どうです。このタイトルのなんと扇情的にことよ。
1959年に製作された新東宝の映画です。
僕の生まれた年の製作ですから、今から55年も前の作品。
新東宝という映画会社は、設立当初は、名だたる映画監督に文芸路線の作品を
作らせていましたが、これにまったく客が入らない。
会社が傾きかけたところで、あのワンマン経営で名を馳せた、大蔵貢社長が就任。
大衆ウケを狙った、エログロ路線に映画作りを変更。
多くの監督や俳優には去られましたが、会社の経営はこれで黒字に立て直しました。
とにかくポスターを眺めている限りは、このキワモノのエログロ路線は、
映画史に残る名作のポスターよりも、はるかに面白い。
僕のようなすけべ映画ファンとしては、ニヤニヤしっぱなしです。
街角に、こんなポスターが貼ってあったら、まず見に行きたくなりますね。
特に、この「人形佐七」シリーズは、白眉。
ちょっと目が離せません。
「人形佐七」というと、僕の世代で覚えているのは、林与一が主演したテレビドラマ。
1970年代の初期です。
まさか、あの頃のドラマに、「鮮血の乳房」なんていうサブタイトルはついていなかったでしょうが、
当時の映画の佐七シリーズは、かなりアグレッシブでしたね。
シリーズには、他にも
「妖艶六死美人」
「裸姫と謎の熊男」
「血染の肌着」
「浮世風呂の死美人」
などなど、男たちのスケベ心を煽るような作品タイトルがズラリ。
この映画の主演の、中村竜三郎という俳優は、僕は存じ上げませんでしたが、
他にも、まだ水も滴るイケメンだった頃の、若山富三郎。(勝新の実兄)
シリーズ第一作限りでは、嵐寛十郎なんていう大スターも佐七を演じています。
人形佐七の原作は、あの金田一耕介シリーズで有名な横溝正史。
日本の田舎に伝わるおどろおどろしい風習を巧に事件に結びつける
彼の作風は、当時の新東宝の目指す路線とは相性がよかったようです。
しかし、この映画の横溝の原作のタイトルは、「やまぶき薬師」。
この原作タイトルを、「鮮血の乳房」というタイトルに改題させたのは大蔵社長。
この人は、もともとサイレント映画時代の弁士をやっていた人で、とにかく
映画は、徹底した大衆娯楽作品で、「見世物」として徹底させた人です。
今のAV作品でも通用しそうなB級テイストのタイトルは、この人のセンスによるところが
大きいといえます。
とにかく、この大蔵社長の、映画界に与えた影響は功罪ありますが、
黒澤明や、溝口健二、小津安二郎といった、世界に誇る映画監督の名作とは、
別の次元で、当時の日本の映画産業を支えていたことも、また事実。
興行的には、大コケをすることも多かった芸術作品はバッサリと捨て、
映画を確実に当てるのは、エログロ路線しかない、うちはこれで行くと言い切って
会社の舵を切った人です。
この人は、なにかと物議をかもす発言をしたことでも有名で、
当時の新東宝の看板女優を、自分の愛人にしていることをマスコミに詰め寄られ、
「映画女優を妾にしたのではなくて、妾を映画女優にしただけだ。」
と、のたまったというのは有名なお話。
歌手だった実弟の近江敏郎に、そのヒット曲の「湯の町エレジー」の監督させたり、
新東宝の女優たちを、銀座の店に呼び出して、客の接待をさせたりといった公私混同の
話題には事欠かなかった人。
しかし、最終的には、新東宝は倒産しました。
全国に多くの映画館を所有していた大蔵社長は、その後もオークラ映画として、
ピンク映画やポルノ映画をチェーン展開して、この路線で生き残っていきます。
スケベ映画ファンとしては、後のオークラ映画のポルノ作品は何本も見ていますが、
やはり今見たいのは、なんといってもこの時代の作品。
おそらく見れば、なんだよこんなもんかという感想になるのだと思いますが、
少なくとも、こうやって当時のポスターをイラストになんぞしてみると、見てみたい想いは募りばかり。
それくらいのパワーを、このポスターからは感じてしまいます。
TSUTAYA でもレンタルされていなければ、amazon でも売っていない。
ましてや、BSの映画放送で、こんな不道徳な映画タイトルの映画が、
放映される可能性はほとんどないとなれば、これは余計ですね。
この頃の新東宝の作品に多く名を連ねている若かりし頃の宇津井健や菅原文太の、
あのアクの強い演技は、この頃の新東宝エログロ路線で鍛えられたことはいうまでもありません。
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