウンドが花開いていました。
そんな時代の流れに逆行するように、黒のスーツに黒のネクタイ、フェドラ帽に、レイバンのサングラスという装束で、ブルース・ブラザーズの二人が歌い踊るのは、アナログなリズムに、切れ味のいいホーン・セクションをフューチャーしたノリノリのソウル・ミュージック。
とにかくこの映画は、黒人音楽へのリスペクトに溢れています。
それが証拠に、登場するゲスト・ミュージシャンたちが、例外なく黒人アーティストでしたね。
二人を音楽に導く牧師役に、ジェームズ・ブラウン。
二人が育った孤児院の管理人にキャブ・キャロウェイ。
バンドが楽器を揃える楽器屋のオーナーにレイ・チャールズ。
バンドのメンバーの妻にアレサ・フランクリン。
彼らが登場して歌うシーンは、すべて物語をスッ飛ばして、唐突にミュージカル・シーンになるというサービスぶり。
ブルース・ブラザーズの二人も踊りまくりです。
ジョン・べルーシは、あの体型であるにもかかわらず、隙あらばとんぼ返りを披露。
ダン・エイクロイドは、得意のハーモニカを吹きまくります。
思えば、エルビス・プレスリーもビートルズも、音楽シーンのトップに躍り出た白人ミュージシャンたちは、みんな黒人音楽へのリスペクトを口にしています。
エルビスは、真の「キング・オブ・ロックンロール」は、ファッツ・ドミノだと言っていたほどです。
アニマルズ、ライチャス・ブラザーズ、ホール&オーツといった、「ブルーアイド・ソウル」と呼ばれるミュージシャンたちの音楽も、積極的にリズム&ブルースのテイストを取り込んでいます。
黒人に対する人種差別は、いまでも根強くアメリカ社会にはびこり続けていますが、音楽業界だけは、スポーツ業界とならんで、黒人がプライドを維持することが出来る貴重な分野なのかもしれません。
しかし、初期のブルースやR&Bアーティストは、自身の楽曲の権利を正しく保護されず、レコード会社や白人プロデューサーに搾取されていたという歴史は存在します。
実際は、黒人の音楽文化が白人によって商業化されてることで、黒人音楽が広くアメリカ市民に受け入れられるようになったという側面は無視できません。
ブルース・ブラザーズの突き抜けたクールなギャグは、そんな黒人音楽の暗い歴史をまるごと呑み込んで、笑い飛ばしてしまうようなハイテンションな迫力に溢れています。
そして、もうひとつ見逃せないのは、油断していると見逃してしまいそうな豪華なチョイ役出演陣。
まず二人の衣装のモデルにもなった、伝説の黒人ブルースマン、ジョン・リー・フッカーも街角でギターを抱えて、チラリと歌っていましたね。
ガソリンスタンドで、エルウッドにナンパされる女は、ミニスカートで一世を風靡したツィッギーでした。
森永製菓のチョコレート「小枝」のCMで有名な元モデルです。
二人が税金を届ける収税課職員は、スティーヴン・スピルバーグでした。
ここまでは、わかりましたが、Wiki してみるとまだまだ「見逃し」がいたのですぐに再見して確認。
教会の聖歌隊の中に、いたのがチャカ・カーン。
ラストの「監獄ロック」のダンス・シーンの中に、イーグルスのギタリスト、ジョー・ウォルッシュがいました。
コメディではなくとも、もうこれだけでニンマリです。
これだけ「どこかで見た顔」が出てくると、もう映画はそれだけで楽しくなってしまいます。
彼らにどれだけのギャラが支払われているのかはわかりませんが、ジョン・ランディス監督の、親交関係の広さが伺えます。
ちなみに、1990年の「WON'T BE WRONG」のヒットで有名なバブルガム・ブラザーズは、ブルース・ブラザーズをモデルにしてるのは有名なお話。
もちろん、そんなパクリも「アリアリアリヤー!」
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