1962年のアメリカ映画です。
Amazon Prime のラインナップに、ありましたので、 iPad で鑑賞。
主演のグレゴリー・ペックは、この作品で、アカデミー賞主演男優賞受賞。
アメリカ映画史に燦然と輝く、ヒューマンドラマの傑作です。
この映画、実は見たものとばかり思っていました。
しかし、今回が初見であったことは見終わって判明。
学生時代に、名画座巡りをした中で、鑑賞しているはずだとばかり思っていましたが、完全に思い込みでした。
同じ、グレゴリー・ペック主演の「子鹿物語」と混同していたようです。
記憶にあった法廷のシーンは、何かで見た「名シーン特集」か、あるいは予告編だったかもしれません。
原作は、1960年に発表されたハーパー・リーの小説「To Kill a Mockinbird」
映画の原題も同じです。
「モノマネツグミを殺すこと」
一体なんのことだと思いますが、英語の最後のセリフで、きちんとわかるようになにっていますので、そこはお聞き逃しなく。
この小説で、彼女は、ピューリッツァー賞を受賞しましたが、これがあまりに傑作であったため、彼女は結局晩年まで、次作を上梓することができませんでした。
「風と共に去りぬ」の、マーガレット・ミッチェルもそうでしたね。
大傑作を一本書き上げてしまうと、その後の創作活動はなかなか難しいようです。
さて、この「アラバマ物語」。
実は僕は、この映画を、勝手に、全編手に汗握る法廷映画だとばかり思っていました。
ビリー・ワイルダー監督の「情婦」、シドニー・ルメット監督の「12人の怒れる男」、スタンリー・クレイマー監督の「ニュールンベルグ裁判」などなど。
アメリカは訴訟社会。
ですから、裁判映画には、昔から傑作が多い。
僕もそちら系の映画は好きでしたので、この映画も同じように楽しめると思って見始めたのですが、あれあれ、ちょっと様子が違う。
肝心の法廷シーンが、なかなか出てきません。
主人公は、グレゴリー・ペック演じるアティカス・フィンチ弁護士の子供達。
スカウトとジェム。そして、隣家の少年ディル。
映画は、少女スカウトの回想という形式で語られていきます。
映画は、ほぼ4部構成。
第1部は、純粋に子供達の日常を活写した「トム・ソーヤ」や「ハックルベリー・フィン」風物語。
第2部は、謎の隣人「ブー」をめぐる、子供達の視線から見たゴシック風ミステリー。
そして、第3部でやっと、アティカス弁護士が、白人女性暴行の嫌疑をかけられた黒人を弁護する法廷ドラマになります。
しかし、この裁判の陪審員はすべて白人。当時のアメリカ南部の黒人がらみの裁判はすべてこうでした。
それでも、確実なエビデンスを一つ一つ積み上げて、青年の無罪を訴えるアティカス弁護士。
しかし、彼の必死の弁護も虚しく裁判は敗訴。
被告人は、有罪になります。
肩を落として法廷を去るアティカス弁護士。
しかし、二階テラスの黒人達は、全員起立。
感謝と敬意とリスペクトをもって、彼を見送ります。
このシーンは感涙ものでした。
しかし、実は映画はこれでは、終わりません。
そして、ラスト30分、この後に展開される第4部が、素晴らしかった。
きちんと、第1部、第2部で展開されたプロットが伏線として回収され、鮮やかにまとめ上げられた見事な脚本。
この映画が、普通の法廷映画としては括られない理由がそこにあります。
第4部の事実上の主役は、ロバート・デュバル。
「ゴッドファザー」で、ファミリーの敏腕弁護士を演じたあの人です。
冒頭のクレジットで、彼の名前は、発見していたので、その彼がどこで出てくるのかと、映画を見ながらずっとチェックしていましたが、なんと最後の最後で登場した「ブー」が、彼でした。
セリフは一切なし。でも、隣家の子供達を優しく見守る、彼のこの視線に完全にやられました。
出番こそ少ないものの、この映画の影の主役は彼でしたね。
ロバート・デュバルといえば、禿げ上がった頭がすぐに連想されますが、この頃は流石にまだ髪もフサフサ。
出番こそ少ないものの、映画の一番おいしいところを、まるっとかっさらっていきました。
そして、これが、彼の事実上の映画デビュー となります。
2003年に、アメリカ映画協会が、「アメリカ映画100年のヒーロー」を選出しました。
「悪役版」もあったのですが、まずはヒーロー編。
その輝かしい第1位に堂々と選ばれたのが、なんと、この「アラバマ物語」で、グレゴリー・ペック演じた正義の弁護士アティカス・フィンチ。
だって、2位のインディ・ジョーンズ、3位のジェームズ・ボンド、4位のリック・ブレイン「カサブランカ」、5位のウィル・ケイン「真昼の決闘」を抑えての第1位というのは、ちょっとスゴイ。
驚きです。
このランキングを選出したアメリカの、建前と本音が見え隠れもしますが、でも人権における理想を体現するアメリカの良心として、アティカス弁護士は、今でも公式に、広くアメリカ国民に愛されているとうことでしょう。
アメリカで、公民権運動が活発になったのは、1950年代から。
アラバマ州で、キング牧師の呼びかけによる「モンゴメリー・バス・ボイコット運動」があったのが1955年。
アーカンソー州で「リトル・ロック事件」があったのが1957年。
公民権運動のクライマックスとも言える「ワシントン大行進」があったのが、1963年。
そして、ついに公民権法が制定されたのが1964年。
ですから、この「アラバマ物語」は、まさにその公民権運動がピークを迎えようとしている時期に製作されているわけで、考えてみるとこれもスゴイ。
プロデュースのアラン・J・パクラ、そして、監督のロバート・マリガンの高い志と心意気を感じますね。
この状況下、アメリカ南部でのロケは諦めた製作陣は、ハリウッドに、この映画に登場する南部のセットを作って、映画は撮影されたそうです。
ちなみに、この映画の監督ロバート・マリガンは、僕の大好きな映画の一つ「おもいでの夏」も監督した人。
この映画もそうですが、ノスタルジーを描かせたら、とてもうまい監督です。
監督の力量は、この映画でも遺憾無く発揮されています。
少女スカウトを演じたのは、メアリー・バダム。
彼女は、この年のアカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。
もちろん当時の最年少記録。
のちに、「ペイパー・ムーン」のテイタム・オニールに更新されましたけどね。
スカウトは、原作者ハーパー・リーの少女時代がモデルになっていますが、隣家の少年だったのは、実際はあのトルーマン・カポーティなんだそうです。
そして、彼女の実兄は、あの「サタディナイト・フィーバー」のジョン・バダム監督。
町山智浩が、WOWOW映画塾 で、言ってました。
黒人差別問題というと、なかなか日本人としては実感がわかないもの。
しかし、これからの日本は、どんどんと外国からの移住者を迎え入れていかないと立ちいかなくなります。
そうすれば、否が応でも訪れるのは、日本でも多文化共生社会。
日本人純血至上主義なんて馬鹿なことも、言っていられなくなります。
おっと、そんなこと改めて言わなくとも、それは、我が日本国憲法第十四条に明記してありましたね。
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において、差別されない。」
この条文の「国民」ですが、外国からのニューカマーを受け入れていくべき我が国の未来のために、「何人も」(なんびとも)に、改正してもよろしいのでは。
将来の日本にも、アティカス弁護士と同様の人権意識を持つ日本人が増えていることを、切に願います。
まあ、そんな心配をしなくとも、今の若い人に、そんな差別意識やこだわりがあるようには見えないのは救いです。
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