amazone プライムビデオで鑑賞。
2010年の作品。監督は園子音。
公開当時から、でんでんの悪役っぷりが、ハンパじゃないという評判は聞いていました。
映画史上、最強の凶悪犯と讃えた映画評もあり。
以前から気になっていた、映画でした。
モデルになったのは、「埼玉県愛犬家連続殺人事件」。
これも、相当常軌を逸した犯罪でしたが、内容はこの事件のあらましをほぼ踏襲しています。
とにかく、殺した死体をバラバラに切り刻んで、山奥に捨てる。
内容がこうですから、この映画の扱いがスプラッターホラーになるのも無理ならざるところ。
しかし、映像のインパクトはそれにしても、これは立派に人間の暴力性の深層に切り込んだ人間ドラマとみるべきでしょう。
さて、その問題のでんでんの演技。
調子のいい、人当たりのよさそうなオッサンが、一皮むけば凶悪犯。
その白黒がボーダーレスで混在しているあたりのキャラを、絶妙なリアリティで演じていました。
確かに、このでんでんの存在感で映画はグイグイと引っ張られます。
そのでんでんが、主人公。社本に逆襲されて、メッタ刺しにされるシーン。(ネタバレで申し訳ない)
この人のセリフはこうでした。
「あ、やめて、社本さん、ちょっと痛い。」
殺される側のこんなセリフ聞いたことがない。
けれど妙にリアル。
しかも、このセリフがラストの主人公の雄たけびにも、ちゃんとリンクしてきたからお見事。
その昔、ピンのスタンダップコメディアンだった彼の芸歴をよく生かしたキャスティングといえましょう。
さて、主人公の方は、吹越満。
でんでんの怪演で、確かにかすんでしまった感がありますが、彼も頑張っていました。
小心者の市井の善良な市民が、圧倒的な暴力の渦の中に巻き込まれて、自分の内なる暴力性を爆発させる。
この豹変ぶりは、あのサム・ペキンパー監督の「わらの犬」のダスティン・ホフマンを彷彿。
映画としては、こちらの方をクライマックスにしたかったはず。
しかし、ここでも殺されるでんでんの方に軍配が上がってしまいました。
その主人公の妻を演じたのが、神楽坂恵。
この映画の後で、監督の園子音と結婚することになりますから、彼女としてもここはハリキリどころ。
その見事なバストを惜しげもなく披露し、男優たちに、好きなように揉まれる熱演。
亭主になる男の映画に貢献しようという女の気合が感じられました。
新藤兼人監督の映画で、あの当時ヌードになることも厭わなかった乙羽信子を思い出させます。
彼女が、その大サービスで、この映画のエンターテイメントポイントに貢献したのは確か。
なにせ、元グラビア女優です。
彼女目当てに、この映画を見に行ったファンも相当数いるでしょう。まあそれはそれ。
しかしです。
それよりも誰よりも、僕が心を奪われたのは、凶悪犯・村田の妻を演じた黒沢あすか。
映画のラストでは、完全に彼女にくぎ付けになってしまいました。
彼女は、この映画の撮影当時40歳前後。
かなりいいオバサンではあります。
彼女、登場シーンでは、ド派手で、淫乱系を前面に押し出したキャラ。
色仕掛けで男をたぶらかす役どころ。
この凶悪犯罪のすべてにパートナーとして参加しているド悪女が彼女。
あ、こりゃ早いうちに殺されるなと思わせました。
しかし、その彼女、主人公が夫をメッタ刺して、突っ走り出すあたりから、様子が変わりはじめます。
彼女は、この主人公に一気に従順になっていくんですね。
このあたりの変わりっぷりが、やっていることは相変わらずエグイ死体バラバラなのに、なぜか異様に可愛く、エロい。
これを理屈の吹っ飛ぶところで体現した黒沢あすかは見事でした。
僕としては、最後は彼女が主演ではなかったのかと思ってしまったほど。
黒沢あすか。それまで、聞いたことのない女優でしたので、Wikipedia で思わずチェックしてしまいました。
「あすなろ白書」の不良少女役と書いてありましたが、覚えてないなあ。
いずれにしても、園子音恐るべし。
俺が作るのに、あたりまえの、展開が予想される予定調和の映画なんて作ってたまるかというスピリッツに満ち溢れた作品。
楽しませてもらいました。傑作です。
、
コメント