その後の「よろめきドラマ」の流行を作ったという意味では、昭和大衆史に残る作品です。
但し、三島自身は、その評価を受け入れつつも、自分の作品の芸術性は見過ごしてほしくはなかったようです。
『美徳のよろめき』は、人妻が結婚前の恋人と再会し、不倫に走るという物語。
映画化もされていて、小説の官能的な描写を忠実に再現しましたが、三島由紀夫の本来のメッセージはほとんど無視されました。
三島由紀夫は、人間の官能が精神にどう影響するかというテーマを探求していましたが、映画は単に肉体的な欲望を追求する人妻を見せることに終始しました。
人妻が不倫すること自体は、今でも珍しくありませんし、芸能人の不倫報道は、ネットにもゴロゴロ転がっています。
彼女たちが、美徳によろめいているかどうかは、知るよしもありません。
今でも若奥様たちが不倫することは少なくない気がしますが、それは美徳というよりは、単にモラルと責任感の欠落でしょうね。
快感に溺れるのではなく、美徳というものにによろめけば、そこに多少なりとも、芸術性が生まれる余地もあるのでしょうが、果たして、本能に忠実な多くの大衆は、それを求めているのかどうか。
三島由紀夫の小説の中では、本作は比較的大衆ウケした作品として、かなり売れています。
三島作品に抵抗がある人でも、本作は楽しめるかもしれませんが、三島由紀夫のコアなファンは満足できなかったかもしれません。
三島由紀夫自身は映画化作品を「愚劣」と切り捨てたようですから、もしも映画ほ見たという方がいらっしゃいましたら、是非そのお口直しに、本作を読まれることをお勧めいたします。
あなたの不倫が、芸術に昇華される可能性がありますよ。
よろめくのもいいですが、どうかほどほどに。
コメント