トム・クルーズ製作主演による大ヒットスパイ映画シリーズの五作目です。
前作から4年経っていますので、トム・クルーズは53歳ですね。
007シリーズで二代目ボンドを演じたロジャー・ムーアは、最後の007作品「美しき獲物たち」を撮ったときに58歳でした。
彼の場合、派手なアクション・シーンはほぼスタントマンが演じており、彼はラブシーンとユーモア担当でしたね。
しかし、トム・クルーズは、この年齢になってもまだまだ体を張ったアクションを信条にして映画を製作しています。
その現役感は半端じゃありません。
すべてのアクションシーンをスタントなしで演じるのはだんだんと厳しくなってきているようですが、それでもここぞというシーンは自分で演じていますね。
本作のアイコンにもなっている「ここぞ」のアクション・シーンは、映画の冒頭のアバン・タイトルでいきなり登場。
滑走路を走り出している輸送機に飛び乗り、扉にしがみついたまま離陸するというとんでもないアクションです。
本作くらいからは、YouTubeにもたくさんのメイキング映像がアップされています。
それを見ると、トムはワイヤーを体にくくりつけているだけで、このシーンに挑んでいますね。
当初の予定では、翼に足を踏ん張っている予定だったようですが、風圧で完全に浮き上がってしまっています。
一度離陸したら、着陸するまではその態勢でいなければいけないわけなのですが、彼は完璧なカットを撮るためにこの撮影に数回チャレンジしたそうです。
恐るべきプロ根性。
今時の特撮技術なら、CGでこのシーンを撮ることも可能なのだそうですが、やはり彼がこだわったのは生身のアクション。
主演の彼が製作権を持っているからこそ出来るアクション・シーンは、やはりこのシリーズ最大のセールス・ポイントというわけです。
通常の映画出演契約では、こんな危険なシーンは、映画を完成させたい製作者からはストップがかかります。
彼は監督にこう言ってアクション・シーンに挑んだのだそうです。
「パニックになっているように見えてもカメラを止めないで。それは演技だから。」
本作で、トムが指名した監督は、クリストファー・マッカリー。
1995年に作られたミステリーの傑作「ユージュアル・サスペクト」の脚本を書いて、注目された人です。
以降は、シリーズ以外のトム・クルーズの作品で脚本を書いたり、監督をしたりしていますね。
このシリーズは今まで、一作ごとに監督を変えるというスタイルでしたが、本作以降はすべての作品を彼に監督依頼しています。
よほど、相性が良いのでしょう。
映画監督としてのキャリアは、これが3作目ということですので、前作のブラッド・バード同様トム・クルーズによる大抜擢と言えるでしょう。
大抜擢といえば、本作のヒロインであるイルサ・ファウストを演じたレベッカ・ファガーソンもそう。
彼女の本作以前のキャリアは、Wiki してみた限り4本しかなく、特に目立った作品ではありません。
トム・クルーズは、過去にもニコール・キッドマンを、オーストラリアで発掘し、自らの主演作「デイズ・オブ・サンダー」のヒロインに抜擢。
ハリウッド・デビューさせ、大女優への先鞭をつけたという実績があります。(夫にもなっています)
レベッカにとっては、本格的なアクション映画出演ははじめてのこと。
この映画にキャスティテングされてからは、演技よりは、半年間みっちりとアクションやバイクの操縦などを練習したそうです。
その甲斐あって、本編では、トム・クルーズも圧倒するような華麗で勇ましいアクションを披露しています。
このシリーズには、これまでにも魅力的なヒロインは何人も登場してきました。
しかし個人的な感想を言わせて貰えば、レベッカ・ファガーソンは、これまで登場したどのヒロインよりも魅力的でしたね。
とにかく、敵か味方かわからないという「謎の女」ぶりが、僕のような60年代のスパイ映画に感化されてきた世代にはたまりませんでした。
彼女に助けられたり、裏切られたりを繰り返す中で、次第に彼女に惹かれていくイーサン・ハント。
おいおい、君には、3作目で命がけで救った奥さんジュリアがいるだろうとも思ってしまいましたが、それも許せるくらい魅力的なヒロインでした。
基本的に僕は、映画というエンターテイメントは、日常ではそう簡単にお目にかかれない美女の魅力を楽しむものだと思っているところがあります。
映画のヒロイン(時には脇役のこともありますが)の魅力に当てられると、一気にその作品が輝き出すということは僕の場合ちょくちょくあります。
この作品も、そんな一本になりましたが、見ているうちにハタと、その理由に思い当たりました。
本作の彼女のキャラクターが、まるで「ルパン三世」の峰不二子なんですね。
時には華麗なドレスを纏った淑女、時には黒づくめの衣装の怪盗。
そして本作では、黒のレザージャケットに身を包み、BMW Motorrad S1000RRにまたがってモロッコの高速道路を疾走しますが、まさにその勇姿が峰不二子のイメージそのもの。
クリストファー・マッカリー監督は、「ルパン三世」をかなり意識していたか。
あるいは、峰不二子のモデルにもなったと言われているフランス映画「あの胸にもう一度」(英語タイトル:"The Girl On A Motorcycle)のマリアンヌ・フェイスフルを意識していたか。
これは、監督自身に聞いてみたいところです。
映画のタイトルになっている「ローグ・ネーション」とは、直訳すれば「ならずもの組織」みたいなこと。
1990年代末において、主にアメリカが、イラン、イラク、アフガニスタン、リビア及び北朝鮮を称して「ならずもの国家(ローグ・ステイト)」などと公言していました。
テロリズムに対する支援、あるいは大量破壊兵器の拡散(アメリカは違うのかい?)などを行うとされる国家ですね。
映画の場合は、国家ではなく、かつて諜報部員として活躍していた各国の腕利きのエージェントを極秘裏に囲い込み、テロも辞さぬ極悪組織を作っていたという設定。
このローグ・ネーションは、「シンジケート」と呼ばれ、それを裏からコントロールしていたのはイギリスの諜報組織MI6という設定です。
しかし、事実上のこのシンジケートの指揮していたのは、ソロモン・レーンという極悪非道の人物。
このソロモン・レーンをいかにも、憎々しく演じていたのがショーン・ハリス。
この敵役のキャラが立っていれば、立っているほど、この手の映画は面白くなるものです。
ヒロインがかっこよく、敵役も適役(ウマイ!)となれば、主演も負けて入られません。
冒頭の輸送機しがみつきシーンもそうですが、トム・クルーズのアクションも炸裂です。
実際のウイーンのオペラ座で撮影した、バックステージでの格闘シーン。
ここでは、観劇中のオーストリア首相が暗殺者に命を狙われるのですが、なんとスナイパーが三人。
その中の一人がイルサです。
劇場では、人気オペラの「トゥーランドット」が上演されていますが、この中の楽曲「今夜は誰も寝てはならぬ」の歌唱が一番高音となるところが狙撃の合図になります。
つまり、楽曲が盛り上がるにつれて、狙撃へのサスペンスも盛り上がるという上手い演出ですが、これはクラシック映画ファンなら誰もがピンときます。
そうです。ヒッチコックの1956年作品「知りすぎた男」にある有名なシーンへの完全なオマージュですね。
そして、この「誰も寝てはならぬ」は、以降イルサの登場シーンには、アレンジを変えて、度々登場しますから、意識していると面白いかもしれません。
混乱の劇場の屋根から、二人は抱き合ったまま飛び降りますが、このシーンが映画の初撮影だったレベッカ・ファガーソンに、トム・クルーズはこう囁いたそうです。
「ようこそ。IMFへ。」
本シリーズでは、敵のアジトに忍び込んで大切なデータを奪取するというのが毎回見せ場になります。
今回の現場は、モロッコ。
そこでイルサと合流したイーサンたちは、作戦を決行。
ベンジー(サイモン・ペグ)を、データ室に潜入させるために、イーサンは水槽になっている冷却施設にジャンプして潜入し、ベンジーの本人確認データと差し替えるというアクション。
酸素ボンベも背負えない状況で、イーサンはすべての作業を、自分の呼吸の続く3分以内に終えなければなりません。
ギリギリのところで、データの差し替えに成功したイーサンですが・・・
そして、この後に展開されるのが、モロッコ市街での激しいバイクと車のカーチェイスです。
まあまあ、ド派手に協賛メーカーBMWご自慢の最新高級車をクラッシュさせまくりますが、よほど運転には自信があるのでしょう。
かなりのシーンで、トム自身がハンドルを握っていますね。
隣でわめきまくるベンジーが、とてもいいアクセントになっていました。
イーサンたちを裏切って、データを奪ってバイクで逃走するイルザですが、この追跡劇の結末に、この映画で僕が、一番好きなシーンがありました。
一緒にバイクで追ってくる敵のエージェントを蹴散らした後は、二人だけのバイク・チェイスになります。
一瞬見えなくなったイルサですが、彼女は突然追ってくるイーサンの前に、立ちはだかります。
イーサンは咄嗟に、バイクのハンドルを切り転倒。そのまま動けなくなります。
それを黙って確認するイルサ。その表情がなんとも言えず絶品でした。
一流のスパイなら、状況から考えて、そのままイルサを轢き殺し、顔色一つ変えずにデータを取り戻していてもなんの不思議もない場面です。
しかし、イーサンは、一瞬の判断で、それよりも彼女の命を優先したわけです。
そして、もちろん彼女も、自分の命と引き換えに、そのことを確認したということ。
このシーンで、二人は自分たちの背景を越えて、信頼しあったといえます。
一言もセリフのないアクションシーンだけで、これだけのことを表現してしまうのですから、これはあっぱれ。
そして、イルサは走って来た道をゆっくりとバイクで戻っていきます。
これが、ラストで効いてきますね。
さて、ここからラストに向けては怒涛の展開になります。
ベンジーは、イルサに奪われたデータをちゃんとコピーしていました。
そのベンジーが敵のシンジケートに、拉致されてしまうという展開になります。
そしてクライマックスに向けては、前作までのように圧倒的なアクション・シーンはかなり封印されてきます。
展開されるのは、オリジナルの「スパイ大作戦」のような、緻密でスリリングな、イーサン・チーム対シンジケート組織による完全な頭脳戦です。
これが若いファンたちにどう受け止められるかはわかりませんが、僕のようなコテコテのクラシック派には、実にたまらない展開でした。
そのミッションを、ざっと説明すればこんな感じでしょうか。
「おはようイーサン君。今回君達が入手したデータには、シンジケートの重要な機密が入っている。
しかし、このデータは厳重にロックされており、これを解除できる人物は、世界でただ一人英国現首相だけである。
しかも、君達の仲間ベンジー諜報員は、シンジケートに拉致されている。
首領のソロモン・レーンは、ベンジーの命と引き換えに、24時間以内に、ロックを解除した状態のデータを持ってこいと言っている。
そこで、君の使命だが、このデータのロックを解除した上で、それを敵に奪われることなく、ベンジーを救出し、ソロモン・レーンを逮捕することにある。
例によって、君もしくは君のメンバーが殺され、あるいは捉えられても、当局は一切関知しないのでそのつもりで。
なお、このテープは・・・」
ここからは、鉄壁のチームワークあり、意外などんでん返しあり、おなじみの変装マスクをガバッと脱ぎ去るカタルシスありで、スパイ映画の醍醐味満載です。
前作までの、超人的なイーサンのフィジカルに頼ることのない、騙し騙されのスパイ映画王道のスリリングな展開が楽しめますね。
ラストでソロモン・レーンが捉えられるシーンも、映画の冒頭でイーサンが、シンジケートの罠にかかったシーンがちゃんと伏線になっていてニンマリでした。
オリジナルの「スパイ大作戦」では、毎週こんなラストに、「カッケー」としびれていたものです。
そして、イーサンとイルサの恋の行方は・・
というわけで、次回は「フォール・アウト」で。
トム・クルーズは、56歳です!
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