1952年の新東宝作品「東京のえくぼ」を、DVDで観ました。
高峰秀子の出演作を、いろいろと集めていた中に、あった一本なのですが、この映画では、デコちゃんは、特別出演の婦人警官役。
この映画の、主演は丹阿弥谷津子。
彼女は、テレビドラマ「池中玄太80キロ」や「ちゅらさん」などでもおなじみの名バイブレーヤーで、ネコさんこと、故金子信雄の奥様。
聡明で品のいい「おばあさん」役のイメージが強い役者さんですが、若き日には主演作もあったんですね。なかなかチャーミングでした。
監督は、 松林宗恵 で、これがデビュー作。
後に、「社長」シリーズで、日本の喜劇映画の礎を築くことになる松林監督が、柳家金語楼 、 清川虹子、 小林桂樹 といった芸達者な役者を、これが初演出ながら、うまくさばいて、センスのあるところを見せた風刺コメディ。
黒澤映画の脚本家としても有名な、 小国英雄 の脚本も粋で洒落ています。
この脚本で、ニューヨークあたりが舞台なら、さしずめ、メグ・ライアンあたりが出て来そうな感じです。
それでいて、日本的な下町の人情もたっぷり。
音楽も秀逸。
上原のスケジュールがこれでもかと移り変わるカットには、クラシックのあの曲(なんだっけ、うーん曲名が出てきません)が絶妙にかぶさり、牢屋に入れられた上原が無意識にめくら判を押すテンポにも、音楽がしっかりとシンクロされてニヤリ。
誰だと思ったら、この映画の音楽担当は、服部良一氏。
ストーリーもさることながら、この作品のような、古きよき時代の映画をみるときは、僕の眼は、どうしても当時の風俗や文化に眼が行ってしまいます。
丹阿弥の一家が住み、働く下町の町並みや、あの当時の丸の内の風景。そして、上野動物園、渋谷の東急東横店にあったケーブルカーなど、古きよき東京の観光映画としても十分に楽しめました。
(この先は、ネタバラシになりますからまだ見ていない方はご注意)
「この引き出しに、キミに処理してもらいたい書類が一通入っているんだ。返事は屋上で待ってる」
「ローマの休日」の逆シチュエーションで、一般市民目線で、庶民の暮らしを体験した大会社「紀伊国屋物産」の社長・上原謙が、映画のラスト、秘書の丹阿弥にこう切り出します。
そして逃げ出すように部屋を出て行ってしまう社長。
彼女が引き出しを開けると、そこにはこんな辞令が。
「社長秘書事務係を免じ、社長妻に任ず」
屋上で待つ社長は、もう「めくら判」を押すだけの仕事はやめて、心機一転社長業に取り込む決意。
そんな彼の背中によりそいながら、彼女は、こうつぶやきます。
「私のはめくら判かな」
そうそう、ネットでリサーチしていたら、こんなエピソードを発見しました。
1952年の新東宝作品「東京のえくぼ」を銀座の老舗クラブ「数寄屋橋」において再上映。
作品中、紀伊國屋書店に無断で、「紀伊國屋物産」なる会社を作品の舞台にしたことを心のわだかまりとしていた松林宗恵 監督が、この日、紀伊国屋書店の松原社長を招いて再上映したもの。
観客は数名だったが、主演女優の丹阿弥谷津子も出席。
監督自らの解説にあたるという豪勢な上映会であった。
写真を見ると、みなさん、いい感じで歳をとっていますね。
作家の森村誠一氏の顔も見えますが、これ2002年3月のことですから、劇場公開から、ちょうど五十年後のことです。
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