これは見事でした。
高木姉妹のお姉さん、高木菜那の堂々の金メダル。
種目は、本大会から採用された「スピードスケート・マススタート」
彼女は見事、この種目のオリンピック初代チャンピオンの栄冠を勝ち取りました。
マススタートは、クロス・カントリーやバイアスロンなどでは、もうすでにお馴染みのスタート形式。
エントリーする選手が、スタートラインから、一斉に一丸となってスタートするタイプのレースです。
これが本大会から、スピードスケートにも採用されました。
この種目は、一周400mのリンクを16周して、その着順を競うレース。
途中のラップタイムでも、得点は加算されますが、メダルを狙うならあくまで決勝レースの着順です。
勝敗はタイムではなく、あくまで着順となりますから、レースの醍醐味はなんといっても、その駆け引きです。
マークする相手の様子を伺いながら、レース途中では体力を温存し、ラストの勝負どころで、いかにスパートしてゴールできるか。
この種目に必要なのは、レース展開を読む力と、勝負どころを逃さない判断力。
日本からもう一人参加した佐藤綾乃は、準決勝でトップを狙おうとした瞬間、先を行く選手の転倒に巻き込まれてまさかの準決勝敗退。
二人ともに決勝に出場していたら、日本お得意のチームプレイで、協力してレースを作り、そのまま揃ってワンツーフィニッシュというのも夢ではなかったかもしれません。
その可能性を思うと、佐藤のアクシデントはまことに残念でしたが、それでもですよ、高木菜那は一人でも頑張りました。
パシュートはチームワークの金メダルでしたが、これは完全に高木菜那の個人技。
解説の人はこういっていました。
「いやあ、びっくりしました。」
アナウンサーはこうです。
「なんと、なんと、金メダルです。」
おいおい、なんですかそれは。
それじゃまるで、彼女の金メダルは、予期していなかったようではないですか。
失礼な。
確かに彼女はスプリント力では、オランダの選手や、妹の高木美帆には敵わないかもしれません。
身長も、選手たちの中では超小柄な155㎝。
大会8日目。完全タイム勝負の女子5000mでは、彼女は12位でした。
このレースの他のメダル候補者と比べても、タイムだけで言えば、彼女の記録はそれほど良いわけではない。
しかし、その彼女がどうしてこのレースで勝てたか。
答えは明快です。
彼女には、このレースで勝つべきスキルがちゃんと揃っていた。
これはまぐれでもなんでもなく、勝つべくして勝った。
そんなレースだったと思います。
レース後のインタビューで彼女こういっていました。
「オランダの二人の選手が仕掛けてくるのはわかっていたので、しっかりとマークして後についていたのがよかった。」
実は、ここに彼女の光る技術がありました。
それは、彼女がパシュートの練習の中で習得した技術です。
彼女は、どんな選手の後にでもピタリとつけ、空気抵抗を最低限におさえて、体力を温存しながら滑ることができる。
この技術において、おそらく彼女は世界一です。
彼女の身長の低さも、このスキルにおいては、プラスに働きます。
この技術があったからこそ、金メダルをとったパシュートでは、彼女が先頭になったときには、個人種目の時以上のスピードを爆発させることができた。
この技術を彼女は、このレースで存分に活かしました。
レースをチェックすると分かりますが、彼女は常に先頭集団にいて、前を行く選手の背後にピタリ。
完璧な省エネ滑走で、レース終盤の勝負どころを虎視眈々と伺っていました。
そして、鐘がなりラスト一周。
仕掛けてきたのは、やはりオランダのイレーネ・シャウテン。
加速するシャウテンの後ろにつき、すぐ後ろにいる韓国のキム・ボルムを牽制します。
そして、最終カーブ。
高木菜那は、コーナリングでシャウテンが、外に膨らんだ、その一瞬の隙を逃しませんでした。
ここで彼女は、迷わずインに切り込み、温存させていたパワーを爆発させて一気にスパート。
追うシャウテンと、キム・ボルムを振り切って、そのまま、金メダルのゴールへ駆け込みました。
あそこから、まだもう一周あったとしたら、おそらく彼女は、捕らえられていたかもしれない。
まさに、スパートは、あの瞬間しかなかったといえます。
彼女の巧みなレース運びと、勝機を逃さなかった判断力が、オリンピックの女神の微笑みを導いた快心のレースでした。
このスピードスケートの、マススタートという種目は、まさにオリンピックが、彼女のために用意してくれた舞台といってもいいかもしれません。
これで、団体パシュートに続き、彼女の金メダルは2つ目。
拍手拍手。
さて、これで日本の金メダルは四個。
銀メダルが五個。
銅メダルが四個。
これは、過去最高だった長野オリンピックを抜いて、オリンピック史上最高獲得数となりました。
日本のメダリストたちに、改めて敬意と感謝の意を表したいと思います。
ありがとうございました。
そして、お疲れ様。
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