ズーム/見えない参加者
いつかはこんなホラー映画が作られると思っていました。
世界中のホラー映画を具に見ているわけではないので、もっと早くに取り上げていた映画もあったかもしれませんが、僕が出会ったものとしては、本作が最初でした。
作られたのは、イギリス。
63分の小品ですので、ホラー映画の醍醐味とも言えるシチュエーション・アイデア一発で作られた野心的な作品。
63分と言っても、エンド・クレジットの後の、ラスト8分間は、テスト撮影の際に実際に、発生した(と思われるような)心霊現象をそのままサプライズ・メイキング風に使用していますので、本編は一時間にも満たないものです。
キャストにも、スタッフにも、知っている人は1人もいませんでした。
「パラノーマル・アクティビティ」や「ブレア・ウィッチ・ブロジェクト」のように、製作費がないことを逆手に取った、アイデア勝負のホラー映画には、案外傑作が多いもの。
必要なものは、「新しい恐怖」の発明です。
ホラー映画に限っては、製作費と有名俳優をふんだんに使えば、怖い映画が撮れると言うわけではありません。
映画における「恐怖」の本質というものは、今まで誰も経験したことのない映像体験を、観客に与えること。
どんなに、お金をかけたセットを組んで、物量と特殊効果に物を言わせて、恐怖シーンを演出しても、それがかつての作品の二番煎じであれば、豪華版であったとしても恐怖効果は半減以下。
製作費の無駄遣いになるに過ぎません。
それよりは、たとえ、お金はかけられなくても、アイデア勝負で、観客に未知の体験をさせる作品の方が、ホラー映画としての矜持を感じます。
むしろ、インディペンデンス感を全面に押し出して、映画っぽくないリアルを追求した方が、ホラー映画としては成功につながる可能性が大です。
例に挙げて恐縮ですが、スタンリー・キューブリックの「シャイニング」が、果たしてホラー映画として、成功していたかどうか。
確かに、キューブリックらしい、製作費をたんまりとかけた、格調高いホラー映画ではあったかもしれませんが、あれで怖かったかと言われると、そうでもなかったと言うのが、正直な印象です。
お金をかければ、怖い映画が撮れると言うわけではないと言うことを、確認したと言うのがあの映画の感想。
たとえば、ホラー映画は最後まで撮らなかったヒッチコックですが、「シャイニング」のプロットを、もしもヒッチコックが演出していたら、もう少し怖がらせてくれたような気がしたものでした。
それは、この映画でも感じてしまったこと。
やはり、欧米のホラー映画というと、恐ろしく邪悪な霊か、シリアル・キラーに、登場人物が一人一人殺されていくというのセオリーを、ホラー映画の核にするという不文律があるような気がしています。
でも、このズームのオンライン・ミーティングという、現代ならではの設定を上手に活かせば、わざわざ、この世のものではない異世界の怪物を登場させなくても、十分に怖い物語は作れるような気がしてしまいました。
例えば、参加者の1人が、侵入者に襲われるのを、全員が目撃してしまうとか。
参加者の1人が、実は凶悪犯で、参加者の誰かを殺そうとしているのが、だんだんとわかっていく展開とか。
何か、あのシチュエーションだからこそ、怖くなるような設定は、あったような気がします。
個人的には、このCovid-19 パンデミックは、日本のような中途半端な対策でお茶を濁しているだけの、なあんちゃって民主主義の国では、まだまだ完全収束は出来ないような気がしています。
映画製作サイドも、いつまでもこの騒動を見て見ぬふりをしていないで、そろそろ本腰を入れて、映画の中に、この新しい現実を取り込んだ作品を作らないと、「時代を写す鏡」という映画の役割は、担えないのではと思っていました。
街頭のモブシーンで、道ゆく人が全員マスクを着用しているような邦画が見られる日が、果たして来るかどうか。
個人的には、興味のあるところです。
だって、現実の世界がそうなのですから。(おっと、これは日本だけかも)
新型コロナなんて無視して、以前と同じ生活に戻りたい人は大勢いるでしょうが、ところがどっこい、彼らだって生存本能はあります。それをなめてはいけません。
おそらく仲間同士で、ちゃんと情報交換して、対策がゆるい国を見つけ、そこに集まって繁殖し、さらに進化して、世界に散らばるという必勝のストーリーを画策しているはずです。
幸か不幸か、我が国は、お隣の中国のように、国の号令一下で、国民生活を統制し、一気にウィルスを根絶やしにする出来るような国家体制は持っていません。
お偉いさんたちの、つまらない利権の守り合いで、遅々として進まないコロナ対策の中、唯一世界に誇れるのは、国民の公共意識の高さだけ。
映画は、この現実から目を背けないで、取り入れていくべし。
個人的には、こんな作品が、日本でも、もっと作られることを、秘かに期待しています。
もちろん、ホラーでなくてもけっこう。
何年か先に、今の時代の映画を振り返るときに、この異様な日常が記録されていなかったとしたら、やはり不自然です。
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