孤独のグルメSeason9
発生以来ついに3年目を迎えているCovid-19ですが、次々と登場する変異株の報を聞くたびに、果たしてこの騒動に終わりがくるのだろうかと少々不安になります。
実はこの騒動は、ちょうど定年退職を迎えて、細々と1人で農業をはじめたタイミングで、始まっています。
以来、家と畑の往復の毎日となり、外食をすることもなくなって、畑で採れた野菜でひたすら自炊する毎日。そんなわけですから、世の皆様よりは、比較的感染リスクの少ない暮らしをしています。
サラリーマン時代の道楽だった、仲間とのカラオケや、一人旅も、ことのついでに、一人前の百姓になるまではと、封印しています。
幸か不幸か、家族のいない一人暮らしですので、このライフ・スタイルを続けていれば、世の中の人よりは、コロナ感染の確率は低くなるはずだと勝手に思っています。
元々、だらしがない性格なので、消毒や手洗いの励行、マスク着用は大の苦手。
今やこの二つは、日常生活の新しい常識になった感がありますが、もしも、サラリーマンを続けていたとしたら、自分のようなおしゃべりで、不衛生な人間は、絶対に誰よりも早くCovid-19の餌食になっていたであろうという確信がありますので、こう言う老後になった上は、今までの価値観をリセットするのにはいいタイミングになったと思っている次第。
それでも、農業資材の買い出しなどで、ホームセンターには、ちょくちょく出かけることはあります。
もちろん、この時だけは、しっかりとマスクをしてしていきますが、いついっても驚くことは、買い物客たちのほとんどが全員キチンとマスクを着用していること。
僕の感覚では、これくらいの人混みなら、マスク率は9割にも達していれば上等だろうと思ってしまいますが、これがいつ行ってもほぼ100%なのが、良くも悪くも、日本人の凄いところ。
こんな国民は、おそらく世界中どこを探してもいないだろうと思われます。
ホームセンターの駐車場で、ノーマスクで、店内に向かおうとして、周囲のただならぬ雰囲気に気付き、慌てて車にマスクを取りに戻るなんてこともしばしば。
今や、マスク着用と、手のアルコール消毒は、日本人の暮らしにしっかりと根付いてしまっています。
そうなると、普通の生活をしている限り、人類との濃厚接触がほとんどない百姓は、どうしても、世の中の新しいルールへのセンサーが働かなくなってくるのも事実。
今はテレビ番組はほとんど見ない生活になってしまっていますが、その代わりに頻繁に見るようになったのがYouTube動画です。
これが今のところ唯一の、世の中を覗く窓になっている感があるのですが、複数の出演者のディスカッション形式のチャンネルだと、主流になっているのはやはりZOOMによるオンライン・サロン形式の番組。
実際に複数の人で語り合うトーク番組ならば、きちんと「社会的距離」をとるか、アクリル板を間に挟んだ上での、ノーマスクというセッションが常識になっています。
また、地上波の多くのバラエティ番組も、大なり小なりこれに準じたスタイルにはなっている模様です。
Covid-19 の発生以来、3年が経過して、我々の生活スタイルは、概ねこれに対応したものに変化し、次第にニューノーマルに成りつつあることは確実なのですが、去年あたりから気になっていたのは、ドラマや映画が、なかなかこの社会常識に対応してこないことでした。
もちろん、その製作現場では、感染防止対策はきっちりと配慮され、国による検査体制が遅々として進まない状況の中、スタッフやキャストのPCR検査は、製作側の自前で実行されながら万全の体制で新作は作られているのでしょうが、肝心の「作られるドラマ」の中には、一向にこの新しい「常識」が反映されてこないように見えます。
確かに、どんなに旬の美男美女をキャスティングしても、そのご自慢の見栄えのするルックを、大きなマスクで覆ってしまって芝居をさせると言うのでは、興醒めもいいところ。
描いている時代背景が、今でなければ、マスクなしでもいいのでしょうが、現代を反映していないドラマが作られないのも、いかがなものかと言うところ。
しかし、ドラマの中では、無視し続けている現実も、もうすでにこれだけの時間が経過し、我が国ではまだ当分収束する気配すらないという状況の中で、実際に生活をしている人々の日常の中では、かなり深いところまで、このニューノーマルが浸透していることは確実です。
もしかしたら、この新しい生活スタイルは、まだまだ当分の間は続き、もしかしたら、もう元に戻ることすらないかもしれないと思い始めている身としては、いつまでも、現実に背を向けている、フィクションの世界の姿勢には、疑問を感じてしまうと言うのが正直なところ。
この現実の世界に、正面から対峙するのは、果たして映画が先か、ドラマが先か。
当然ながら、映画よりは、制作現場の小回りが効き、社会の空気も反映しやすいドラマの方が、先に名乗りを上げるだろうとは思っていましたが、なるほど、このドラマがありました。
世の中の全てのドラマをチェックしているわけではありませんが、とにもかくにも、僕の目に一番最初に映った完全ニューノーマル対応ドラマは、テレ東制作による松重豊主演の「孤独のグルメSeason9」でした。
テレビドラマは、ほとんど見なくなってしまっていますが、このグルメ・ドラマは、放送終了後にしばらく待てば、Amazon プライムで、一気に見れることもあって、多分Season1から、見逃していないはずです。
考えてみれば、全国飲食店応援番組の雄でもあるこのドラマの最新シリーズが、この状況を無視することはあり得ませんでした。さすがテレ東。
数あるドラマが描こうとしなかった2021年の日本のありのままの姿を、このドラマ見事に切り取っていて、思わず全10話を一気に鑑賞してしまいました。
主人公の個人輸入雑貨商の井之頭五郎を演じるのは、もはやこの役がライフワークになった感もある松重豊。
日々の食事を、出張先の日本全国の飲食店で過ごし、誰にも邪魔されない「至福の時」を満喫する彼の、コロナ感染対策マナーは、完璧でした。
店に入る時には、必ず手を消毒し、お店の人に注文をするときだけはきちんとマスクをするというマナーも完璧に守られていました。井之頭五郎エライ!
紹介される飲食店の女将さんも、大将も、料理をいじるときにはマスク着用が徹底されています。
もちろん、客が向かい合うテーブルの間には、きちんとアクリル板。
そして、五郎さんのような一人客の時には、そのアクリル板を外すという細やかな気配り。
コロナ対策の「やってる感」をアピールするためだけに、ひたすら全国の零細飲食店をいじめることしか考えていない政府のお偉方や、自分達だけは特別なんだと、マナー無視ではしゃいでは懲りることのない霞ヶ関の官僚には、是非見せてやりたいドラマでしたね。
世の中の飲食店は、こんな厳しい現実の中で、みんな健気に頑張っていました。
今回のシーズンでは、五郎さんがかつて訪れた店の、現在の状況も、折に触れて紹介されていました。
中には、時短営業で昼間はクローズドになっているお店、東京の店は閉めて、田舎で細々と営業し始めた店などの情報も丁寧にすくっていました。
なんだかんだと言っても、この新型コロナ・ウィルスとの世界戦争も、いよいよ4年目を迎えようとしています。
気がつけば、全く様変わりしてしまっている我々の暮らしに、フィクションの世界が追いつく日は来るのか。
どうかすると、この不自由極まりない暮らしが、ある日突然収束するかのような、なんの根拠もない希望的観測だけが一人歩きしているような気がしています。
いつか、この暮らしは元に戻って、我々は以前のように、なんの制約もなく、自由に友人たちと語り合い、触れ合い、旅ができる日常が戻ってくるに違いないと多くの人が信じているように思えます。
しかし、「だからその日まで我慢」という、かつての自粛ムードも、今はおおむね消えかかり、三回目のワクチン接種をしたのだから大丈夫、きちんとマスクをしているのだから大丈夫、なんだかんだと言っても、自分の周りには陽性反応者はいないのだから大丈夫、しまいには、日本全国で新規感染者が何千人出ようと、自分だけは絶対に大丈夫といった、都合の良い解釈にすがり、かつての生活に次第に戻り始めている人は少なくないように見えます。
おそらく、こんなことを言っている僕自身も、今の百姓生活を送っていなかったとしたら、真っ先に、昔の生活に戻っていた一人であったことは白状しておきましょう。
僕のように偶然にも世の中のアウトサイダーになっている、映画道楽の隠遁百姓老人に、現実の世界の常識を教えてもらえる意味でも、この新しい常識をきちんと織り込んだドラマや映画は、もはやこれは逃れられない現実と覚悟を決めて、今後もっと作られてほしいとは切に願う次第。
考えようによっては、このパンデミックの状況は、生活に密着したホラー映画の素材にもなりえるでしょうし、人間ドラマの新しい小道具にもなるはずです。
要は、映画やドラマの作り手が、この現実に、目を向けるか、目を背けるかの意識の問題なのでしょう。
ドラマというものは、ある意味では、綺麗事で上等な世界でしょうから、こんな面倒くさくて、美しくない現実は「ないもの」と考えたい気持ちもわかります。
しかし、それでも、現実の世界にきちんと切り込んで、面白いものを作り上げていくというのもまた、ドラマのあるべき姿勢でしょう。
ちなみに、本ドラマの主役、井之頭五郎様に一言。
あなたの年齢で、もしもその量の食事をするなら、その日は、その一食のみで過ごされることをお勧めいたします。
それ以外にも、もし食べることがあるとしたら、その分は確実に、体重増に反映されるはずです。
それと、番組で、それだけの肉料理を食べさせられるなら、それ以外のプライベートでは、是非野菜中心のメニューを御検討ください。
この二点、くれぐれも、ご留意されたし。
♪
ゴロ〜、ゴロ〜、イノガシラ、フゥー
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