実は、この映画のポスターが、我が家のポスター・ギャラリーに、ずっと長いこと貼ってあります。
個人的には、すでに鑑賞しているつもりで貼っているのですが、記憶が、かなり怪しいんですね。
ポスターにある、巨大クラゲが空中を浮遊するシーンは、ビジュアルとしては、かなり強烈ですので、見たような気がするわけです。
しかし、他の作品のように、それ以外のストーリーがまるで思い出せません。
そんなわけで、今回その作品を、Amazon プライムで見つけましたので、再見してみました。
結論から申し上げますと、この作品は、どうやら今回が初見だったようです。
まず、映画のポスターで描かれていた造形の宇宙大怪獣ドゴラは、なんと映画の中にはワンカットも、登場していませんでした。
巨大な触手が、北九州市の若土大橋を持ち上げて、河川にたきつけるスペクタクル映像はありましたが、映像化されているのは、空中に揺らめく触手のみ。
ドゴラが、筑豊炭鉱の石炭を吸い上げるというシーンでも、ドゴラの全体像は映りません。
ですので、ポスターに描かれている空中浮遊怪獣が、世界中の炭鉱やダイヤモンド鉱山に現れて、鉱物の炭素を吸い上げるというスペクタクルは、どうやらポスターのイメージを勝手に膨らませていた僕の妄想だったようです。
本作は、1964年の公開で、東宝の特撮映画としては、16本目。
怪獣映画としては、7本目にあたります。
そして、「ゴジラ」「ラドン」「バラン」「モスラ」と続く、単体怪獣映画モノとしては、昭和最後の作品ということになります。
怪獣の造形においては、本作はかなりアグレッシブな挑戦をしています。
とにかく、ドゴラのモデルとなっているのは、クラゲです。
あの浮遊感をスクリーン上で再現するには、ワイヤーによる空中操演では難しいと判断した円谷特撮チームは、ドゴラの粘土原型をソフビに焼き、そのミニチュアを水槽に入れて、テグスで操るという手の込んだ撮影に行きつきます。
そして、あのフワフワする浮遊感を出すために、さらに水槽の下から、ドゴラのミニチュアに水流を当てて、クラゲのように動かしているとのこと。
そうやって撮影した映像を、さらに実景と合成するというわけですから、なかなか手間のかかった大変な撮影ではあったようです。
そのため、本作は、通常の怪獣特撮映画に比べて、明らかに、怪獣の登場シーンが少なめでした。
しかし、それだけ苦労して撮影にもかかわらず、怪獣のインパクトがやや弱め。
明らかに、ゴジラ、ラドン、モスラといったトップスター怪獣のようなキャラクター性に欠けます。
それを製作側も理解していたのでしょう。
ならば、せめてポスターにはインパクトを持たせようと、映画にはない怪獣の姿を描くという反則ぎりぎりの宣伝をしたということだったかもしれません。
インパクトでいうなら、本作とほぼ同じコンセプトで作られた、「ウルトラQ」第11話で登場した風船怪獣バルンガのビジュアルの方が強烈でしたね。
「宇宙大怪獣ドゴラ」から、スパイ・アクション部分を削除して、さらにコンパクトにまとめたのがバルンガでした。
石坂浩二のラストのナレーション。
「明日の朝晴れていたらまず空を見上げてください。そこに輝いているのは、太陽ではなく、バルンガかもしれません。」
この余韻の素晴らしさには、小学生ながらシビれましたね。
ご存じない方は、YouTubeでみれますので、是非ご確認を。
そして、特撮部分が弱いと見越した本多監督は、ドゴラのシークエンスと並行して描かれる、ダイヤを巡って繰り広げられる警視庁外事課と、ダイヤ強盗団、保険会社のエージェントなどによる三つ巴のスパイ・アクション部分を前面に出すことで、映画のエンターテイメント性を担保しようとしています。
ちょうど世界的に、007シリーズが大ヒットしていた時期ですので、本多猪四郎監督が狙ったのは、怪獣特撮と、スパイ・アクション映画の融合路線ということだったかもしれません。
007シリーズは、後に日本を舞台にした「007は二度死ぬ」が作られることになり、そこでボンド・ガールを演じた若林映子は、本作にも、ダイヤを狙う謎の女の役で花を添えています。
外事課の刑事には、夏木陽介。ヒロインには、藤山陽子。
その他、田崎潤、藤田進、小泉博、天本英世、中村伸郎といった、東宝特撮シリーズの常連たちがズラリと並んでいるので、東宝もそれなりに気合はいれたようですが、本作は興行的には失敗。
以降、東宝は怪獣バトル路線に舵を切ることになるわけです。
しかし、個人的な感想を述べさせてもらえば、怪獣特撮シーンの尺が足りないという弱点を補うのであれば、それを逆手に取る手もあったのではないかという気もしてしまいます。
例えば、「ジョーズ」は、用意した機械式のサメが、水中で思うように動かずに頭を抱えたスピルバーグ監督が、ならば、サメをなかなか登場させない恐怖演出を前面に出そうと決めて演出した結果、極上のモンスター・スリラー映画として大ヒットしたという経緯があります。
スピルバーグが、「ジョーズ」を作る際に、大いに参考にしたという50年代のホラー映画「大アマゾンの半魚人」も、モンスターの露出はかなり小出しで効果を上げています。
ですから、本作もスパイ・アクションという、あまり怪獣映画とは相性がいいとは思えないジャンルの映画を取り込むよりは、後の「遊星からの物体X」「エイリアン」「ボディ・スナッチャーズ」のようなSFホラーとしてして演出した方が、観客のウケはよかったかもしれないと思う次第。
本多監督には、なんといっても「ゴジラ」で成功した実績がありますから、やろうと思ってできないことはなかったと思います。
実は本作を見て、個人的に一番ドキリとしたシーンは、映画の冒頭でした。
それは、酔っ払いが、寝たまんま、空中を浮遊して、街角を横切っていくシーンでした。
これ、かなりシュールでしたよ。
さて、あなたが一番ドキリとしたシーンは、ドゴラ?
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