「カッコーの巣の上で」
1975年のアカデミー賞主要5部門をガッチリと勝ち取ったミロス・フォアマンの傑作ですね。
「映画オタク」としては、当然のことながら、学生時代に見ていた映画です。
超管理主義の婦長を演じるルイーズ・フレッチャーの憎憎しさ。
詐病の精神患者を演じる、ジャック・ニコルソンの圧倒的な演技力。
次第に存在感を増してくるネイティブ・アメリカンのチーフ。(原作では彼が主人公)
当時の印象で残っているのは、こんなところだったでしょうか。
そして、時は流れて30年。
当時は、大学生であった僕も、いまや、50歳に手が届こうという中年オヤジになりました。
この名作を今回DVDで再見してみましたが、印象も感想もかなり違ったものになっていましたね。
まず、今回再見して楽しめたのは出演者です。
「え、うそ。あの役者が、出てたんだ」というサプライズが結構ありました。
今改めて見直すと、(当然ながら30年前は気がつかなかったけれど)、この映画の中で、精神病患者を演じた役者の中に、けっこう見たことのある「顔」があったんですね。
これ、昔の映画を再見する楽しみのひとつです。
まず、患者フレドリクソンを演じたヴィンセント・スキャヴェリ。
彼は、ちょっと田中邦衛を大男にして外人にしたような個性的な風貌で、チョイ役でもかなり印象は残すシチリア系のアメリカ俳優。
その後の出演映画で、一番有名なのは「ゴースト/ニューヨークの幻 」でしょうか。
地下鉄構内に出没する幽霊を演じていたあの人です。
それから、ダニー・デヴィート。
とても小柄な俳優で、この方も個性的で一目瞭然。
「ロマンシング・ストーン/秘宝の谷」や、シュワちゃんとの双子の兄弟を演じた「ツインズ」 で顔を売った方ですね。
「ローズ家の戦争」では、監督もこなした才人。「バットマン/リターンズ」などにも出演していました。
そして、それからもう一人。
患者テイバーを演じていたのがクリストファー・ロイド。
この名前を聞いてピンと来た方は、けっこういるのではないでしょうか。
僕も、絶対どこかで見たことがある顔だと思ったのですが、映画半ばまで、これがなかなか思い出せないでイライラしておりました。
しかし、あの目を剥き出してニンマリする表情をみた瞬間に頭の中の豆電球が点灯。
「おお、あなたでしたか」
そう、このクリストファー・ロイドは、あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 で、ドクを演じていた方でした。
3名とも、この「カッコーの巣の上で」以降は、個性派俳優としてブレイク。
今改めて見直すと、どちら様も、達者に、精神病患者を演じておりましたね。
「カッコーの巣」というのは、アメリカのスラングで、精神病院の蔑称。
カッコーという鳥は、ホオジロやモズの巣に自分の卵を産み落とし、彼らに自分のヒナを育てさせるという調子のいい鳥なんですね。これを「托卵」というそうです。
ホオジロやモズは、このカッコーの親鳥の「策略」に気づかずに、カッコーのヒナに餌を与え、ヒナも、彼らを親だと思って餌を受け取る。
つまり、居るべきはずではない場所にいてそれを疑わないヒナには、ある種の洗脳がなされているというわけです。
そしてこれは、この映画の舞台となる精神病院とも、相通じる部分がある。
この映画のタイトルに込められたテーマです。
さて、この映画を引き締めたのは、なんといってもルイーズ・フレッチャーです。
最後までニコリともしない冷徹な婦長ぶりは、この映画をきっちりとしめ、彼女はこの演技で、この年のアカデミー賞主演女優賞を獲得したのですが、今回この映画を見直してみて、彼女に対する「感想」が大きく違ったものになっていたのが、自分としては感慨深かったですね。
まだハイティーンであった30年前の僕から見たこの婦長は、ただただ、ひたすら憎らしい「権力の権化」みたいなモンスターに見えたものですが、今回見た感想は、あの頃見た感想とはかなり様子が違いましたよ。
「いやあ、婦長さん。あなたも辛いところだね。こんな厄介な患者がいたら、神経擦り減るよねえ。
わかるわかる。
何も好き好んで、いつもそんな怖い顔してるわけじゃないだろうにねえ。」
権力に過激に抵抗したジャック・ニコルソン演じるマクマーフィに拍手喝采を送った10代の青年(これワタクシ)は、いつのまにか、そんな彼よりも、自分の管轄する部署で、自殺者を出してしまった婦長様の責任問題を案ずる40代の中年になっておりましたとさ。
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