芥川賞作家・吉田修一の小説が原作。
監督が、李相日(リ・ソンイル)。
あの「フラガール」の監督。
脚本は、この二人の共作。
つい先日、順序は逆になりましたが、彼の2016年の作品「怒り」を見たばかり。
この監督、在日朝鮮人三世とのことですが、映画的感性はほとんど日本人ですね。
いや、むしろ並みの日本人監督よりも、よほど骨太の人間ドラマを描ける監督です。
主演は、妻夫木聡と深津絵里。
妻夫木聡の出演映画は、Prime Video のラインナップには、多いようで、これもこのところ立て続けに観てます。
山田洋二監督の「家族はつらいよ」シリーズ。そして、「小さいおうち」
「渇き」「清洲会議」「ミュージアム」(これは次に見る映画。iPad ダウンロード済み)
彼のキャラクターといえば、基本は、心優しきイケメン青年。
ゲイの役をやっても、悪徳刑事の役をやっても、どこかに彼らしさがにじみ出ているわけです。
でもその意味では、この映画の彼は、一番彼らしくなかったかもしれません。
ずっと「え? これが妻夫木聡かい」と思って見ていました。
そう思いながら見ていたら、海をな見つめる映画のラストショット。
ずっと、金髪の前髪で隠れていた彼の顔が、潮風に吹かれてあらわれます。
ああここで、やっといつもの妻夫木聡の表情。
監督の使い方が上手だったのか、作品に対する彼の気合が違っていたのか。
この作品の彼は、良くも悪くも、いつもの彼とは違って見えました。
たくさんの映像作品に出演して、今や売れっ子スターの彼ですがこの作品は、彼にとっては特別なものだったかもしれません。
そして、お相手の深津絵里。
彼女はこの作品の演技で、モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞。
それに十分値する見応えのある演技でした。
この女優さんについてはいつも思うこと。
よーく見ると、けっして美人ではなく、ナイスバディでも、身長スラリでもない。
それても、作品の役柄を通して見ているうちに、だんだんと魅力的な美人に見えてきてしまう。
この映画では、逃避行中の彼女は、ほとんどスッピンメイク。
女優にとってスッピンは、時にヌードよりも恥ずかしいもののはずなのに、それでも彼女は魅力的に輝いていました。
やはり、しっかりとした演技力が、彼女の魅力を支えているということでしょう。
作品のテーマは「善と悪」。
殺人事件を絡めたミステリー仕立てになっていますが、メインはヒューマンドラマ。
作品は、
善とはなにか?
悪とはなにか?
もちろん、それに簡単に答えを出すような、安っぽい作りには、なっていません。
善人ヅラをして、裏ではあこぎなことをしている悪人。
犯罪を犯してしまって入るけれど、心優しき善人。
両者は、まさに人間の裏表。
そして、そのどちらにも転がれる危うい壁の上を、おぼつかない足取りで、歩いていく多くの人々。
どっちに転がるかは、まさに紙一重。
その時に吹いた風の向き次第。
それを運命というような、安直な言葉でまとめるつもりはありませんが、それでも、それぞれの意志でコントロールできる範疇を超えた、予想し難い現実は、誰の人生にも、ある意味では公平にふりかかるもの。
「僕は、人をジャッジする時には、基本、性善説を取る。」
知り合いの経営者が、そんなことをいっていました。
おそらくそんな彼を、多くの人は「この人は人格者」と評価するのでしょう。
しかし、そんな彼に、拍手を送りながらも、後ろを向いて舌を出している社員もいるかもね。
人間は、良くも悪くも、そんなに単純なものではないということでしょう。
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