面白い映画とは、こういうふうに作るんですよというお手本のような映画ですね。
ビルを壊さなくても、
エイリアンに攻撃されなくても、
車がロボットに変身しなくても、
しっかりとした脚本と演出があれば、映画は如何様にでも面白くなるということです。
「情婦」は1957年製作のアメリカ映画。
アガサ・クリスティの戯曲『検察側の証人』を原作とする法廷ミステリーの古典にして、今尚色褪せない偉大なる傑作といえましょう。
脚本・監督は、まさに脂の乗り切った頃の名匠ビリー・ワイルダー。
ラストの二重のどんでん返しは、つとに有名ですが、ここで語るのはヤボというものなので置いておきましょう。
エンドクレジットで、「まだ見ていない人の為に、結末は言わないで下さい」というナレーションがはいるのも、このラストが、映画的に見事だからこそ。
「サプライズ・エンディング」としては、文句なしです。
しかし、それにしても、この傑作につけた邦題の「情婦」というのはいただけなかった。
主演の、マレーネ・デートリッヒのイメージと、このタイトルで当時のスケベファンたちの足を映画館に運ばせようという魂胆だったのでしょうが、映画を見てもらえばわかるとおり、このタイトル自体が「ネタバレ」すれすれのヒヤヒヤものです。
これは、原題そのままの『検察側の証人(Witness for the Prosecution)』の方が、はるかにセンスがあろうというものです。
いずれにしても、原作者アガサ・クリスティが、自作の映画化作品としては、この作品が一番のお気に入りだったというのもうなずけます。
では、いろいろな「仕掛け」満載のこの映画の中から、まずは「ドキリ」ときたあたりを紹介しましょう。
この映画の、おもわずドキリ。
これはやはり、なんといっても主演のマレーネ・デートリッヒの、脚線美でしょう。
彼女が、自らのその脚線美に対して、莫大な保険をかけていたというのは有名なお話です。
この映画の中にも、全世界の男性を魅了してきた、黄金の脚線美が、相手役のタイロン・パワーとの、回想による出会いのシーンで登場します。
戦時中のドイツの酒場で、アコーディオンを抱えて歌うのが、酒場の歌姫マレーネ・デートリッヒ。
サービス精神旺盛な、ビリー・ワイルダー監督が、ヒロインのマレーネ・デートリッヒが歌い、そしてその脚線美を披露するために設定したとしか思えないようなシークエンスになっております。
しかし、それよりもなによりも、驚かされるのが、この映画撮影当時のマレーネ・デートリッヒの年齢ですね。
彼女は、1901年生まれですから、この時すでに57歳。
57歳にして、このシーンが撮れるのですから、映画女優とはいかに恐るべき「生き物」かといいたいですね。
相手役のタイロン・パワーは、この映画撮影時で43歳。
ですから、実年齢で申せば、マレーネは、タイロン・パワーよりも14歳も年上。
それよりもなによりも、老獪な老弁護士を演じた、チャールズ・ロートンと、マレーネが、実年齢で、2歳しか違わないというのが、なんともサプライズではありませんか。
マレーネ・デートリッヒ恐るべし。
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