平成十二年頃は、我が家では介護老人を一人抱えておりました。
十三年前の、自分の感性を懐かしみながら、あの頃に作った短歌を紹介します。
四月
春の声調子にのって半袖はおもわず縮まる花冷えの午後
看板の笑顔の女優に声かけて渋滞前の県道を行く
「ありがとう」その一言がうれしくて春の雨なら濡れていこうか
つけまつげくわえ煙草でメイクきめ女子高生が生足で行く
桜散る野に菜の花がチラホラリ春うららかに主役交代
目を盗み差し入れの寿司カレーパン頬ばる我が家の介護老人
春雨に打たれ艶めくリンドウの息飲むほどの萌ゆる紫
自治会の花見の宴を楽しめる年をとるとはこういうことかな
街行けばコルクの上から見下ろされつまづくのを見てニヤリと笑う
暗闇にユラユラ浮かぶ火の玉は皆携帯のアンテナの先
天気予報はずれの初夏の通り雨家までちょっとで笑うしかない
見てくれといわんばかりの装いでじっと見てたらさっと隠され
朝昼の温度差上着二枚分着てきたものが足りない家路
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