1989年の冬のこと。
鳴り物入りの角川映画として公開される予定だった映画「天と地」は、東宝が配給を予定していたのですが、あれやこれやの事情で、東映が配給することになってしまったんですね。
さあ、そうなると、東宝側といたしましては、映画の稼ぎ時である、夏のラインナップにボッカリと穴が開くことになってしまいます。
ここで稼ぎ損なっては、東宝としてもうまくない。
しかし、夏に公開の映画の企画を、前年冬の時点からスタートいうのは、映画の業界ではかなりのケツカッチンになります。
そこで、東宝は奥の手を使います。
テレビ局とのタイアップですね。
白羽の矢が立てられたのがフジテレビ。
これで、急場しのぎのインスタント企画の映画を作らなければならないという状況でも、「宣伝」だけは当てに出来ます。
ならば、ここは、宣伝栄えのする企画。ハズレが少ない企画で、安全策をとろうと思うのは人情というもの。
外れない企画といえば、まず「家族モノ」、それから「子供モノ」、そして「動物モノ」。
ロケ地は、南半球へいってしまおうということになります。
この冬の時期に、季節は正反対の夏で、晴れ間が多く取れて、撮影待ちのリスクも少ないというわけです。
そして、企画が、インスタントなら、せめて、俳優陣たちだけは、豪華に使おうということになります。
そこでまず、フジテレビ「北の国から」の五郎役で、「家族モノ」には実績のある田中邦衛が選ばれます。
そして、女優は、田中の相手役としてはちと若すぎますが、確実に客を呼べる安全パイとして、薬師丸ひろ子。
あとは、根津甚八、かとうかずこ、富司純子、小林佳樹。
これでなんとか、体裁だけは整います。
映画は、オーストラリアの美しい自然を守ろう、動物を救おう、幻のタスマニアン・タイガーを探しに行こうといった、考えられる限りの安直な、「売れ線」企画が、節操なく詰め込まれていきます。
そして、もうけ損なってはなるまじと、フジテレビも怒涛の宣伝キャンペーンを敢行。
このため、映画は、巷ではそこそこの評判となり、結果、公開時の客の入りも好調。けして、興行的にはコケることもなく、東宝の夏のラインアップの大役を無事に果たしました。
実は、僕などは、今回、公開から19年たって、はじめてこの映画を見ることになるわけのですが、頭のどこかに、当時の、この映画の「宣伝」の様子がかすかに残っていて、「きっと、この映画は、泣けるいい映画」に決まっているという「刷り込み」が残っていました。
見終わって、「あれ、こんなもんか」と思い、ちょいと当時の状況を調べてみたら、かくかくしかじかというわけでした。
やはり、どんなに、バックで盛り上げても、時間をかけない企画と脚本のアマサは如何ともしがたい。
こちらは、感動してやろう、泣いてやろうと構えているのに、見ているそばから、映画的ご都合主義と、アラがこれでもかと見えてしまって、泣くにも泣けない。
メッケものといえば、90年代テイスト満載の薬師丸ひろ子のソバージュくらいのものでしょうか。
というわけで、衛星放送で録画して見た、今回ご紹介の映画は、1990年夏に公開された東宝映画「タスマニア物語」。
しかし、あのタスマニアン・タイガーはちと、ダサかったですな。
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