クラシック映画好きになったのは、和田誠さんの名著「お楽しみはこれからだ」シリーズの影響が大きいと思います。
映画の名セリフをフックにして、和田さんの映画に対する愛情や蘊蓄が、軽快に語られていくこのエッセイに登場する映画は、なんとも魅力的でした。
誰もが知っている名作はもちろんのことですが、和田さんは、相当マニアックなものまで、取り上げてくれていますので、「チャンスがあれば是非見てみたい映画」のストックは、このシリーズを幾度となく読み重ねていくうちに、次第にたまっていきました。
そんな一作として、脳裏にあったのが「影なき狙撃者」という映画。
朝鮮戦争で捕虜になった兵士が、敵国にマインド・コントロールされて、「大統領暗殺」の刺客として、アメリカに戻されるという映画です。
この兵士を演じていたのは、ローレンス・ハーベイという役者ですが、それを阻止する元彼の上司役として、フランク・シナトラが出演しています。
1962年に製作された映画です。
つまり、あのジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された前年に作られた映画ということもあり、その設定がすこぶる面白かったので、「どこかで出会えたら見て見たい映画」の一本として記憶されていました。
Amazon プライムで発見した本作は、同じく主演がフランク・シナトラで、同じく大統領暗殺を描いた映画ということで、完全に「影なき狙撃手」と勘違いしておりましたね。
本作「三人の狙撃手」は、「影なき狙撃手」よりも、9年以前に作られていた映画です。
フランク・シナトラが演じるのは、「大統領暗殺」を請け負った三人組のリーダー。
「サドゥンリー」という田舎町に、大統領が列車で来るということになり、この駅を見下ろす丘の家から、シナトラ率いる一味が、この家の住人と保安官を拉致しながら、大統領を狙撃するというお話。
シチュエーションは、ハンフリー・ボガード主演の「必死の逃亡者」に似ていますが、結末は正反対でした。
しかしながら、およそ10年後にケネディ大統領暗殺事件が起こることを考えると、かなり際どい内容の作品ではあります。
フランク・シナトラは、ジョン・F・ケネディが大統領に登りつめていく時代は、この若き大統領候補を応援しており、公私に渡ってかなり親密な仲でした。
この大統領に、マリリン・モンローを紹介したのも、もちろんシナトラ。
しかし、大統領になって以降は、ケネディ兄弟の女グセの悪さなどから、次第に険悪になり、暗殺される直前の頃は、シナトラは、この大統領と喧嘩別れしています。
そして、そんなタイミングであの暗殺事件が起こったわけです。
数々の陰謀論が、この暗殺をめぐって囁かれましたが、そんな中の一つには、シナトラが関わったものもありました。
「影なき狙撃者」の方のシナトラの役は、暗殺を阻止する上官の役なので問題なかったのですが、本作は、まさに大統領を狙撃する犯人の役でしたので、危機感を覚えたシナトラは、本作のフィルムを全て抑え、合衆国内で上映されないように動いたそうです。
フランク・シナトラといえば、本作の前年に撮られた「地上より永遠に」で、アカデミー賞助演男優賞を獲得し、それまでのスランプから脱出し、演技派映画俳優として復活を果たしています。
「地上より永遠に」にキャスティングされるまでの経緯は、映画「ゴッドファザー」に描かれていました。
あの強烈な「馬の首事件」の顛末がそれです。
そして、この「ゴッドファザー」に、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネに射殺される悪徳警官役で出演していたのが、本作の保安官役のスターリング・ヘイドン。
すでにパブリック・ドメインを獲得している映画ですから、いってしまいますが、ラストでこの狙撃犯は保安官に射殺されてしまいます。
ケネディを射殺したとされるリー・ハーベイ・オズワルドと同じ運命だったわけです。
映画冒頭で、子供が拳銃のおもちゃを持たせようとする保安官の善意を、頑なに拒絶した戦争未亡人が、最後は狙撃犯を射殺して自分たちを守った保安官と熱いキッス。
いまなお、銃乱射事件が止むことのない銃社会のアメリカですが、さすがに今のハリウッドなら、このラストでは却下されるか、脚本をリライトされてしまうかもしれません。
Amazon プライムで、是非とも「影なき狙撃者」を!
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