フィジオロジカル・スマイルというのをご存知でしょうか。
これは、産まれたばかりの赤ちゃんの「新生児微笑(生理的微笑)」のこと。
口元がピクリと動き、目じりが下がってニタッと笑っている顔の動きのこと。
でもこれは、赤ちゃんの意思とは関係なく起こる神経反射のひとつです。
これとは、別に生後2~3ヶ月くらいしてくると、大人の笑いかけやあやす行動に対して、笑顔を見せるようになります。
これを、ソーシャル・スマイル。「社会的微笑」というのだそうです。
この件を読んでいた本で知って、(「養老孟司 ガクモンの壁」)「えっ」と声をあげてしまいました。
大学の頃のサークルの仲間だった女の子が結婚して出産したと聞いて、友人と遊びに行ったことがあります。
学生の頃は、なかなかモテていた女の子で、30歳を過ぎるまでは、恋愛関係では、けっこうスッタモンダしていました。
その彼女が、30歳を過ぎて、突然田舎へ帰り、お見合い。
キャリアウーマンとしもなかなかのやり手で、そこそこの地位もあった彼女でしたが、すべてポイ。
あれよあれよという間に結婚してしまいました。
旦那はなんでも、田舎の同級生だった人で、生産農家の若主人。
遊びに行ったときには、品のいいブランド品でバッチリ決めて、颯爽と渋谷の外苑通りを歩いていた「都会の女」の面影はなく、すっぴんで元気に笑う、農家の主婦になっていて僕らの口はあんぐり。
二人には、暫く子供は出来なかったそうですが、その彼女にもめでたく第一子が誕生。
その写真入りの暑中見舞いが届いて、それならばと、友人と一緒に長野の山奥まで出かけて行ったわけです。
(ちなみに、この友人は、学生時代に彼女にふられています)
ご主人も、いかにも優しそうな人で、東京から来た僕たちに、笑顔で名産の「小松菜」などをふるまってくれました。
彼女の方は、生まれたばかりの新生児をベッドの横の寝かせて、穴のあくほど笑いかけていたのが印象的。
その彼女が、愛しいベイビーの寝顔を見ながら、こういうのです。
「ねえ。信じられる? 生まれたばかりなんだけど、この子、私の顔見て笑うのよね。」
それを聞いて僕は、彼女に思わずこう言ってしまいました。
「あのねえ。気持ちはわかるけど、そりゃ親バカってもんだ。赤ちゃんの頭の中、まだ白紙状態だよ。あなたが誰かも学習中なんだから。
でも、大丈夫。あんたがそれだけ微笑みかけていたら、すぐにそれを学習して、笑い返してくくるから。」
話が変わって、今度は昨年。
うちの会社の女子社員に男の子が生まれました。
彼女にとっては、第4子で、彼女はベテランのママです。
お祝いのメールを送ったら、彼女が、生まれたてのベイビーの写真を送ってくれました。
その写真を見てドキリです。
生まれたての赤ちゃんが、写メしているママの顔をじっと見つめて、なんとかすかに微笑んでいるように見えるわけです。
そんなわけはないと思った時、ふと頭に蘇ったのは、あの時の旧友のこと。
そこで、写真を送ってくれた彼女に思い切って聞いてみたら、彼女はキッパリ。
「私は、絶対に笑うと思います。」
これは、その現場をもうすでに4人も経験しているママの言葉ですから、説得力がありましたね。
「新生児は、笑う?」
周囲がどんなに微笑みかけても、ミルクを飲ませてあげても、くすぐっても、生まれたばかりのベイビーは笑わない。
自分の子供を持つことはなかった僕は、付け焼刃の知識で、勝手にそう決めてしまっていましたが、その自信は完全に揺らいでいましたね。
そして、ふと読んでいた本で、知ったのが、このフィジオロジカル・スマイルの存在。
そういうわけで、これを知って、おもわず声をあげてしまった次第。
「うーん、なるほど」
生まれたばかりの赤ちゃんは、本能的に、生理現象として、無意識に微笑む。
どうやら、僕は半世紀近く、間違った知識を信じていたようです。
何人かの同僚と、僕が会社の土地でやっている野菜畑があるのですが、そこに、我が社のその女子社員が、家族全員で遊びに来たことがあります。
みんなで賑やかに、とれたて野菜のバーベキューパーティですね。
そこに、彼女が、ちょうど生まれて半年になった、ベイビーも連れて来てくれました。
僕は写真のベイビーの、生の姿をそこで初めて拝見。
生まれたてのしわくちゃの新生児だったベイビーは、可愛い乳児に成長していました。
見るからに子煩悩なご主人が、寸暇なく喋りかけていたのが印象的な野菜畑の昼下がり。
そのベイビーを抱っこさせてもらいましたが、こちらは赤ちゃんなど抱いた経験など、ほとんどない身。
生まれて4か月目の、まだ首も座らない赤ちゃんでしたから、さすがに緊張しましたが、それでもこちらが微笑みかけると、ベイビーはニッコリ。
それが、もうフィジオロジカル・スマイルではなく、こちらの不器用な「あやし」にも反応してくれている、ソーシャル・スマイルになっていることは、僕にも理解できました。
新生児のフィジオロジカル・スマイルは生理的現象ですが、それで、もたくさんのパパママは、この家族同様、それを見てうれしくなって話しかけ、微笑みを返すのでしょう。
そうやって、ベイビーのアクションに、たくさんリアクションを返してあげることで、ベイビーは、「僕が笑うと、パパママは笑顔になって、優しくしてくれる。」ということを次第に学習していき、やがてソーシャル・スマイルが出来るようになるわけです。
そして、やがてベイビーは、楽しい時や嬉しい時に、今度は、パパママの模倣ではなく、自分の意思で笑顔を見せてくれるようになります。
エンジェル・スマイルの誕生ですね。
これは、古今東西、どこのパパママもいうあのセリフですね。
「うちの子は天使だ。」
親バカ上等。
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