マッチ
100円ライターの登場以来、巷からはほぼ姿を消したのがマッチ。
アンデルセン童話の「マッチ売りの少女」なんて、今の子供達にはピンと来ないのかもしれません。
僕は、煙草を嗜みませんが、大学二年生だった19才の時、1年間だけタバコを吸っていた時期があります。
大学に行っても、授業は代返を頼み、近所の喫茶店で、友人たちとタムロしている時間の方がずっと長かったナマケモノ学生でしたので、一杯300円のコーヒーで、ダラダラと過ごすのには、やはり煙草は欠かせないアイテムでした。
一端のヘビー・スモーカー気取りの友人は、ジッポのライターなども持っていましたが、僕は、もっぱらマッチ派でした。
タバコは、当時の僕にとっては、嗜好品ではなく、完全なファッション・アイテム。
映画の中で、カッコよく使われていたのは、ライターよりも基本はマッチでした。
「カサブランカ」のハンフリー・ボガード。
「勝手にしやがれ」のジャン=ポール・ベルモンド。
「さらば友よ」のチャールズ・ブロンソン。
「アラビアのロレンス」のピーター・オトゥール。
などなど、マッチの登場する名場面は、あげればキリがありません。
さてそのマッチですが、ほとんど購入した記憶がありません。
当時はほとんどの喫茶店で、「マッチありますか」と聞けば、無料で、店のオリジナル・マッチをくれたものです。
会計のレジスターの横には、「ご自由にどうぞ」と、小洒落たバスケットに入れられて並んでいたものです。
喫茶店は、大学界隈だけではなく、池袋、新宿、渋谷と足を伸ばしていました。
当時は、喫茶店過当競争の時代でしたので、モーニングを頼めば、トースト食べ放題のサービスなども当たり前。
喫茶店巡りは、完全に道楽の一つでした。
当然のように、喫茶店マッチのコレクションは、増えていき、部屋の机の引き出しの一つは、完全にこのコレクションで占領されていました。
当時は、友人に紹介されて、週一で渋谷でバレーボールをやっていた関係で、渋谷界隈の喫茶店のマッチが特に多かったのですが、パルコの近くのビルの地下にあった「詩仙堂」という喫茶店のマッチは、特にお気に入りでした。
デザインのセンスが、抜群でしたね。
そのマッチは使うのが勿体無くて、未使用のまま、保存していました。
ここで、初めて飲んだのが「アイスココア」。
たっぷりとクリームがトッピングされていて、450円とちょっと高かったですが、ここで飲む時は、これに決めていました。
ネット検索したら、まだ営業していてビックリしました。
マッチのデザインの写真もありましたが、これはさすがに昔のとは違っていました。
さて、クリント・イーストウッドの「荒野の用心棒」を見て、カッコイイと思ったのが、ちょっと長めのマッチを取り出して、靴の裏か何かで吸って火をつけるシーンです。
「荒野の七人」では、ユル・ブリンナーもやっていました。
あれは、普通のマッチではできません。
普通に出回っているマッチは、いわゆる「安全マッチ」と言われるもの。
マッチ棒の先についている頭薬を、マッチ箱の脇についている側薬部分で擦って火をつけるタイプです。
マッチの起源は17世紀のヨーロッパです。
比較的低音度で発火する性質の黄燐を利用して作られましたが、当初のマッチは、自然発火してしまうという欠点がありました。
これでは危ないので、改良されたのが赤燐マッチです。
この赤燐で擦らないと、マッチ棒だけでは発火しないようにしたわけです。
これが、いわゆる「安全マッチ」。
しかし、どこで擦っても火がつく便利さも捨てがたく、こちら仕様で改良されたのが「硫化燐マッチ」。
西部劇などで、頻繁に登場するのは、このタイプです。
このタイプのマッチは、日本ではなかなか手に入らないかったのですが、これを上野のアメ横にあった米軍グッズの店で発見。
これを、しこたま買い込んで、家で密かにカッコよく、タバコに火をつける練習をしたものです。マッチ棒の頭薬の先に、発火剤みたいなものが付いていましたね。
何事も、カタチから入るタイプでしたので、タバコの持ち方や吸い方も、マッチを散々無駄遣いして、そこそこ研究しましたが、元々がそれほど好きではなかったようで、長くは続きませんでした。友人たちには、よくこう言われたものです。
「おまえのは、吸ってない。ふかしているだけ。」
結局タバコは、1年間だけでやめてしまったので、マッチとの付き合いもそれきりになりました。
マッチといえば、もう一つ、祖母の思い出があります。
小学校二年までは、東京の下町で祖母と暮らしていたのですが、商店街でしたので、結構近所付き合いがあったんですね。
当時は、お裾分けを上げたり、もらったりも多かったのですが、いただいたお裾分けの器をきれいに洗って返すときに、なぜか祖母はその中に、マッチ棒を数本入れていたんですね。
子供心になんだろうと思ったものですが、これはずっと後になって判明いたしました。
これは、マッチに燐と共に使われている「硫黄」を「祝う」と引っ掛けた語呂合わせだったようです。
なかなか粋な習慣でしたね。
100円ライターは、確かに安価で便利ですが、やはり風情にかけます。
昭和ノスタルジーと言われそうですが、喫茶店でタバコを吸うなら、やはり、ライターではなく、マッチがマッチしています。
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