これ、なんの予備知識もなく鑑賞しました。
まず、冒頭、モンマルトルのキャバレー「ムーラン・ルージュ」でのフレンチカンカンのシーンが登場。これが延々と続きます。
ん? これはミュージカルかしら。
そう思っていると、その様子を最前席のテーブルで、スケッチをしている紳士がひとり。
ん? このスケッチの画風は、どこかでみたことがあるぞ。
そう思っていたら、この紳士が、画家のロートレックであることがわかります。
しかし、僕のロートレックの知識は皆無。
ただひとつあるのは、若い頃に聞いたさだまさしの曲。
大好きなアルバムだった「印象派」に収められていた「たずねびと」という曲の歌詞にできます。
「ほの暗い柱の陰にロートレックのおなじみのポスター」
彼に対しては、このフレーズの記憶があるのみ。
なるほど、ロートレックとは、あの歌詞に出てきた画家か。
ここで、彼の描いた芸術的なポスターと、その名前が、結びつきます。
そうすると、今度は彼の作品が気になって、映画は一時中断。(iPad で鑑賞していたもので)
Google で、彼の描いた絵を画像検索。
「ムーラン・ルージュ」の踊り子の素顔と日常を大胆な構図で描いた彼の作品群にたちまち魅せられてしまいましした。
部屋のポスターにも飽きてきたところなので、早速 、Amazon にて、ロートレックの作品集を購入。
届いたら、本の画像は、そのままキャプチャーして、今貼ってある鈴木英人の作品と入れ替えようなどと思い巡らせます。
なにせ、元々がポスターとして、描かれた絵なので見栄えはしそうです。
楽しみ。楽しみ。
さて、ここまで脱線して、また映画に戻ります。
ショーのシーンが終わると、客は一斉に引き、テーブルにまだ一人で座っている紳士ロートレック。
ゆっくり立ち上がろうとすると、どうも様子がおかしい。
明らかに体の寸法が、おかしいんですね。つまり彼の足が異様に短い。
コメディ映画や、アニメ映画なら、人物のデフォルメとしてありそうな縮尺ですが、この作品は伝統あるイギリス映画。
アカデミー賞にもノミネートされているシリアスな作品です。
これは、けっしてギャグではないよなと気になって、またまた映画を中断。
今度は、Wiki で、ロートレックを調べてみました。
すると、ロートレックは、幼少の頃の骨折が原因で、足が成長しないまま成人になっていたことが判明。
その遠因は、両親がいとこ同士という近親結婚によるという検索結果。
ロートレック自身の写真も発見しました。
こちらです。
そうなると、今度はこの映画で、ロートレックを演じたホセ・フェラーの足はどうなのという疑問が湧いてきます。
まさか。彼も・・
例えば、ウィリアム・ワイラー監督の「我等の生涯の最良の年」では、両手が義手の退役軍人の役を、実際に軍人時代の爆発事故で両手を失っていたハロルド・ラッセルが演じてアカデミー助演男優賞をとった例もあります。
ホセ・フェラーは?
しかし、この疑問はすぐに解決。
彼はこの映画で、ロートレックの父親役も、二役で演じていました。
父親の方は、標準の寸法でしたね。
疑問解決。
そうすると今度は、普通の寸法のホセ・フェラーを使って、成人しても152㎝しかなかったロートレックに、いかに表現するかという、監督ジョン・ヒューストンの演出に俄然興味が湧いてきました。
そうして注意深く鑑賞していると、ホセ・フェラーの歩行シーンは、意識的に足元を写さないようにカメラワークが工夫されていることがわかってきます。
そして、相手がいるシーンでの、ホセ・フェラーのアップでは、必ず彼が相手を見上げるように撮っていることにも気がつきます。
メイキングを見てみたいところですが、おそらく、ホセ・フェラーの歩行シーンには、彼の歩く導線に、レールを引いて、彼自身は、台車の上に座って演技をしていたのではないでしょうか。
彼の全身が映るシーンは、何回か登場しますが、そのまま歩くことはありませんでした。
上手に撮影されていました。
さあて、ここまで鑑賞してくると、頭をもたげてきた映画が、「エレファント・マン」。
顔が、像のように醜く膨れ上がるという先天的障害を持った男の数奇な人生を描いた映画です。
監督のデビッド・リンチは、「イレイザーヘッド」もそうでしたが、異形フェチの怪奇趣味嗜好の監督。
彼の映画は、暗く悲劇的で、救いのない展開でしたが、この映画はどういう展開になるのか。
しかし、そこはアカデミー賞監督のジョン・ヒューストン。
このデリケートで、屈折した難しい主人公を、ラブ・ロマンスも絡めながら、一定の品格を失わずに描き切りました。
このあたりの手腕は見事。
しかし、ロートレックの恋は、この映画では二度とも破局。
一人は街の娼婦マリー・シャレル。
異形な姿の自分を意に介さないマリーに、彼は次第に心を開いていきますが、名門貴族出身の彼と、荒んだ生活を余儀なくされてきた娼婦のマリーとでは、なにもかもが噛み合わない。
彼なりの思いを込めてを描いた彼女の肖像画にも、「似ていない」と罵倒を浴びせる始末。
未練を残しながらも彼女と別れるロートレックに二度目の恋。
今度は自立した女性ミリアム。
演じたのは、シュザンヌ・フロン。
僕は彼女をこの作品で知りましたが、綺麗な女優さんでした。
しかし、今度は、こんな魅力ある女性が、自分のような男を本気で愛してくれるわけがないと、ロートレックの方が警戒心まるだし。
とにかく、本心とは裏腹に、スネまくります。
彼女にプロポーズしてきたという紳士にも、嫉妬心めらめら。
ロートレックの彼女に対する愛情は、複雑にひね曲がっていきます。
そして、最後は・・・
ところで、ミリアムにプロポーズした紳士。
あれ? この人どこかで見たことあるぞ。
かなり若いのですが、一度見たらわすれられない顔です。
いったい誰だっけ?
映画は、ここでまたまた中断。
この頃の映画は、エンドタイトル以降に、クレジットロールはありません。
なので、映画の冒頭に戻って、クレジットを確認。
いました、いました。
ピーター・カッシングという名前を発見しました。
この俳優、一番有名なのは、あの「スターウォーズ」の威厳ある帝国軍司令官グランド・モフ・ターキン役ですが、この人は、それ以前に知る人ぞ知る超有名な怪奇映画俳優。
特に、イギリスのハマー・フィルム・プロダクションが、1950年代から60年代にかけて、立て続けに製作したドラキュラ映画で、狂気の科学者ヴァン・ヘルシンク博士を当たり役にした人です。
僕も、このシリーズの彼をはっきりと覚えていました。
そして、クレジットを見直していたら、もう一人。
同じく、ハマープロ作品のドラキュラ役で、ピーター・カッシングと怪奇映画俳優の双璧を担っていたクリストファー・リーの名前も発見。
クリストファー・リーといえば、後の作品ではなんといっても、「007 黄金銃を持った男」の敵の首領スカラマンガの印象が強烈。
彼の登場シーンは、この映画では完全に見逃していました。
気になりはじめると止まりません。これは、映画の冒頭に戻って、早送りで再チェック。
するといました。
モンマルトルのオープンカフェのシーンで、ロートレックと語り合う画家仲間の役で彼を発見。
イラストの中央の人物が、間違いなく彼です。
こちらは、映画の中では、完全にスルーしていました。
恋に破れ、失意のローレックは酒に溺れ、転落事故を起こして、故郷に戻ります。
ちなみに、転落シーンは、映画にも登場するのですが、足のサイズが明らかに標準のスタントマンが演じていました。
ジョン・ヒューストンここは、手を抜いたな。
これなら、このシーンは省いてもよかったかも。
ロートレックは、生まれ育った南仏の母親の邸宅で、両親に看取られながら死去。
このあたりは、史実通りに描いています。
死にゆくロートレックに向かって、彼の作品を一切認めなかった父アルフォンス伯は、「生前に、ルーブルに展示された絵画を描いた画家は、お前だけだ。おまえは、我が一族の誇りだ!」と叫びます。
もちろん、その父親役も演じたのも、ホセ・フェラー自身。
そのシーンを見て、思い出しました。
この人は、あの「アラビアのロレンス」で、ロレンスを犯す、男色?のトルコ軍司令官を演じたあの役者だ。
しかし、この映画で、ロートレックを演じているホセ・フェラーからは、一切その雰囲気と気配は皆無。
彼の役作りは、それくらい完璧でしたね。
ちなみに、実際のロートレックは、かなり性欲が強く、娼婦たちと、かなりデカダンな性生活を送っており、死ぬ際には、梅毒を患っていたということ。
ストレスに虐げられてきた障害者に、人並み以上の性欲が宿るというのは、理解できる気もします。
これでちょっと、思い出してしまったのが、あの「五体不満足」の乙武洋邦氏。
正直もうして、あの体の彼が起こした、多数の女性との不倫騒動には驚かされました。
色々な意見もあると思いますが、ここらあたりは世間的には非常にデリケートな領域なので、僕のようなスケべオヤジは、興味本位で、グダグダと語らない方が無難でしょう。
ジョン・ヒューストン監督も、ロートレックの、このあたりの史実には、上手にオブラートをかけていました。
映画ですから、ここらあたりは、史実とは違っていても許容範囲でしょう。
最後に改めて、この映画をWiki で検索。
タイトル「赤い風車」とは、もちろん伝説のキャバレー「ムーラン・ルージュ」のこと。
ロートレックがポスターを描いたことで、図らずも箔がつき、高級店になってしまった経緯は、フレンチカンカンのダンサーがうらぶれて路上でくだを巻いているシーンで上手に表現されていましたね。
フランク・シナトラや、エルビス・プレスリーも出演していたこのキャバレーは、今でも現存して、観光客相手に頑張っているそうです。
というわけで、2時間の映画でしたが、あちらこちらに寄り道をし過ぎて、見終わるのに丸一日かかってしまいました。
Amazon のプライム会員ですので、注文したロートレックの作品集が届くのは明日の予定。
楽しみです。
まあ、邪道かもしれませんが、iPad ならではの、こんな映画の楽しみ方もあるということで。
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