務めていた会社の後輩のお誘いで、出かけたのが文京区小石川。
さて、ここになにがあるか。
実は、元プロレスラーのザ・グレート・カブキが経営する居酒屋があります。
その名も「かぶき うぃず ふぁみりぃ」
狭い店内でしたが、土曜の夜とあって、現役時代の彼を知るコアなプロレスファンで、カウンターもテーブル席も満席。
だいぶ前から、後輩が2名分の席を予約しておいてくれました。
壁には、現役時代の勇姿を伝える写真。
そして、マスクなどなど。
一緒に働いていた頃から、彼とはしばしばプロレス談義はしていました。
但し、正直に申して、僕の方がプロレスに関心があったのは、ジャイアント馬場や、アントニオ猪木の全盛期まで。
ザ・グレート・カブキが、アメリカで鮮烈なデビューをして、人気を博し、日本に凱旋した1980年代の前半には、もうプロレスからは関心が離れていました。
従って、その後に来る、長州力、天龍、ドラゴン藤波、タイガーマスクなどによるプロレスブームは、完全にスルー。
そして、僕らが知るプロレスとは一線をおいた、最近の格闘技ブームにいたってはほぼノータッチです。
しかし、彼が Line で送ってくれた情報を読んでビックリ。
ザ・グレート・カブキが、渡米する前に日本のリングで戦っていた頃のリングネームが高千穂明久。
おお、そうか。
この名前には、覚えがありました。
早速、YouTube を検索して当時の試合を見てみましたが、確かに記憶があります。
ザ・グレート・カブキは、ヒールとして名を馳せましたが、高千穂は堅実なファイトスタイルの正統派レスラーでしたね。
その高千穂が、アメリカ遠征中、現地マネージャーのアイデアで、顔に歌舞伎の隈取のペイントを施して、ヒールに変身。
東洋の神秘ザ・グレート・カブキとして、一気に人気を獲得していくことになります。
試合前のパフォーマンスは、ダブル・ヌンチャク。
そして、赤と緑の「毒霧」を口から派手に吹き出す演出。
お店のカウンターの向こう側で、奥さんと一緒に包丁を握っている、カブキさんにちょっと聞いてみました。
「やっぱり、ベビーフェイス(正統派)よりも、ヒールの方がギャラはいいんですか?」
そうすると、彼はニヤリと笑ってコックリ。
なるほど。
正統派レスラー高千穂明久が、ザ・グレート・カブキに変身したのは、その辺の事情があったというわけです。
彼が、日本プロレスに入団したのが1964年。
ですから、高千穂明久として活躍していた頃は、僕がまだプロレスを見ていた時代とかぶります。
ジャイアント馬場、アントニオ猪木はもちろん。
坂口征二、ジャンボ鶴田、豊登、サンダー杉山、吉村道明、大木金太郎といった、当時活躍していた選手たちのコアなエピソード。
そして、スタン・ハンセン、アンドレ・ザ・ジャイアント、ビル・ロビンソン、フリッツ・フォン・エリックなどのスター外人レスラーの裏話。
果ては、ジャイアント馬場の奥さんの「しょっぱい」ネタまで。
とにかく、膝やカウンターを叩きまくり。
眼から鱗が何枚も剥がれたサタディ・ナイトでした。
特に驚いたのが、アントニオ猪木の試合中失神事件の真相。
ハルク・ホーガンとの試合です。
めったに負けない猪木が舌を出して、試合中に失神したという試合でしたが、あれは完全にフェイクなんだそうです。
当初のストーリーにはなかったことのようです。
借金で首が回らなくなっていた猪木が、あの場から逃げ出すために仕掛けたお芝居。
それが、あの事件の真相。
いやあ、ビックリです。
そして、お店のお客さんたちが、口を揃えていうのは、現役時代のザ・グレート・カブキの技の受け身の見事さ。
如何に自分が受けるダメージを殺して、しかも観客には派手に見せるか。
実は、このスキルこそ、プロレスの「面白さ」を、決めるテクニックというわけです。
なるほど。
僕のような素人は、やはりピンホールへと繋がる、必殺技がいつどこでどう出るかが、プロレスの楽しみでしたが、玄人の楽しみ方はちょっと違うようです。
僕よりも一回り下のこの店のプロレスファンたちは、かなりディープ。
カブキさんは、今のレスラーたちに、こう苦言を呈していました。
「自分の見せ場のことしか考えていない。ピョンピョンと飛び回りすぎ。」
とにかく、今年72歳だという、カブキさんの記憶力は鮮明。
こちらのミーハーな質問を聞きつければ、カウンターの向こうから、ズバリ即答してくれます。
これは、ファンにはたまらないでしょう。
そして、自ら包丁を握って出してくれる料理の腕前も見事なもの。
僕はお酒は飲めませんでしたが、この店定番の、赤と緑の毒霧ハイボールは、お約束のようにみなさんお代わりしていました。
最後には、快く写真にも収まっていただき、得意のファイティングポーズのサービスまで。
店を出るときには、手を振って見送ってくれましたが、これが、かつてアメリカを席巻したヒールレスラーかと思うほどの可愛い笑顔でしたね。
この小さな居酒屋に途切れることなく訪れる、プロレスファンたちとの交流の中で、いい歳の取り方をされたなと感じた次第。
楽しい夜でした。
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