ずっと見たいと思っていた映画でした。
レンタルでも、BSのオンエアでも、なかなか巡り合えませんでしたので、ついにAmazon でDVDを購入。
溝口健二監督の渾身の一作ですね。
この映画を世界の映画監督をうならせる名作にしたのは、まさに溝口監督と女優・田中絹代の一騎打ちから生まれた全編にみなぎる緊迫感といえましょう。
田中絹代は、10代から50代までを、メイクというよりは、ほぼ全身の身のこなし、所作で見事に演じ分けます。
封建社会の中で、男たちに振り回されていく女の哀れを、田中絹代の一世一代の演技で表現します。
そして、脇を固める男たちにも、また豪華な顔ぶれ。
若々しい三船敏郎の純情一途な若侍。
宇野重吉や、進藤栄太郎といった芸達者たち。
加東大介、沢村貞子の姉弟共演。
特に、夜鷹にまで身を落としたお春が、旅の巡礼をする百姓に見世物の「化け猫」扱いされる件は圧巻。
お春は、やっとありついた客に招かれて木賃宿に行きます。
しかし、客は、彼女をそこまで連れてきて、そこにいる連れの男たちにこういいます。
「どうだ。こんな、化け猫でも、女遊びをする気になるか?」
客は、彼女の老醜を男たちに、見せしめる為に、呼んだんですね。
金だけは受け取って、虚しく立ち去ろうとする彼女は、立ち止まり、突然男たちのところに戻ってきて、引っ掻くような化け猫のかっこで男たちに吠えます。
この鬼気迫る演技を捉えるのに、溝口監督は、延々とカメラを回し続けます。
田中絹代が演じた、喜び、傷つき、打ちひしがれ、自嘲する女の感情の起伏を、カットを割らないことで、最大限に引き出した見事な演出です。
田中絹代は、「サンダカン八番娼館」の老婆の役も、「愛染かつら」の、愛くるしい看護婦の役も見ましたが、やはり、この映画で、はじめて、この大女優の凄さを、目の当たりにした次第。
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