さて、年が明けて本年最初の農業視察。
去年の8月に一回目。
第二回目が、10月に企画されて、お誘いがあったのでエントリーしたのですが、ちょうど台風19号と重なって、視察先が被害を受けた為、急遽中止。
再び仕切り直しで、今回が第二弾ということになりました。
前回は、福島駅集合でしたが、今回のスタートは、郡山駅西口から。
今回の参加者は10人。
このうち、僕も含め前回から引き続いての参加者が4人。
思えば、定年退職後、はじめての就農活動が、この相双地域のバスツアーでした。
本来の第二回が企画された10月であれば、収穫は最盛期。
中身も濃い内容になとったと思われますが、今回は基本的にオフシーズン。
なかなか、紹介できる農業体験も限られてくるので、主催者としては悩ましいところだったでしょう。
そこで、今回は農作業だけではなく、リアルな東日本震災の被災地の現状も知ってもらおうという企画が組まれていました。
僕自身も、震災後、何回かに分けて、被災地域の状況を自分の目で確かめに行った経緯がありましたので、それから数年たった現状は興味のあるところ。
復興にあたった相双地域各町村の役場の方達の、リアルな話も聞かせていただきましたので、農業体験だけではない、なかなか貴重なバスツアーになりました。
郡山駅から、磐越自動車道でいわき市に向かい、相双地域最南端の広野町から、国道6号線を北上して相馬市までいく相双地方縦断ルート。
高速を下りて、いわき市から広野町に入ると、本来農地であるところに、ポチポチと設置されているものが目に着きます。
太陽光のパネルですね。
帰還者を見込めないで空いてしまっている農地の有効利用ということで設置されてきたもののようです。
しかし、相双農林事務所の大槻課長はしみじみと一言。
「もったいない。」
楢葉町を過ぎて、まずバスが向かったのは、富山町の高台に、新しく建てられた役場の合同庁舎。
ここでまず、今回は農業系の短大生たちと合流します。
彼らはここで、午前中セミナーに参加していたようで、午後から我々一般参加者と一緒になり、グループ分けして、4箇所の視察訪問先に向かうという段取り。
4箇所は以下の通り。
福島しろはとファーム (さつまいも栽培)
株式会社緑里 (水稲、エゴマ)
ネクサスファームおおくま (いちご栽培)
NPO法人 JIN (花卉)
僕が参加したのは、福島しろはとファーム。
日本全国でサツマイモを栽培し、その加工販売まで行い、東京オリンピックでは、新国立競技場にブースの出店も決まっているとのこと。
メインフードは、焼き芋とたこ焼きだそうです。
ここ福島の楢葉町では、女性も含む6人のスタッフで、サツマイモの栽培を行っていました。
この時期は、すでにサツマイモの収穫は終わっていますので、収穫後の畑の整地作業。
およそ、1.6ha の農地で活躍していたのは、大小さまざまなトラクター。
中でも目を引いたのは、やはり全自動のロボットトラクター。
GPSの信号を拾いながら、左右のブレ3cm以内で、農地をまっすぐに移動しながら、整地してくれるそうです。
人間は一応乗りますが、缶コーヒー片手に、操作パネルとなるタブレットを見ているだけ。
お値段1300万円。ヤンマー製。
この日は拝見できませんでしたが、農薬の散布には、ドローンも活躍するとのこと。
震災以降に立ち上がった農業プロジェクトが多く、キャリアのある人材の確保が難しいこの地域では、若い未経験者がどうしても多くなる為、ハイテク化は、生産性を上げるためには、どうしても必要になるようです。
機械化や、IC制御などにより、人間の手間を最小限にしていく農業を、スマート農法と言いますが、やはり若者たちの目は輝いていました。
しかし、健康志向の老人としては、これにはあまり魅力を感じず。
体を動かさないで、食べてばかりいると、てきめんにデブになる体質の僕としては、スマートを維持するための農法という意味でのスマート農法を目指すつもり。
なにせ、元来がグータラなので、いかに作業の中に、適度な運動を取り入れていくか。
田舎暮らしを始めて、健康のためにウォーキングするというのでは、意味がありませんので、いかに仕事で体を動かすか。
田舎で農業を続けているたくさんのお年寄りを見て来て、それが健康長寿のためには必須だと踏んでおります。
貯金は知れているので、健康だけが貴重な財産になるはずです。
質問をしてみました。
「どうしても機械化に頼れない作業はありますか?」
回答。
「苗植えと、蔓切りですね。」
全国に、食品を中心としたグループ企業を展開しているので、どうしても人手を借りたいときには、グループの社員が一斉にこのファームに集合するのだそうです。
もちろん、このファームの6人も、イベントに出展するブースの応援に行くこともあるそう。
この楢葉町ファームは、現在30ha。
今年はこれを50haにまで広げるそうです。
サツマイモは、焼き芋以外でも、ケーキやお菓子にも引っ張りだこ。
圧倒的な女性人気に支えられています。
さて、研修を終えて、再び富山町の合同庁舎にもどる途中の国道6号線。
ここは、開通になった時に、僕も乗用車で走った記憶があるところですが、時間は止まったままの建物の骸がいまだに散見しています。
さて、富山町の役場に各チームが戻り、学生たちと分かれて、就農チームは再びバスに乗って北上。
帰還困難地域は、福島第一原発のある大熊町、双葉町、浪江町に集中しています。
やはり、原発から遠くなるほど、復興は進んでいるという状態です。
大熊町の職員の方は、こうおっしゃってましたね。
「うちの町は、すべてがゼロからです。ですから、可能性しかない。」
震災から9年が経って、今年はオリンピックも控え、そろそろ政府としては、震災も原発事故も一区切りついたと、内外に喧伝したいところなのでしょう。
しかし、この地域への帰還をあきらめて、避難先で新しく生活のベースを築かれている人は、全町避難した大熊町では、4割近く。
それでも、この地へ戻って来る人、新たに街に居住し、新規就農する移住者のみなさん、そして、今回のツアーでも全員作業服姿の役場の面々が、この地域の復興を地道に支えているわけです。
バスは、国道6号を逸れて、海岸へと向かいます。
浪江町にある、請戸漁港の堤防の上に建てられた簡易見晴台。
福島第一原発をはじめ、被災した地域が一望できるスポットです。
ここには、観光客用の駐車場もあります。
ありのまままの福島を、たくさんの方に見に来ていただきたいとは、大槻課長。
彼はこうも言ってました。
「さあ、どうですか。これだけの広い農地が、みなさんをお待ちしています。」
さて、バスは夕方5時にホテルに到着。
JR原ノ町駅前に立つステーション・プラザ・ホテル。
チェックイン後、すぐに交流会です。
これは、前回と同じ。
五ヶ月間で、いろいろなところを回りましたが、新規就農希望者への、ウエルカム・モードは、この相双地域はやはりダントツ。
今回のツアーのスタッフの皆さんは、それぞれ農業のスペシャリストの皆さんなので、ここでも貴重な話を聞けました。
さて、二日目。
ホテル出発は、8時40分。
向かった先は、相馬市にある「和田いちごファーム」
ここは、地図で見ると海岸から3キロしかないところ。
東日本大震災の津波でも、去年の台風19号でも、甚大な被害を受けた施設です。
しかし、被災農家を中心に、互助体制を構築し、大型鉄骨ハウス4棟で、苺の育成を徐々に回復。
今では、震災前の水準に回復しているとのことです。
今回まずお手伝いさせていただいたのは、苺の直売のサポート。
びっくりしたりは、このファームのいちご目当てに、お客さんたちは、朝の6時から、整理券をとって並んでいるということ。
直売所が開くのは、10時からですが、僕らが到着した頃には、駐車場はほぼいっぱい。
僕らもファームのハッピを着て、接客をします。
お客さんは、整理券の順番に、7組ずつ直売所の中に入って、五種類の品目の中から選んで購入。
品目は以下の五種類。
「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」「やよいひめ」「とちおとめ」「さちのか」
1キロ入りの箱が、品種にわって、1400円から2100円まで。
一番先に捌けるのは、一番大粒の章姫だそうです。
用意されていた苺は、およそ30分で完売。
お見事でした。
さて、そのあとでお手伝いさせていただいたのは、ハウスの中のマルチ貼り。
ハウスのいちごは、すべて水耕栽培です。
すべて、立って作業できるように、パイプが組まれています。
中央の畝には、すでにいちごの親株が一定間隔で植えられています。
その上からマルチを貼り、下に埋まった、ランナーと呼ばれる茎を、上からマルチに穴を開けて外に出すという作業。
このランナーが伸びて、また根を張り、そこからまたランナーが伸びて、次の根を張る。
そんなふうに、どんどん広がっていくそうです。
僕も畑でいちごは、何度か作りましたが、一度もうまくいった試しがありません。
もちろん、水耕ではなく、土耕栽培。
しかし、ファームの会長はおっしゃってました。
「本当に美味しいいちごは土耕でしかできない。」
ファームの方からいただいた、水耕栽培の「章姫」と、土耕栽培の「さちのか」を試食させていただきました。
参加者のみんなは、「さすがに土耕は違う。」とおっしゃるのですが、情けないことに、僕にはその差がわからず。
両方とも、普通に美味しいいちごです。
野菜ソムリエの資格はとりましたが、どうやら舌の方は、普通の人以下。
ランチは、ファームでバーベキューをご馳走になりました。
さて、今回のツアー最後の視察は、野菜の直売所「JAふれあい旬のひろば」。
ここは、JAふくしま未来が運営している直売所。
会員登録すれば、少量の野菜でも出荷でき、JAより指導も受けられるので、僕のような多品種小ロットで、野菜を作ろうと目論むものにとっては、最も興味のあるところ。
会員登録すれば、年会費は3000円。
売り上げの15%は、直売所へ。
残りが収入です。
品出し、回収、ラベル貼りなどは、農家の仕事です。
売り上げの状況は、直売所から連絡が来るとのこと。
例えば、きゅうり。
家族労働二人で、露地栽培20a で、年間の所得がおよそ200万円程度。
ブロッコリーを同じく家族二人で100aの栽培をして、100万円程度。
販売単価が高いのがトマト。
これが同じく家族二人でで15aの栽培で得られる年間所得が230万円程度。
僕の場合は、家族がいないので、収益はもう少し落ちるはずです。
あとはこれらの組み合わせ。
今年は、個人的には、今の畑の脇に無人販売所をつくる計画もあります。
あるいは、地元の直売所での販売も検討します。
このあたり、ある程度のスキルを、今のうちから身につけておきたいところ。
野菜を作りはじめてから、およそ6年。
いまだに、作った野菜を売ったことはありませんが、雇用保険も3月で終了になりますので、そろそろビジネスも真剣に考えなくてはいけません。
というわけで、二日間のバスツアーもここで終了。
正直に言えば、こと農業体験という面でいえば、この時期のツアーではあまり実りはありませんでしたが、それを補ってあまりあるのが、今回もいろいろな人たちとのコミュニケーション。
役場の方達も、農家の皆さんも、口を揃えておっしゃいます。
「とにかく、少しでも興味があれば、遠慮なくご連絡ください。いつでも、ご相談に乗りますし、案内もいたします。」
新規就農の入り口はいろいろな形があります。
つくる野菜から入る。
土地から入る。
移住(家)から入る。
しかし、一番大きいのは、やはり人から入る道かもしれません。
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