ランチを会社近くの「山田うどん」で食べていたんですね。
僕の場合、ランチタイムは、イコール読書の時間。
いつものように、「帆立雑炊」を食べながら、雑学系の文庫を開いておりました。
すると、バタンと入り口の扉が開いて、一人のご老人がはいってきたんですね。
このオジイチャン、実は我が社の裏に居を構える、御年85歳になる、当事業部の大家さんなんですね。
僕は、もちろん、この老人が誰かは、一目見てわかるのですが、さあ果たして、あちら様が、僕が誰だかがわかるかが問題となります。
これが、なんとも非常に微妙なんですね。
もちろん、我が社の大家さんですから、会社には時々お見えになります。
もちろんあちらも、会社の事務所に来て、僕が「課長」さんの席に座っていれば、もちろん僕が誰だかはわかるでしょう。
「あのよお、課長さんよ。裏の駐車場のゴミなんだけどさあ」
てな話にもなります。
しかし、外だとどうでしょうか。
こんなところで普通にランチしていて、いつもの、「課長さん」とわかるかどうか。
てなわけで、こちらも、ちょいと身構えます。
よし、眼が合ったら挨拶だと、まずはそう決めます。
すると、この85歳の大家さんは、わかっているのかいないのか、ドンと僕の隣に座ってくるんですね。
「おねえさん、たぬきそばとミニカレーのセット。」
老人特有の加齢臭がツンと鼻に来ます。
さあ、困った。
隣に座られて、声をかけないわけにはいかないか。
ここでいろんなことが、頭をよぎります。
とりあえず、いまはまだ、このオジイチャン、僕が誰だかわかっていないと見た。
ならば、このまま読書しながら、食べ終わるまで黙っていよう。
そして、帰りがけに、ちょいと声をかければ、僕の貴重な読書時間はキープできる。
今下手に声をかけたら、その後がシンドイぞ。
こちらとしても、80歳を超える老人と交わせる話題なんて、在庫はないし。
でも、黙っていて、向こうから先に声をかけられたらちと気まずいかも。隣に座られて、気がつかなかったというのもうそっぽい。
まあ、いいか。そのときはそのとき。
こうなってくると、目の前の「帆立雑炊」も、「温やっこ」も、なんだか食べた気がしない。
なんだか、ランチタイムのひとときに、「気まずい時間」が流れます。
しばらくして、大家さんの前にも、注文のシナが並び、老人の割には、ケッコウなイキオイで食べ始めます。
そして、追加注文のチューハイの缶をグビリ。
さて、そうこうしているうちに、どこにはいったかわからないランチは終了。
僕は、伝票を持って立ち上がり、いよいよ意を決して、ちょいとした話題のひとつも用意して、「こんちは・・」と声をかけようとしたら・・
「課長さんよ。そういえば、火災報知機の工事はおわったんかい?」
おいおい。わかってるんなら、声かけてくれっつうの !
コメント