いやはやなんとも重苦しい映画でした。
でもこれは拾い物。
とにかく、登場人物の誰一人として、共感できる人物がいないのがスゴイ。
容赦なく、徹底的に、リアルに、その不快感を煽る演出。
これだけ、救いのない映画も珍しい。
わずかに良心を演じるかに見えた田中麗奈も、結局最後まで感情移入することはできず。
しかし、それがよかった。
生半可な、ヒューマニズムなど挟まなかったことが、逆にこの映画を傑作にしました。
主演は、死刑囚の父を演じた三浦友和。
彼も、この映画で、俳優人生を通じて作り上げてきた、従来のさわやかなイメージを壊しにかかりましたね。
百恵夫人の反応はどうだったでしょうか?
おそらく、二人の子供の育ちっぷりからみても、合格点を与えられる父親だった彼だからこそ、役者として、この役はやりたかったのでしょう。
死刑囚の兄を演じたのは、新井浩文。
彼もリアルだったなあ。
あの公園のシーンから、いきなり葬式のシーン。
とても上手でした。
この人は、先に上演された舞台版の「葛城事件」では、死刑囚の弟の方を演じたのだそうです。
ちょっと見てみたかったかも。
映画の核となるのは、無差別殺傷事件。
大阪教育大学附属池田小学校殺傷事件。
秋葉原歩行者天国通り魔事件。
土浦荒川沖駅連続殺人事件。
下関駅通り魔事件。
池袋東急ハンズ前通り魔事件。
平成になってからだと、これくらいでしょうか。
昭和まで遡ると、昭和63年に、あの宮﨑勤の連続幼女殺害事件がありますね。
それから昭和56年の深川通り魔殺人事件。
犯人逮捕時の、ブリーフ姿にさるぐつわの映像のイメージはいまだ鮮明です。
月曜ワイド劇場で、この事件はドラマ化されましたが、この時は大地康雄の迫真の演技は強烈でした。
酒乱で強圧的な父、精神を病んだ母、自殺した兄。
この映画が、きっちりと取材して参考にした死刑囚の家族のモデルは、池田小学校事件を起こした宅間守元死刑囚の家族とのこと。
あるようでなかった、加害者の家庭を克明に描いた作品。
でも、映画で描かれた家族が崩壊していく過程のすべてのシーンは、大なり小なり、誰の身近にあってもおかしくないシーンばかり。
これが、異様に映画の後味の悪さを増幅します。
脚本が丁寧で、リアルなんですね。
監督は、この脚本もてがけた赤堀雅秋。
舞台版の「葛城事件」も演出した人です。
下手な2時間ドラマのような、安直な演出は一切しなかった手腕は見事。
これだけ、後味の悪い、救いようのない、最悪な映画でも、ちゃんと映画として、客は呼べるということを証明してくれました。
園子温監督の「淋しい熱帯魚」、白石和彌監督の「凶悪」に続く、この路線の傑作です。
家族に手料理を作らない母親はいませんか ?
中華料理屋で、執拗に難癖のクレームをつける父親はいませんか?
リストラされたことを、家族に言えない長男はいませんか?
そしてもし、こんなことを口癖にしている次男がいるようでしたら、是非お気をつけください。
あなたの家庭が、いつかこんな事件に巻き込まれる恐れがあります。
「俺は、いつか一発逆転してやるから。」
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