友人からのイチオシがあって見た韓国映画です。
2019年の作品ですから、Covid-19 パンデミック直前の作品ですね。
ここのところ、鑑賞した韓国映画にはハズレがなかったので、今回はどうかと思っていましたが、これもなかなかの傑作でした。
どうも、個人的なツボにハマってしまったようで、後半はどうにも涙腺崩壊で、久しぶりに映画を見て目が腫れてしまいました。
御涙頂戴と言っても、「子供」や「動物」の可愛さや、幼気なさを全面に出した感動ポルノ系は、映画の作り方として反則だろうという思いがありまして、それが演出の前面に出ているような作品は好きではありません。
もちろん、本作には「子供」「動物」は出てきませんが、ただストーリーの核となるヒロインが自閉症スペクトラムという設定でした。
キム・ヒョンギが演じたジウは、高校生の女子でしたが、この自閉症の演技が見事で、ぐいぐいと引っ張られてしまいました。
彼女の部屋の向かいの家で起こった事件は他殺か自殺か。
その唯一の証人が彼女です。
自閉症の彼女の証言をめぐって、事件は最後に思わぬ展開を見せます。
韓国のトップスターであるチョン・ウソンが演じるスノ弁護士が暴く事件の真相も、もちろんスリリングなのですが、見ているこちらは、事件の顛末よりも、途中からは、どうやらヒロインへの感情移入で涙腺が崩壊しているんですね。
コミュニケーション能力に欠落がある自閉症の女の子が、その困難に果敢に立ち向かいながら、必死で真実を伝えようとする姿が、どうにもこうにも泣けて仕方ありませんでした。
どうやら、この辺りに個人的なツボがあったのかもしれません。
映画を見終わった後は、その夜の夢にジウが出てきたくらいです。
黒澤明監督の1965年の作品「赤ひげ」を見終わったときに、色々な見どころもあった中で、なぜか体も心も病んだ12歳の少女おとよを演じた二木てるみのシークエンスに、涙が止まらなかったのを思い出しました。
そうそう、あの感じに似ていましたね。
ん?
すると俺は少女趣味なのか?
いやいや、むしろ好みとしては、昔から熟女趣味であることは自覚していますので、そんなことはないはず。
男三人兄弟で、特に可愛い妹がいるわけでもなく、なぜここがツボになるのかは自分でも不明です。
自閉症を扱った、過去の作品の記憶を辿ると、やはり筆頭に出てくるのは、1987年の製作の「レインマン」。
バレリー・レビンソン監督の作品で、主演のダスティン・ホフマンは、自閉症のレイモンドの役で、この年のアカデミー賞主演男優賞に輝きました。
今で言う自閉症スペクトラムは、その程度や症状によってグラデーションのような分布があるとされていますが、映像作品で多く取り上げられるのは所謂「高機能自閉症」といわれるタイプ。
コミュニケーションに難はあるけれど、記憶力、視聴力、計算力、アート性など、ある特定の分野に限り、常人がビックリするほどの能力を見せるタイプです。
そして、彼らは、その行動形態において、強いこだわりを見せるのも特徴です。
これが極端になると、サバン症候群やアスペルゲンガー症候群と言われる人たちになるわけです。
いずれも、自閉症スペクトラムの一形態と考えられていますが、「レインマン」でホフマンが演じたレイモンドも、本作のジウも、超人的な「記憶力」や「聴覚」を見せていますので、どちらかといえばこのカテゴリーの自閉症といえます。
言い方にちょっと問題はあるかもしれませんが、あえて言わせてもらえば、数ある病気の中でも、高機能自閉症というのは、実に映画的な素材であるかもしれません。
「裸の大将」という映画にもなり、ドラマでは芦屋雁之助のハマり役となった放浪の画家山下清も、サバン症候群を扱っていると映画の一本です。
自閉症ではなく、知的障害を持つ圧倒的善人という設定ですと、黒澤明監督の「白痴」で森雅之が演じた亀田欽司を思い出しますし、船越英二の演じた「安宅家の人々」の安宅宗一も
同じような設定。
海の向こうでは、ショーン・ペンが知的障害を持つ父親を演じた「アイ・アム・サム」もかなりグッとくる作品でした。
その他にも、中居まさひろ主演のドラマで、「ATARU」も後天性の自閉症を扱ったファンタジーでした。
主人公が「無垢」であることで、逆に世俗にまみれた周囲の人々が、炙り出されるという構図が、自然と出来上がってしまうというわけです。
そんな中で、2000年に放映された、ともさかりえ主演の「君が教えてくれたこと」というドラマをよく覚えています。
この頃は、個人的には、仕事が忙しくて、ろくにテレビ・ドラマなど見ていなかった時期でしたが、それでも、このドラマは不思議と最終回まできちんと脳裏に残っていました。
同時期のそれ以外のドラマはあまり覚えていませんので、このドラマはそれなりにインパクトがあったのでしょう。
ともさかりえが演じたヒロインは、やはり高機能自閉症で、人とのコミュニケーションに苦戦はするものの、天気予報に抜群の能力を見せる20歳の女子という設定。
ドラマでは恋人を失ったショックから精神科医を辞め、予備校教師になっている上川達也との恋愛模様が中心に描かれていました。
思えばこのドラマも、今にして思えば、ストーリー展開よりも、ともさかりえの自閉症演技に、かなり参っていた節があります。
山口もえが、同じく自閉症の彼女の友達役で出演していましたが、説得力はともさかの方が一枚も二枚も優っていました。
同じ健気でも、男性の自閉症演技ではあまり感情は動きませんが、演技力のしっかりした若い女優が演じるものであれば、ビビットに反応してしまうというのが個人的なツボなのかもしれません。
まあいいでしょう。
とにかく泣けました。
泣けるものは泣けるのだから、これはもうどうにも仕方がありません。
素直に韓国映画の実力を認めることにいたします。
映画の中でジウが、スノ弁護士に、引き込まれそうになる無垢な瞳でこう聞いていたのが印象的でした。
「あなたはいい人ですか。」
ドキリですね。
しかし申し訳ない。
こう聞かれたら、こちらとしては、正直にこう答えるしかありません。
「いいえ。普通のスケベです。」
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