稀人
「稀人」というのは、皆俗学の用語で、「異界から訪れる人」という意味だそうです。
「稀人」は、2004年のジャパニース・ホラー。
先日読んだ「恐怖の作法」でも、取り上げられていた作品で、未見でしたが、DVDがありましたので、早速チェック。
脚本を書いたのが、筆者の小中千昭氏です。
監督が、「呪怨」のヒットで、すでにホラー界のエースな踊り出ていた清水崇。
この映画を撮り終わった後で、すぐにハリウッド版の「呪怨」の製作にかかっています。
しかし、エースとは言っても、国内で撮るホラー映画はやはり低予算が宿命。
個人的には、「呪怨」シリーズ以外の、清水作品を見るのは今回が初めてでした。
小中氏の脚本のベースになってるテーマは、大きくふたつ。
地下都市伝説と吸血鬼です。
主人公を演じているのは、ホラー映画監督でもある塚本晋也。
あの「鉄男」シリーズを撮った監督です。
決してイケメンではありませんが、さすがにホラーのツボを理解している演技。
清水監督も、楽だったのではないでしょうか。(逆に、やりにくかったか?)
主人公は、ビデオ・カメラマンという設定。
自殺騒ぎのあった地下鉄構内から、東京の地下都市に迷い込みます。
そして、カメラを回しながら進む彼の前に、全裸の少女が・・
その少女を自宅マンションに連れ帰るのですが、何も食べようとしない彼女は次第に衰弱していきます。
ある日、指に怪我を負って帰ると、少女はその匂いを嗅ぎつけ、その血を・・
そして、少女に血を与えるために、男は次々と殺人を犯していくという展開。
キリスト教国ではなく、また土葬という習慣のない日本で、どうやって吸血鬼の物語を作るか。
脚本を書くにあたっては、どうやって日本独自の物語を展開するかを、小中氏は熟考したとのこと。
実は、それにトライした映画を、この前見たばかりです。
東宝で、1970年に作られた「血を吸う」シリーズ三部作。
バンパイヤを演じたのは、個性派俳優の岸田森。
舞台となるのは洋館で、演出としては、従来の海外ドラキュラ映画にかなり寄せていました。
いわゆる、吸血鬼映画伝統の、ゴシックホラーという作り方です。
しかし、この映画以前に、脚本の小中氏に大きなインスパイヤを与えていた作品があったそうです。
それは、「血を吸う」シリーズから、遡ること2年。
円谷プロ製作の「怪奇大作戦」の中の「吸血地獄」という一編。
事故の影響から吸血鬼になってしまった恋人と一緒に逃避行を続ける男が、最後は自分の血を吸わせながら、一緒に死んでいくという物語。
実はこの作品も、DVDを持っていましたので、続けて鑑賞。
ここでも、吸血鬼役ではありませんでしたが、事件を解決するSRIのメンバーの一人に岸田森がいました。
日本の吸血鬼モノは、この俳優との縁が深そうです。
そういえば、主役の塚本晋也のキャスティングも、岸田森のイメージがかなり強くあったような気がします。
脚本は秀逸だったのですが、こちらはバンパイヤの造形がイマイチ。
美しい白人女性が吸血鬼になると、どう見ても、女装趣味の、化粧の濃いオジサンにしか見えなくて、これはかなり残念でしたね。
清水監督版のドラキュラは、口も聞けない謎の少女でした。
その動物的な動作には、やはりどこか伽耶子に通じるところがあります。
僕のイチオシが、ラスト。
血を与えながら交わす二人のキッスは、日本映画としては、屈指のイロっぽさでしたね。
やはり、この監督が演出をすれば、吸血鬼さえも、極上のジャパニーズ・ホラーにしてくれます。
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