今まで見た映画の中で、怖かった映画をあげろと言われたら、初めて映画館で見たその日から、30年以上たった今日まで、必ずベスト3にはランクインしていたホラー映画がこれです。
「悪魔のいけにえ」(The Texas Chain Saw Massacre )。監督は、トビー・フーパー。
我が家でも、BSアナログの時代にエアチェックした、三倍モードのビデオ録画テープはあるのですが、この映画のDVDがなかなか手に入れられませんでした。
それもそのはず、日本では1998年中期から2007年初頭までの間権利関係の問題からDVDが発売出来ず、それ以前に発売されたDVDにはプレミア的価値が付いていたようですね。
レンタルショップでは、リメイク版や、続編は見かけたのですが、肝心のこの第一作目にはなかなか出会えませんでした。
しかし、やっと2007年6月に再発売が決定。
復刻パンフレットなどを封入した「コレクターズBOX」版なども、おくれて7月に発売されました。
さあ、いつレンタルショップに並ぶのかと、待っていたのですが、結局待ちきれずに、Amazonで購入してしまいました。
米国テキサス州に帰郷した5人の男女が、人皮によって創られた仮面を被った大男「レザーフェイス」により殺害されていく様子を捉えたホラー作品。
この作品は、1957年にウィスコンシン州プレインフィールドで実際に発生したエド・ゲインによる猟奇殺人事件をモデルにしています。
制作費は約4千万円。
この映画が、公開後から現在(2006年9月)まで、世界中で総額60億円以上の配給収入を上げています。
製作費と配給収入が、3ケタ違いますから、恐るべき純利益率。
サム・ライミの「死霊のはらわた」や、「ブロア・ウィッチ・プロジェクト」もそうでしたが、やはり低予算を逆手に取った作り手のエネルギーが、こういった高利益率の映画を産むケースは、圧倒的にホラー映画というジャンルに多いようです。
監督のトビー・フーパーは、この後、スピールバーグ総指揮による「ポルダーガイスト」や「スペースバンパイア」などを作り、名実ともに、このジャンル指折りのヒットメーカーとなっていきます。
この映画、公開当初は余りの残酷描写ゆえ、「決して観てはいけない」と学校等でアナウンスされ、全米の各州では、上映禁止処分が下り、更に一部の国では殺人・喰人シーンをカットしたバージョンしか一般では視聴出来きないというような処遇にあっ
てしまいました。
殺人鬼であるレザーフェイスのあまりにリアルな精神異常の描写や、心理描写を一切廃して、外面的な行動のみを描写し、不必要なドラマ性を廃したスタイルが、この作品のドキュメンタリーチックな恐怖を盛り上げ、あの異様な「空気感」を産んだといえましょう。
そのマスターフィルムは、ニューヨーク近代美術館に、史実の記録以外で殺人を描写した映像作品としては、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と共に、永久保存されているといいますから、この監督の若き日の演出は、それだけでも、タダモノではないということになりますね。
僕が、この映画を見た後で、夢にまで出てきたシーン。
若いカップルが、この「悪魔の家」に、おそるおそる足を踏み入れます。
ここで、「並」のホラー映画は、レザーフェイス主観のカメラアングルに切り替わり、飛んで火にいる夏の虫のこのカップルを、なめまわすように追いかけたりするでしょう。
バックには、その恐怖感を盛り上げるような、音楽。
さあ、二人がいよいよ、レザーフェイスに襲われるぞというように、音楽が盛り上がり、クライマックス。
しかし、「そこには誰もいない」という肩透かしを食らわせ、ひと息つかせておいて、おもむろに、レザーフェイスの一撃がドカン。
まあこれが、オーソドックスなホラー映画の「恐怖」演出ということになりましょうが、この映画違いましたね。
カップルの二人が、殺人鬼がいるかもしれない「怪しげな」扉に、そろそろと近づいていきます。
すると、その扉が、おもむろにガラッと開き、その向こうに仁王立ちしているレザーフェイス。
そして、殺人鬼は、一瞬の躊躇もなく、いきなりハンマーでカップルの男を横殴り。
白目をむいて倒れこんで、痙攣している男に、さらに一撃、二撃。
この間、ホラー映画お約束のBGMはな一切なし。(確認していませんが、たぶんそうです)
見ている方に、なんの「心の準備」もさせない、電光石火の殺戮シーン。
このシーンを見た直後から、この恐怖は、ジワーッと押し寄せてまいりました。
そして、ジワーッと怖かったのは、ラスト近くの、この殺人一家の食事シーン。
電気ノコギリを振り回すシーンでも、死体の解剖でもない、「食事」という、きわめてあたりまえの「日常シーン」であったがゆえに、逆に、この一家の異常性が、リアルに表現されていてゾッとしました。
30年たって、改めて見直した、この「悪魔のいけにえ」。
本日現在、僕のホラー映画のベストワンに返り咲きです。
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