この映画の中には、ビリー・ワイルダーらしい演出の妙と申しましょうか、「小技」がけっこうちりばめられています。
特に、ストーリーの伏線になっているというわけではないのですが、見事に「映像的」なアクセントになっているような演出ですね。
僕が、おもしろいなと思ったシーンが、主人公二人が出会う、戦中のドイツの酒場のシーンにありました。
マレーネ・デートリッヒが歌う地下の酒場に、フラリと現れたタイロン・パワー。
突然ドイツ軍の兵士がなだれこんできて、酒場は騒然とします。
タイロン・パワーは、地下の酒場で、むき出しになっている太い配管の上に、飲んでいた酒のグラスをそっと置くんですね。
そして、大混乱になっている酒場から一時避難。
でも、たったこれだけのカットで、彼はまたここに戻ってくるということが「映像的」にわかるんですね。
そうこうしているうちに、騒動は収拾し、彼は、メチャメチャに荒らされた酒場に、彼はやはり戻ってきます。
このとき、酒場に戻ってきた彼を捉えるカメラは、天井からのショット。
画面のほぼ真ん中に、配管が見えており、その上に、さきほど、タイロン・パワーが酒場を退散する際にそっと置いた酒のグラスが、ちょこんと置いてあるカットです。
この配管の上に置いてある酒のグラスを、タイロン・パワーは、まるでその場所が見えているかのごとく、探すような手つきは一切せず、配管には、一瞥もくれずに、下からさっと手を伸ばして、鮮やかにそのグラスを取って、そのままグビリ。
そして、マレーネ・デートリッヒに声をかけるというシーンです。
こう説明してしまうと、特になんていうこともないシーンで、特にストーリー的な意味があるというわけではないのですが、この演出がなんとも小粋で、僕としてはおもわず「ニヤリ」です。
「このシーンを撮るのに何回取り直したかな」とか、カメラからは見えない配管の下側に、きっと目印をつけたにちがいない違いないとか、映画マニアとしては、そんな裏方の事情に思いをめぐらせておりました。
こういう演出というのは、ひとえにセンスなんですね。
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