映画「シン・ウルトラマン」2022年東宝
すみません。いまさら「シン・ウルトラマン」でございます。
今春ロードショー公開したばかりの映画ですが、庵野氏のことですから「シンエヴァンゲリオン」の時の例もあり、まちがいなく年内にはprimeビデオで無料配信されると踏んで、公開当時は、雨後の筍のようにアップされまくっていた、特撮オタク達の解説動画片っ端から見たり、本作に登場する怪獣(禍威獣)たちの、オリジナル・テレビ放映版のエピソードを再チェックしたりして、この日の来るのを虎視眈々と待ち構えていました。
そして、Amazonから届いたprimeビデオの新作配信紹介のメールに、ついに「シン・ウルトラマン」のタイトルが。
ありがとうございます。
早速、初代ウルトラマン現役世代のお勤めとして、居住まいを正して、鑑賞させていただきました。
これで再生回数を稼ぐんだという気合い十分で熱心な YouTuber たちの、ネタバレ全開の解説動画は、これまでも散々見ています。
ネタバレ上等。
なんといっても、こちらは、映画のネタ元になっている、オリジナル・テレビ版は、怪獣感性マックスの少年時代に、リアル・タイムで全作を体験していますので、いまさらネタバレもへったくれもありません。
登場する怪獣も、もちろんすべて、今でもハッキリ覚えています。
ですから、興味の全ては、それをテレビ放映から56年経った現在の設定に置き換えて、最新の映画技術でどう見せてくれるのかという、「シン・ゴジラ」を作った庵野・樋口コンビのセンス拝見、この一点に尽きます。
僕ら世代未満の若きYouTuber 達の中には、「シンエヴァ」に比べて、ラストのカタルシスがどうとか、「シンゴジラ」と比較して、人間の描き方が甘いとか、なかなかいっぱしの映画解説をしている方もいらっしゃいましたが、正直この映画に関しては、個人的には、そんなことはもうどうでもよろしい。
映画に重厚感をつけるために、社会的テーマ性を持ち込んだりしようなどという色気を持ち込むことも全く不要。
ある意味では、映画的な中身などは、ほぼ空っぽでもいいとも思っておりました。
とことん、ファンサービスに徹してくれれば、こちらはそれで十分に楽しめるのです。
僕ら世代の怪獣特撮オタクのトップランナーを走り続けてきた、庵野・樋口コンビの、旧作へのオマージュと、徹底的にマニアックなこだわりや思い入れが全編にあふれていてくれれば、こちらとしては、もうそれだけで本作には百点満点をあげていいし、下手に映画的に感動させられるよりも、細部のディテールや「お遊び」に凝りまくって、「なるほどそうきますか」と、最後の最後までニンマリさせられつづけてくれれば、それ以上何も望みません。
オリジナルを知っているという優越感がどこかにあるのかもしれません。
ウルトラマンが、にせウルトラマンの顔面にチョップして、「イテテ!」という仕草をするとこなんざ、こちらとしては思わずニヤリ。これ、オリジナルのテレビ版でもあったシーンです。
同時に「これ、わかるかな」という変な優越感も頭をもたげて、映画は一気に楽しくなります。
僕らと同世代の庵野・樋口コンビは、僕ら世代の特撮ファンために、この映画をリメイクしてくれるのだと、どこかで勝手に思っているようなところがあります。
初代ウルトラマンは、ストーリーはけっして子供騙しではなかったと思っていますが、やはり子供達を対象につくられたテレビ番組ではあります。
しかし、その頃の子供達も今では、還暦に手が届こうかという老年世代になっています。
中には、うるさ方もいるのでしょうが、今回の作品はそういうファンたちを、いかに納得させられるかという、作り手とのバトルという側面もあります。
科学考証や特撮へのリテラシーも、年齢を経ることで格段に向上しているファン達を、どうシラけさせないで、映画の中に引きずり込めるか。
このあたりも腕の見せ所というところでしょう。
とまあ、そんな魂胆で、本作を鑑賞いたしましたので、結論から先に申し上げますと、この一言ですね。
「庵野様、樋口様。ありがとうこぜえます!」
いろいろな感想もあるでしょうが、少なくとも、僕は十分に楽しませてもらいましたね。
もちろん、ウルトラマンは、初代以降も、その兄弟たちが光の国から次々にやってきて、日本を(地球ではなく)を怪獣や宇宙人の手から守ってきたわけですが、そのたくさんいるウルトラマンの中から、特に初代ウルトラマンにこだわって、ここまでのオマージュ作品を映画にしてもらえたことは、ほぼこの初代ウルトラマンとの付き合いしかない、最年長世代の怪獣オタクとしては、ラッキーでした。
正直に申せば、僕がもっともハマったのは「ウルトラセブン」なので、「シン・ウルトラセブン」までは、かなり期待したいところなのですが、「帰ってきたウルトラマン」以降になると、年齢的に怪獣オタクは卒業していますので、「シン・帰ってきたウルトラマン」となってしまうと、もうここまでは楽しめないと思います。
ついでに言うと、「シン・仮面ライダー」が、庵野氏の手により来春公開予定のようですが、これはすでに、もうオリジナルを鑑賞していませんので、「シン・ウルトラマン」までの思い入れはありません。
そう考えると、初代ウルトラマン現役世代ではないはずの、僕よりももっと若い世代のファンが、むしろ僕などよりもはるかに大きい熱量で、この映画を鑑賞しているのには、驚かされます。
おそらく、彼らはリアルタイムの、彼らの世代のオリジナル・ウルトラマンと、再放送の初代ウルトラマンを並行して見てきた世代だと思いますが、はたして、どちらのウルトラマンに対して思い入れがあり、どちらに対して軍配を上げているのかは、ものすごく興味のあるところです。
僕らの世代の悪い癖として、やはりもっとも優れているのは、あくまで初代オリジナルで、その後に登場したウルトラマンたちは、やはりシリーズ化を重ねていくほどに、垢にまみれて、定型化しマンネリ化し、子供番組化していくと決めてかかっているようなところがあります。
しかし、ウルトラマンは、僕らが子供時代に触れたからこそ、鮮烈で、後々までその印象が強烈だったように、後の時代の子供達にとっても、その時代に触れたウルトラマンこそが、彼らに、もっとも強烈な印象を与えているはず。
はたして、コンテンツとして、どちらが優秀なのか。これを正確にジャッジできるのは、僕ら世代のファンではなく、両方に触れている若い世代の人たちだと思うわけです。
これは是非とも確認してみたいところです。
僕が怪獣オタクだったのは、小学生時代までだったことは、ハッキリと覚えています。
中学生になると、怪獣映画はキッパリと卒業して、以降はマセた洋画ばかり、漁るように見るようになっていますね。
しかし、今時のアニメや特撮マニアたちは、いくつになっても一向にそこから卒業する気配はなく、けっこういい大人になっても、ファンでいることになんの抵抗もなくなっていることには羨望の念に絶えません。
オタクという資質も、僕らの頃には、できれば隠しておきたい後ろめたい素性でしたが、いまでは堂々とアピールできる立派な個性の一つになっていて、こういう風潮も、本作のような映画を下支えするひとつの要因になっているようだと思っています。
二十代から三十代にかけては、怪獣オタクであったことは、黒歴史として封印していた時期もありましたが、オタクの地位向上が顕著になってきた時流に乗っかるように、四十代以降になると、そのあたりはフルオープン。
ウルトラマンとウルトラセブンに登場する怪獣を全部語れるという特技は、むしろ前面に押し出せるようになりました。
ある意味では、肝っ玉の座っていない、意気地のない特撮怪獣オタクであったかもしれません。
ですので、オタクの王道をブレずに歩んで、本作を総監修するところまで登りつめた庵野氏には、素直にリスペクトを捧げたいと思う次第。
よくよく考えてみれば、僕のようなすでに齢63歳にもなる老人が、あの頃の子供のヒーロー「ウルトラマン」を映画として普通に見て、楽しんでいるわけですから、なかなか感慨深いものがあります。
空想特撮映画のクオリティが進化して、大人にも耐えられる映画になってきたということなのか、それとも見ている側の感性の子供化なのか。
とにもかくにも、アメリカでも、マーベル映画は、大人の心もしっかり掴んで、歴代興行収入を塗り替え続けています。
空想科学ヒーローものは、そもそもが映画の原点であったと再認識すべきなのかもしれません。
いずれにしても、子供の頃のヒーローが、子供映画としてではなくて、普通の一般映画として公開されて、今もなお、観客を喜ばせ続けているというのはなんとも痛快です。
トム・クルーズの「トップガン マーベリック」が大ヒットしていますが、37年も前に作られた前作に感動したファン達の、多くがこの作品を絶賛しています。
いったいどういう映画作りをすれば、旧作ファンの期待を裏切らずに、しかも新しいファンをも獲得することもできるのかという点においては、きっとどこかで本作との共通点があるような気がしています。
「マーベリック」の方は、まだprimeビデオでは無料配信にはなっていないようなので、こちらも是非ともよろしく。
本作を鑑賞して気がついた小ネタを、いちいち紹介していると、このブログが尋常ではない長さになりそうなので、これくらいにしておきます。
本作公開時にアップした、「シン・ウルトラマン」予習編のブログがこちら。
コメント