今から10年ほど前にハマっていた短歌。時事川柳。
当然 iPhone は持っていませんが、この頃からボイスレコーダーは常時携帯して、
頭のなかで組み立てた五七五が、まとまるたびに録音していました。
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平成十四年一月
年明けて最初の夕暮れ遠き富士シルエットにして空染まりゆく
数の子や黒豆伊達巻栗きんとんそろそろ飽きてカップラーメン
双六もカルタも独楽も凧揚げもテレビの向こうに見かけるばかり
お正月気分もムードもそこそこに街は早々平常営業
友からの家族写真つき年賀状背の順去年と入れ替わりけり
つまらない成人式もちゃんと聞くそれが大人になるということ
ISO取るぞと社長が意気揚げてUSO!と社員が目を丸くする
縁側にペタンと座り幼子が物干しかすめる陽射しと遊ぶ
窓の下校庭走る球児たちじっと見下ろす介護病棟
指先に届くくらいに吸う煙草父穏やかに陽だまりの中
レインボーブリッジ走る冬の夜こぼれた星が地上で光る
やることが山積みのはずの日曜日テレビ消せずに半日消える
メールなら四十を過ぎたオジサンが照れるでもなく愛など語る
パソコンが逆立ちしても出来ぬこと手抜きすること忘れ去ること
高速で眠気覚ましのミスチルが一月の空に躍り出てゆく
初富士や新しき世紀その初日なにはともあれ晴れではじまり
不景気や正月気分もそこそこに営業中の文字街のそこここ
服に落ちきれいに拭いてもまた浮かぶ歯磨きチューブの憎らしさかな
三が日明けて成金小学生銀行の前で通帳ながめ
北国の土産を屋根に十トン車山の向こうの雪模様知り
めでたさが中ぐらいなら上等でこのご時世はそれでよしとす
平成十三年一月
初雪やシャベルの音で目を覚まし休日の朝でほっと一息
デイパックつま先歩きでバス停へいざ雪積もる露天風呂へと
チェーン巻く山行きのバスに小学生「お願いします」と運転手に言い
終点に降り立つ客は我一人尻焼温泉本日貸し切り
せき止めた川一面の露天風呂凍てる空へと湯気上りけり
口笛を吹きつつ慣れた足取りで湯に入る人見て我も服脱ぎ
カモシカや猿や狸を観客に我山の湯の風景となる
山降りるバスが来るまで土産屋の老婆とこたつ挟んで過ごす
訳もなく心踊った雪景色少年の日を懐かしみつつ
~群馬県尻焼温泉にて
面倒くさい後でやろうと思ってもまず後でなど出来た試しなし
成人は大人になるというよりもそれより前に人と成ること
冬の午後子猫一匹膝の上鏡開きの雑煮一杯
女子高生コートの下が生足で寒くはないかと聞くのは野暮かな
陽射浴び憐れ都会の雪だるま溶けて汚れて余命幾ばく
霜模様車のボディをキャンパスに冬の天使の絵心みたり
西の空森を焦がして雲を焼き富士紅く染め燃える日没
鰤鮪河豚牡蠣海鼠鱈鮟鱇湯豆腐寄鍋冬の食卓
(ぶりまぐろふぐかきなまこたらあんこうゆどうふよせなべふゆのしょくたく)
縁側でねんねこ羽織り幼子をおぶった老婆が日向ぼっこし
荒涼と寒風抜ける霜枯野凛と一輪咲く冬薔薇
氷点下水道破裂交通マヒ救急車がゆき寒波襲来
国境の長いトンネル越えずとも本日関東一円雪国
雪野原いつもの餌場が豹変し鴉が一羽あたりを見回す
しくしくがずきずきになる夜明け前歯医者嫌いの自業自得よ
上司から今日の仕事は中止という夢で起きれば寝過ごしており
知人から癌と戦う意志聞いて「頑張れ」としかないもどかしさ
気がつけばどこもかしこも電子音何が鳴ったかあたりを見回す
また降れば三度休みに救われて今年の雪は相性がよし
週末の雪でいつもの娘らが高底あきらめズックでおでかけ
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