監督は、小泉堯史。
黒澤明監督の下で、みっちりと修行をしてきた人ですから、その演出力には、確かに、黒澤映画を髣髴とさせるものがあります。
地味なテーマですが、しっかりと時間をかけて、丁寧に作りこんだ「味わい」が画面の端から匂いたつようですね。
撮影は長野県飯山市を中心とした奥信濃と呼ばれる地域で行われました。
四季のうつろいと、日本の原風景が、鮮やかに画面を彩り、「田舎オタク」の僕にとっては、たまらないシーン満載です。
山の中腹に建てられた「阿弥陀堂」以外は、一切セットを使わなかったということですから、これは一度はビデオカメラをもっていかねばなりますまい。
さて、「田舎オタク」の僕ではありますが、もうひとつ、僕のツボを刺激しまくる素材を、この映画はふんだんに活用しております。
それは「老人たち」
実は、僕は、じいちゃんばあちゃんオタクでもあります。
特に、素朴で、可愛い味わいの老人たちにはやられます。
あの亡くなられた、笠智衆さんなんて、ほとんど見ているだけで泣けてきますもの。
この映画では、小泉監督は、おそらは、俳優ではないと思われる、地元のお年寄りたちを、実にうまく芝居させていましたね。
ほとんど、かくし撮りではなかろうかと思わせるくらいに、カメラを意識させない自然な演技を引き出させて、これはあっぱれでしたね。
笠智衆さんは、もちろん、この映画には出てきませんが、この映画には、なにをかいわんや、日本を代表する「おばあちゃん俳優」が出演しています。
映画の中で、阿弥陀堂に住む、96歳のお梅さんを演じた北林谷栄。大女優です。
この映画の作られた2002年の時点で、91歳というからオドロキです。
まあ、おそらく、今の日本のプロの俳優で、これだけ、味のある老婆を演じられる女優は、ちょっといないかもしれません。
とにかく、彼女のシーンになると、老人フェチの僕は、ひたすらニヤニヤのしっぱなしでしたね。
それくらい、彼女の演技はあっぱれ。
いや、あれが演技なら、、ほとんど神業ですね。
彼女は、この映画の演技で、日本アカデミー賞の助演女優賞を獲得しました。
映画の中の、お梅ばあさんの言葉です。
「畑にはなんでも植えてあります。
ナス、キュウリ、トマト、カボチャ、、スイカ・・
そのとき体が欲しがるものを好きなように食べてきました。
質素のものばかり食べていたのが長寿につながったとしたら、
それはお金がなかつたからできたのです。
貧乏はありがたいことです。」
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