市川崑監督の、新旧「犬神家の一族」を一気に見ました。
同じ監督が、同じ脚本で作ったリメイク。
ヒッチコックなども、「暗殺者の家」などは、後に「知りすぎた男」(原題は同じ)としてリメイクしていますが、これは脚本は別物。
30年の年月を経て、同じ監督が、同じ脚本、ついでに同じ主演者で、映画を撮ると、どういうことになるのか。
ちょっと面白かったので、日曜日の昼下がり、この新旧「犬神家の一族」を、主にキャストに的を絞って、いろいろと比較検証してみることにいたしました。
当然ながら、これまったくの僕の独断と偏見ですので、そのあたりはご了承くださいませ。
ではまいりましょう。
まず、製作年。これを確認しておきます。
旧作は1976年。リメイクは2006年。
旧作は、角川春樹事務所の第1回映像作品。公開当時は、鳴り物入りで大ヒットを記録しました。
まず、監督。
旧作は、当時61歳の市川崑監督。
新作は、先日亡くなられた、この時、91歳の市川崑監督。
高齢にもかかわらず、これだけの作品を作り上げたエネルギーには敬意を表しますが、やはり、僕としては、旧作のインパクトがいまだ強く、これは脂ののりきった61歳の市川監督の勝ち。
次は、主演の金田一耕助。
旧作は、当時35歳の石坂浩二。新作は、65歳になった石坂浩二。
石坂は、新作の方でも30年前と同じように、ワイドスクリーンを全速力で走っていたのはさすが。
石坂本人曰く、「今回の金田一は55、56歳のイメージで、そこまできた彼の人生を考えた上で演じたつもり。」
いずれにしても、時の流れを感じさせない彼の「若さ」に敬意を表して新作の勝ち。
ヒロインの野々宮珠世。
旧作は、当時23歳の島田陽子。新作は、33歳の松嶋菜々子。
松嶋は、実生活ではすでにママになっていて、この映画のヒロインとしては、少々歳を食っている感はありますが、まあ映画ですから、許容範囲でしょうか。
松嶋のキャスティングは、本作製作の条件として、プロデューサーの一瀬が監督に対して強行に主張したという経緯もあって、多少の無理は承知というところだったかもしれません。
まさか、53歳の島田楊子を起用というわけにもいきませんよね。
僕にとっても、女優としての「華」は当時の島田よりも、松嶋の方が上と見て、この勝負は松嶋に軍配を上げます。
では、犬神家の人々にまいりましょう。
まず、犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛。
旧作では、三國連太郎。新作では、仲代達矢。
俳優としてのネームバリューは、いい勝負でしょう。
ただ、旧作の三國は、当時53歳。役柄的には、かなり濃厚な老けのメーキャップをしていて、ちょっと本人とはわかりづらい。
昔の写真の中で、かろうじて、誰もが三國とわかるカットがあるのみ。ちと、もったいない気がしました。
新作の仲代も、かなりこいメーキャップでしたが、こちらは黒澤監督の「乱」などで、目が慣れていたせいか、はっきりと仲代だとわかりました。
これは新作の勝ち。
佐兵衛の長女・犬神松子。
旧作は、高峰三枝子。新作は、富司純子。
これは、甲乙つけがたいかな。いい勝負で、ドローにしておきましょう。
佐兵衛の次女・犬神竹子。
旧作は、三条美紀 。新作では、松坂慶子。
女優としての「華」ならば、松坂ということになりましょうが、ここでは母親役。
リアルさをとって、旧作に一票。三条の勝ち。
佐兵衛の三女・犬神梅子。
旧作は、草笛光子 。新作では、萬田久子。
これも同じ理由で、旧作の勝ち。
ちなみに、映画当時の実年齢としては、実は松坂、万田の方が、三条、草笛よりも上なんですね。
映画のマジックです。
次は息子たち。
松子の一人息子・犬神 佐清。
傷を負ったとして白いマスク姿で復員。 宣伝で効果的に使われていたのはこの人のマスク姿でした。
旧作では、あおい輝彦。新作では、尾上菊之助。
見た印象では、尾上の方がかなり若く見えたのですが、映画当時の実年齢は、28歳と、29歳でほぼ一緒。
これは、独断と偏見で、旧作あおいの勝ち。
ちなみに、尾上の母親役の富司純子は、実際にも尾上の母親です。
竹子の一人息子・犬神佐武。
菊人形に生首を晒されてしまう役ですが、旧作では、地井武男。新作では、葛山信吾。
ごめんなさい。残念ながら、この葛山信吾という方を、あまり存じ上げないので、これは、「北の国から」ファンのよしみで、地井武男の勝ち。
地井さん、当然ですが、まだ若い!
梅子の一人息子・犬神佐智。
旧作では、川口恒。新作では、池内万作。
これは、芸能界サラブレッド対決。
川口恒の父は、作家で大映専務の川口松太郎、母は女優の三益愛子。
お兄さんは、あの川口浩探検隊長。
妹は、この映画で、竹子の娘で、佐智の婚約者役で出演している川口晶。
一方、池内万作の方は、父は伊丹十三、母は宮本信子。
これだけで比べれば、ちょっと川口家の顔ぶれの方が凄そうですが、当の川口恒は、この映画の2年後に、大麻不法所持で逮捕されてしまってるため自爆。
自動的に、池内万作の勝ち。
竹子の長女。犬神小夜子。
旧作では、前述の通り、川口晶。新作では、奥菜恵。
映画の中で、この役は「悲鳴」担当でしたが、いろいろあったとはいえ、やはり単純に、奥菜恵の方が可愛いので、新作の勝ち。
ちなみに、映画後半、気がふれて登場するシーンで、旧作の川口が抱いていたのは蛇。新作の奥菜が抱いていたのは蛙でした。これは、どちらも偉い!
さて、オールスターと銘打ったこの映画では、犬神家周辺の人々のキャスティングも多彩で豪華でした。
まず、佐兵衛の遺言を預かる、犬神家の顧問弁護士・古館。
こちら旧作では、小沢栄太郎 。新作では、中村敦夫。
中村は、市川監督とは、「木枯紋次郎」つながりですが、あのかっこいいアウトローぶりのイメージが強くて、この役の「しょぼくれ」「くたびれ」感を出すにはちと無理があった感じ。
ここは、芸達者な小沢栄太郎 に軍配。
この事件を担当する那須警察署署長・等々力。(旧作では、橘警部)
こちらは、旧作は、当時47歳の加藤武(え、今の僕より年下かい)。
そして、新作は、77歳になった加藤武。
あの「よし、わかった」の短絡的イメージが強いですが、どこか憎めないキャラですね。
これは、若き日の加藤に一票をいれておきましょう。
77歳の加藤は、この役としては、いかにも歳をくったかんじでした。
そして、同じ役者が、同じ役をやったもう一例。
犬神家の重要な秘密を知る那須神社神官。
この役は、新旧共に、大滝秀治。
旧作当時の彼は、51歳。新作のときは81歳でした。
81歳の彼は、確かに歳はとっておりましたが、この役のあのとぼけた味わいは、しっかり出していて違和感なし。
これは新作の勝ち。
金田一が宿泊する那須ホテルの主人。
これは、旧作では、この「犬神家の一族」の原作者である横溝正史 。
新作の方は、脚本家・三谷幸喜。(この映画の脚本は書いていない)
これは、横溝正史 の勝ちにしておきましょう。
三谷幸喜は、ちょっと役作りしすぎて、これも自爆。
那須ホテルの女中・はる。
この役は旧作では、当時23歳の坂口良子 。新作は、このとき24歳の深田恭子。
可憐さでいえば、いい勝負ですが、ここは、バストの差でフカキョンの勝ち。
柏屋という宿の主人・久平。
これ旧作は、永谷園のコマーシャル(古いかなあ)でおなじみの三木のり平。
新作では、林家木久蔵。
これは、どうみても、三木の方が芸達者で役者としては一枚も二枚も上。
旧作の勝ちです。
その女房役の方は、旧作は、ちょっと知らない沼田カズ子という 素人っぽい女優さん。
新作の方は、大女優?中村玉緒。
これは、中村玉緒に軍配を上げなければ怒られますね。
あと、特筆しておくべき役として2つほど。
娘にお金の無心にくる長女松子の母親・お園役。
この役を、30年後の新作では、旧作で次女竹子を演じた三條美紀 が演じています。
彼女がこの役を演じたことで、旧作よりもセリフが増えていましたから、これは新作の勝ち。
そして、金田一に事件の重要な助言をする、松子の習っているお琴の盲目の師匠。
旧作では、この役を演じたのは、ムーミンの声でおなじみの岸田今日子。
この役を、新作では、1976年度版で梅子を演じた草笛光子が演じました。
しかし、この役は、僕の評価では、岸田の盲目演技の方が板についていましたね。
草笛は、盲目役の割には、まぶたの後ろで眼球が動きすぎ。
これは旧作の勝ち。
まあ、それにしても、このあたりのキャスティングは、旧作を見ているファンへの粋な計らいというべきでしょうか。
こちらとしては、ニンヤリです。
なお、草笛は、この役をもって、いまのところ、石坂主演のシリーズ全作品に出演を果たしています。
ちなみに、岸田は、本作の封切の翌日である2006年12月17日に死去。合掌。
さあ、完全に「お楽しみ」モードでしたが、僕の独断と偏見による、新旧対決はこんな結果とあいなりました。
数えてみたところ、新作8勝。旧作10勝。引き分け1。
以上、「犬神家の一族」新旧比較対決は、1976年度版が、辛くも勝利という結果でした。