「オリジナルサントラ盤」と聞くとなぜか胸が騒ぎます。
「オリジナル・サントラ」の意味は、「映画のフィルム上における音声が収録されている部分」ということになります。
つまりは、映画の音声全体を言うわけですが、通常はそこに使用される音楽のことを意味しますね。
ですので、厳密に言えば、同じ楽団やアーティストが演奏していても、映画で使われたものでないテイクは、オリジナルサントラ盤とは言わないわけです。
70年代後半あたりからは、ポップ・アーティストが映画の主題歌を担当するのは当たり前になっていますので、チャートを賑わすヒット曲が、そのままオリジナル・サントラということも多くなりました。
しかし、それ以前の映画の世界には、ポップ・アーティストとは別に、オリジナル・サントラを担当する映画音楽家たちというのがいて、彼らが書く「メイン・タイトル」や「愛のテーマ」を、カバーする楽団や、歌手たちが多くいたんですね。
もちろん、今の映画界にも、映画音楽専門の音楽家たちはいますが、昔ほどのネームバリューはないような気がします。
僕が、それまでの怪獣映画を卒業して、たくさんの洋画を見るようになったのは、70年代の初めですが、その頃にすでにビックネームだった映画音楽たちは数多くいました。
フランシス・レイ、ミッシェル・ルグラン、バート・バカラック、モーリス・ジャール、ニーノ・ロータ、ヘンリー・マンシーニなどなど。
そうそう、エンリオ・モリコーネもこの時代からの息の長い作曲家です。
今年ドキュメント映画が公開されますね。
しかし、その後の時代になると、ジョン・ウィリアムスくらいしか浮かびません。
もちろん、彼らは自らの楽団でサントラ盤を録音することが多いのですが、当時は、ポップ・アーティストとして、数々のオーケストラが群雄割拠していました。
ポール・モーリア、レイモンド・ルフェーブル、カラベリときらめくストリングス、パーシー・フェイス。
50年代以前になると、マントバーニやヴィクター・ヤングなどなど。
彼らは自分達のレパートリーの他に、競って映画音楽を、オリジナル・サントラ盤とは違うアレンジでレコード化していました。
なので、同じ楽曲であっても、オリジナル・サントラ盤ではないバージョンが、ヒットした映画のテーマであればあるほど数多く競作されていたわけです。
映画音楽も含めたこのジャンルは、「イージー・リスニング」という音楽ジャンルになっていましたが、オリジナル・サントラ盤とは区別するために、「本名盤」「決定版」といった宣伝文句が、レコードジャケットには踊っていました。
イージー・リスニングを専門で紹介する音楽番組てして、僕の世代では、伝説的とも言えるのがFM東京(当時)の「ジェット・ストリーム」。
城達也氏の名調子で、平日の毎晩午前0時からオンエアされていました。
ちょっとWiki してみたら、ビックリ。TOKYO FMで今尚オンエア中なんですね。
案内役は、なんと福山雅治です。
この番組では、オリジナル・サントラ盤が紹介されることはありませんでしたが、逆にそちら専門でオンエアされていたのがNHK-FMの「夜のスクリーン・ミュージック」。
この番組の案内役は、関光夫氏でした。
当時は、「FMレコパル」や「週刊FM」といった雑誌に、どの番組で何の曲をオンエアするかという情報が細かく掲載されていました。
そして、お目当ての曲にはマーカーをしてエアチェックをしながらコレクションを増やしていました。
この番組は、NHKだけあって、全ての楽曲をノーカットで流してくれましたので、ステレオ・ラジカセのポーズボタンに指を置いたままで、毎週聞いていたのを思い出します。
当時、映画音楽のエアチェックは、TDKのDタイプ90分カセットテープと決めていました。
そして、もちろんこれは、日常でもかなりのヘビー・ローテーションで聞き込んでいましたので、70年代以前のオリジナル・サントラ盤は、多感なころの僕の毛穴から染み込んでいくことになります。
友人たちが、サントラ版のレコードを持っていると知れば、片っ端から録音させてもらいました。
最近になって、その頃の友人たちと旧交を復活させているのですが、連中の顔を見ると、彼らから借りたレコードのジャケットが重なりますね。
彼らは、そのころのレコードをまだ、段ボール箱に詰めて、大事に保管しているようです。
大学生くらいになると、アルバイトもするようになり、多少は自由になる小遣いも増えてくるので、ちょうどその頃、巷にチラホラと出現し始めた「レンタル・レコード店」をハシゴして、オリジナル・サントラ盤を借りまくり、少しグレードを上げたカセット・テープにコレクションするようになります。
どこの店でも置かれないようなコアなサントラ盤で、どうしても欲しいという場合には、当時は新宿駅西口に密集していた中古レコード店まで足を伸ばしましたね。
もちろん、レコードを探す時のキーワードは、「オリジナル・サントラ盤」です。
百歩譲って、オリジナル作曲者によるオーケストラ演奏ならば、厳密な意味でのサントラではなくてもよしとしました。
当時はもちろん、まだレンタル・ビデオ店も、配信サービスもありません。
映画を見るなら、映画館に行くか、テレビの洋画劇場の吹き替え短縮版を見るしかなかったわけです。
そんな時代でしたので、映画の情報としては、その映画本体よりも、映画音楽の方が先行していたという場合がほとんどでしたね。
僕の場合、大学生の頃が、人生の中で、最も足繁く映画館に通っていた時代でしたが、見たい映画を選択する指針のひとつになったのが、テーマ曲の「お気に入り」度でしたね。これは大いに参考にしました。
というよりも、映画本体は見ていないけれど、サントラだけは「お気に入り」という場合も数多くありました。
しかしこの「映画音楽好き」のルーツを辿れば、僕が一番最初に所有したレコード(アニメのソノシートは持っていましたが)が、実は「映画音楽大全集(仮名)」という全2枚組24曲入りのアルバムだったということになります。
オリジナルサントラ盤も数曲含まれていた記憶ですが、あとは既存のオーケストラの演奏によるものです。
主に、60年代の映画が中心の構成になっていたと思います。
もちろん自分の小遣いで購入したモノではありません。それが両親だったか、親戚からの貰い物であったかはもう思い出せません。
ただ、このレコードを毎晩のように聞いておりましたので、そのうちに心に決めたことは、この24本の映画はいずれ全部見てやろうということでした。
今となってはもう、確認のしようがありませんが、おそらくそれはすでに達成していると思われます。
残念ながら、当時のカセットテープは一本も残っていませんが、その旋律は、今でも心に深く刻まれているようです。
あの頃のように、カバー盤とサントラ盤を、殊更に区別しようというこだわりはなくなりましたが、それでも楽曲の表記に「オリジナルサントラ盤」という文字を見つけると、反射的にニンマリしてしまいます。
今はサブスクの時代なので、当時の僕のような苦労をしなくても、スマホをタッチ&スクロールするだけで、サントラ盤をチョイスすることも可能。それをプレイリストにも出来ます。
実は、僕はサブスクはやめてしまいましたが、その理由は、無料のYouTubeでも、「オリジナルサントラ」と入力すれば、当時のレコードジャケットや映画のシーンと一緒に、懐かしい曲がズラリと検索できるからです。
映画の名前さえ思い出せれば、お目当ての曲が、瞬時にスマホで聴けるわけです。
全くもって隔世の感がありますね。便利な時代になりました。
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