薬師丸ひろ子が主演ということで、少々損をした映画かもしれません。
というのも、とてもよく出来ている映画なのに、人気絶頂のアイドル女優を主演にしているせいで、そのあたりが正当に評価されなかったかなという気がしますね。
薬師丸といえば、3丁目界隈のしっかり「おかあさん」のイメージが定着しつつありますが、当時としては、人気絶頂のアイドル俳優。
とにかく、彼女が出演すれば、中身はどうあれ、コケることはないというくらいの人気がありました。
さあ、13歳でデビューした彼女も、20歳になっています。
アイドルから、大人の女優への脱皮をしなければならないというタイミングで選ばれたのがこの映画。
「Wの悲劇」です。1984年の角川映画ですね。
原作は、夏樹静子の同名ミステリー小説。
これは、ご存知エラリー・クイーンの傑作推理小説を「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Z
の悲劇」を意識して書かれた本格推理小説。
原作は、映画公開前に読みましたが、こちらもなかなかな読み応えがありました。
ラストのスリリングなどんでん返しの連続は、見事でしたね。
さあ、このよく出来たミステリーを、どうアイドル女優映画として料理するのか。
結果として、原作の内容は、かなり大胆に変更された脚本になりましたが、一言で言えば「うまい!」
「劇中劇」という奥の手を使って、女優・薬師丸ひろ子を前面に押し出すことに成功するのですが、原作のテーマを巧みに織り込んで、最終的に、このミステリーを薬師丸ひろ子の映画としてまとめていました。
この手腕の持ち主は、澤井信一郎という監督。
東映で、マキノ雅裕に師事して、「娯楽映画」の修行積んできた職人肌の監督です。
製作サイドから与えられた「要求」には黙って応えつつ、それでも最終的には、自分の映画にしてしまうあたりの「力技」はタダモノではないという印象でした。
監督デビュー作の「野菊の墓」で、バリバリアイドルの松田聖子を上手く裁いた力量が評価されての起用だったのでしょう。
角川映画ですから、キャストは豪華。
面白かったのは、「劇中劇」の舞台演出家の役で、蜷川 幸雄。
彼は、そのまま、この映画の中の舞台の演出も担当。
相手役の世良公則は、音楽畑出身のロックンローラーですが、「太陽にほえろ」のボギー刑事役で自信をつけたのか、この映画では、すでにいっぱしの「役者」の顔で出演していました。
世良が公園で、薬師丸の顔を叩くシーンがあるのですが、ここでの彼女のセリフ。
「顔はぶたないで。女優なんだから」
これは、この後で、頻繁にギャグのネタにされていませんでしたっけ。
記者会見のシーンで、彼女に質問をぶつけていたのは、当時の現役レポーター梨元勝、福岡翼、須藤甚一郎たちでしたがこのあたりは、ある意味「リアル」さが出ていてなかなか。
ところで、僕はこの映画の中の、薬師丸ひろ子が、あのセクシーフェロモンムンムンの武田久美子に見えてしょうがなかったのですが、どんなもんでしょう。
コメント