Amazon プライムで、イギリスBBCが制作した、「ミス・マープル」シリーズの、シーズン1、シーズン2の全18話を一気に鑑賞しました。
原作は、アガサ・クリスティ。
この2クールで、ミス・マープルが活躍する長編12作のうち、8作品がドラマ化されています。
ミス・マープルは、アガサ・クリスティが創出した探偵キャラクターとしては、エルキュール・ポワロと人気を二分する人気キャラクターです。
ミス・マープルは、イギリスの片田舎セント・メアリ・ミード村に住む一人暮らしの老令嬢。
詮索好きで、身の回りに起こった事件を、この村で実際に起こったいろいろのエピソードを引き合いに出して推理し、解決していくとというのが、彼女のスタイルです。
このシリーズで、ミス・マーブルを演じたのは、ジョアン・ヒクソン。
残念ながら、僕が今まで見てきた映画では、出会うことはなかった女優です。
Wiki してみると、1906年生まれの彼女は、最初の撮影時で77歳。
まだ若い時に、原作者と面識があったようで、その際にはこう言われていたそうです。
「ミス・マーブルを演じるのにふさわしい年齢になったら、是非彼女を演じてほしい。」
原作者のイメージに、この人がかなり近かったのでしょう。
確かに、ジョアン・ヒクソンには、イギリスの老婦人らしい、品格が感じられます。
おっとりはしているけれど、芯は強そうという雰囲気が、僕の思うマーブルのイメージともシンクロしますね。
ミス・マーブルものですと、僕が過去に映像作品として見ているのは、1980年公開の「クリスタル殺人事件」のみです。
これは、マープル・シリーズの長編「鏡は横にひび割れて」を映画化したもの。
同年に出版されて大ベストセラーになった田中康夫の「なんとなくクリスタル」にあやかってつけたタイトルであることは想像に難くありませんが、映画の内容とはまるでそぐわないタイトルに「なんだかな」と思ったのを覚えています。
しかし、出演俳優は超豪華で、エリザベス・テイラーを筆頭に、往年の大スターたちが大挙出演していた映画でした。
この作品で、ミス・マープルを演じていたのは、アンジェラ・ランズベリー。
後年のテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」でお茶の間の人気を博した女優です。
クリスティ作品としては、1978年の「ナイル殺人事件」にも別の役で出ていましたね。
この他にも、テレビや映画でミス・マーブルを演じた女優は、マーガレット・ラザフォードや、ヘレン・ヘイズなどがいますが、派手さはなくとも、物腰の柔らかさ、ほんのり香る可愛らしさは、このシリーズのジョアン・ヒクソンが頭一つ抜きん出ていると思います。
さすが原作者のお眼鏡にかなった女優だけのことはあります。
個人的には昔から老人フェチですので、アガサ・クリスティが創作したキャラクターとしては、エルキュール・ポワロよりも、ミス・マーブルの方が好みですね。
2シーズン分を鑑賞した限りでは、僕の知っている俳優はほとんど出ていなかったのですが、一人だけ見つけました。
それは「スリーピング・マーダー」に出演していたジョン・モルダー・ブラウン。
知っている人はほとんどいないと思いますが、僕が洋画を見始めたころの1970年代初め頃に、「初恋」「早春」という青春映画に出演していました。
彼はまだこの頃、ティーン・エイジャーで、両作品とも、年上の女性に翻弄される初心な少年を演じていました。
当時の彼は、なんともみずみずしい美少年で、映画雑誌「スクリーン」や「ロードショー」のグラビアにもちょくちょく登場しており、女の子たちがキャーキャー言っていた記憶です。
その彼が、このドラマでは、34歳の凛々しい青年になって出演していました。
ちなみに、クリスティ・ファンからは、ポワロとマーブルの共演作品を是非執筆してというファン・レターが、原作者のもとには、ひっきりなしに届いていたそうです。
しかし、クリスティは、この依頼を断固拒否。
ムッシュ・ポワロは、如何にご婦人に対しては礼儀正しいとしても、マープルの推理や助言を素直に受け入れるだけの度量は持ち合わせていないとして一括していたとのこと。
確かに、言われてみればそれは理解できる気がいたします。
人気シリーズにケチをつけるわけではありませんが、警察署長上がりのエルキュール・ポワロと違い、イギリスの片田舎に住む平凡な老女の周辺に、こうも次から次へと殺人事件が起こるなんてことがあるはずがない。
ふと冷静になると、そんな思いが脳裏をよぎったりもします。
ちなみに、僕は今年で65歳になりますが、人生でただの一度も、自分の身近に殺人事件なぞ起きたことはありません。
しかし、そんな野暮なケチをつけるミステリー・ファンなぞは、本場イギリスにも、我が国にもそれほどいないのでしょう。
冷静沈着で、豊富な人生経験に裏打ちされたミス・マーブルの名推理に、このドラマシリーズのファンたちは、毎週でも触れていないのだと勝手に思った次第。
この2シーズンで、8作の長編を丁寧に描き切った後のミス・マーブル・シリーズは、毎年クリスマス・シーズンの特別企画ドラマとして、残る4本の長編を2時間枠のスペシャル・ドラマとして毎年一本ずつ制作されていきます。
もちろん、主演はすべてジョアン・ヒクソン。
そして、クリスティが書いたミス・マーブルが活躍する長編全12作をすべてドラマ化して、このシリーズは、1992年に終了します。
日本でも、新しい作家たちがどんどん出てきて、本格ミステリーの人気は依然衰えていません。
久しぶりに、ミステリー小説を集中的に読んでみようかと思っているところでしたが、これだけ丁寧にドラマ化してくれいていると、ミス・マーブルものは、原作は読まなくてもいいのかなという気にはなります。
まだ未見のスペシャル・ドラマ版4本も、Amazon プライムで見られるようですので、これは鑑賞してみることにいたします。
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