さて、「ダークナイト」です。
クリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト・トリロジー」の2作目。
2008年の作品です。
バットマンの映画化作品としては、「バットマン」の名前がタイトルに反映されない初めての作品でした。
僕は、恥ずかしながら今回初めて見ていますが、公開当時の宣伝では、圧倒的にジョーカーの露出の方が多くて、本作ではバットマンは脇役なのかと思っていたほどでした。
順番が逆になってしまいましたが、2019年公開の「ジョーカー」は去年見ています。
こちらで、ジョーカーを演じたのは、ホアキン・フェニックスでした。
彼は、この映画でアカデミー賞の主演男優賞を獲得しています。
「ジョーカー・ビギンズ」ともいうべきこの作品は、カリカチュアされたスーパーヴィラン的要素を排除して、あくまで人間ジョーカーの内面に切り込んだ作品でした。
体重を24キロ減量して、ジョーカーの役作りをしたホアキンが、オスカー・ウィナーになったことは、もはや、コミックのキャラクターを演じることが、役者の映画キャリアの「お飾り」になるのではなく、本格的な演技人としてのキャリア・メイクにもつながることを立派に証明しました。
我が国の例で言えば、特撮ヒーロー仮面ライダーのゾル大佐や死神博士、マグマ大使の帝王ゴアが、後に映画化されて、日本アカデミー賞の男優賞を獲得するようなものでしょうから、どんな原作であっても、ヒットさせるためには手を抜かないアメリカ映画界の底力を感じてしまいます。
そして、その「ジョーカー」の10年前に、忘れてならない、この「ダークナイト」があったということです。
本作でジョーカーを演じたのは、ヒース・レジャー。
彼も、本作の演技で、アカデミー賞助演男優賞を獲得していますから、彼こそ昨今のアメリカン・ヒーロー・コミック映画のレベルを底上げした、立役者といってもいいかもしれません。
コミックのキャラクターが、ついにアカデミー賞を獲得する日が来たかと思ったことをよく覚えています。
しかし、本作を鑑賞すれば、彼に対する評価は大いに納得。
その鬼気迫る演技は圧倒的でした。
もうし訳ないが、主役のバットマンは完全に霞んでしまいましたね。
撮影に当たっては、ヒースは、ロンドンのホテルに1ヶ月近く篭りっきりで「役作り」に集中。
この役に望むに当たっては、1989年に、ジャック・ニコルソンが演じたジョーカーの二番煎じと言われないことには、かなりの神経が注がれたことが伺えます。
そして、「ジョーカー」のホアキン・フェニックスもまた、ヒースの演じたジョーカーとは、全く切り口の違う演技にこだわっていたことは、本作を見て初めて理解できました。
一口で言えば、ホアキンの「ジョーカー」は、人間性が崩壊していく過程をリアルに描いた作品でしたが、「ダークナイト」で、ヒースの演じたジョーカーは、得体の知れない狂気を体現した、不気味な怪物としてのジョーカーでした。
同情や共感が入り込むことを一切拒絶し、ひたすら人間の良心を撹乱させ、憎悪を手のひらで弄び、人の悲しみや不幸を嬉々として愉悦する究極の「愉快犯」が、本作のジョーカー。
彼の素性は、彼自身によっても、それを楽しむかのようにコロコロと変えられ、一切明らかになることはありません。
警察の指紋ファイルにも、犯罪履歴はない、全く素性不明の犯罪者。
強奪した金にも興味のない彼は、仲間の前で、その札束さえ燃やしてしまいます。
それが、ヒース・レジャーの演じたジョーカーでした。
Wiki によれば、ヒース・レジャー本人は、非常にあがり症で、トーク番組やバラエティも苦手なシャイな性格だったと言います。
その彼が、本作での役作りの中で、睡眠障害に陥り、インフルエンザなども併発。
プライベートなトラブルも重なったことで、複数の薬物併用摂取することで不幸が訪れます。
彼は、本作の撮影終了後に、映画の完成を待たずに、28歳の若さで亡くなってしまいました。
エンド・クレジットには、「ヒース・レジャーに捧げる」という字幕が流れていましたね。
キャスティングは、ほぼ前作のままでしたが、レイチェル・ドーズを演じたケイティ・ホームズが降板しているため、本作で演じたのはマギー・ギレンホール。
しかし、彼女は本作でジョーカーの手に落ち、命を落としてしまいます。
ノーラン監督による、ワクワクするような最新秘密兵器による、畳みかけるようなアクション・シーンに手に汗握っていると、ここ最近で一気に最新作まで連続してみてきた007シリーズが、いつの間にかオーバー・ラップしてしまいました。
特に、ダニエル・クレイグによる007ですね。
ノーラン監督本人も、007シリーズは相当意識している模様で、「映画館に客を呼ぶための、CGではない本物によるアクション・シーン」という意味では、このシリーズは、かなり参考にしているものと思われます。
数あるアメリカン・コミック・ヒーローの中では、極めてSFっぽくない、等身大のヒーローがバットマン。
それゆえ、このヒーローは本物主義のノーラン監督とは非常に相性が良かったのでしょう。
さて、本作で強烈な印象を与えたジョーカーのヒース・レジャーを失ってしまったノーラン監督が、この「ダークナイト・トリロジー」をどう締め括るのか。
これはちょっと楽しみです。
次は、「ダークナイト・ライジング」
コメント