今回はちょっと反則。
読書と書いておきながら、実際読書はしていません。
この小説は、1936年に発表された、全5巻からなる大長編ですので、これはなかなか読めるシロモノではない。
見たのは、NHK-Eテレの「100分DE名著」です。
この番組で、4週にわたって2時間かけて、この名作を取り上げてくれました。
今回はこれを見たことで、この長編小説を読んだことにしましょうというわけ。
それで、感想まで書こうというのですからズルもいいところ。
もちろん、映画オタクですので、映画化された作品はもう何度も見ています。
ですから、原作と映画はどこが違うかというのが、今回のポイント。
番組も、この映画史上に燦然と輝くこの名作を踏まえたうえで、原作はどこが違うかというアプローチをしてくれました。
まず、面白かったのが冒頭。
「スカレット・オハラは、美人ではなかった。釣り目で、エラが張り、巨大なバストの持ち主。」
意外でしたね。
なにせ、映画でスカーレットを演じたのは、絶世の美女ビビアン・リー。
どのスチールを見ても、彼女の美貌は完璧。
ここはのっけから、原作とは違います。
まあ、しかしこれは、映画の性質を考えればしょうがない。
主演女優がビジュアル的にも魅力的でなければ、4時間に及ぶ長丁場を引っ張れるわけがない。
当時ハリウッドに、エラの張ったつり目の女優がいたかどうかはわかりませんが、プロデューサーのセルズニックが、原作の描写を無視して、ヒロインにビビアン・リーを抜擢したのは懸命でした。
しかし、小説なら、そこはちょっと違う。
文章ならそこは、このキャラクターを際立たせる、筆者の文章の魅力次第で、いかようにでも引っ張れるわけです。
スカーレットは、とても気が強く、男たちを翻弄し、生きるためには手段を厭わない。
どちらかといえば、ノーサンキューな女性。
このヒロインが、それでも長く読者たちから嫌われずに、愛され続けているのは、ひとえにマーガレット・ミッチェルの魅力的な文体にあると、翻訳者は解説していました。
要するに、真っ直ぐで子供のような純粋さと、その反対のダークサイドとの間で葛藤し揺れる様を、筆者が巧みに描いているという点。
これが小説のスカーレットの魅力です。
番組では、このスカーレットのダイアログを、一人ボケツッコミと解説していました。
ちなみに、この「風と共に去りぬ」は、宝塚でも上演されましたが、この時は、スカーレットの、ダークサイドとピュアサイドを二人の女優で演じ分けていたそうで、翻訳者はこの演出を絶賛していました。
そして、この小説に登場する主要な四人の人物の複雑で多様な人間関係。
小説は、これを丁寧にじっくりと描いているという評価でした。
スカーレットとメラニーの女の友情。
スカーレットとアシュリーの禁断の恋。
レッド・バトラーとメラニーの男と女を超えた友情。
そして、レッド・バトラーとアシュリーの男の友情。
(これは、映画には描かれていなかった気がしますが)
これらすべての人間関係の機微を丁寧に小説は紡ぎ出していきます。
しかし、たったひとつ、原作者マーガレット・ミッチェルが意図的にすれ違ったまま、成就させなかった人間関係が、スカーレットとバトラーの愛情というわけです。
この小説は、世紀の恋愛小説という言われ方をしていますが、実は、世紀の失恋小説というのが正しいようです。
そしてこの二人の別離が、ご存知の通りこの大河小説の肝になります。
「似た者同士は一緒になれない。」
映画の最後の最後で、スカーレットは本当に自分が愛していたのはレッドだと気がつきます。
しかし、それを彼に告げた時には、レッドはもうすでにタラを去る決心をしていました。
レッドの後ろ姿を見ながら、打ちひしがれるスカーレット。
そして、あの名台詞です。
“ Tommorow is another day.”
この映画を一番最初に見たのは、テレビの水曜ロードショー。
吹き替えの栗原小巻のセリフはこうでした。
「明日に、望みを託して。」
和田誠の「お楽しみはこれからだ」では、こう。
「明日は明日の風が吹く。」
でも、セリフを直訳すれば、こう。
「明日はまた別の日だもの。」
映画では、この名台詞の演出には、ラストシーンということもあって、かなり気合が入っていましたが、原作では、このセリフは、小説の中では度々登場する、スカーレットの口癖のようなものだと解説していました。
そこで、フィナーレを飾るために、このスカーレットのただの口癖に、映画の翻訳者は、ラストを飾るにふさわしいドラマチックな翻訳をつけたがったというわけです。
確かに、あの映画におけるラストのセリフは、映画の流れからいえば、ちょいと、とってつけたようで不自然な気持ちを抱かせました。
しかし、このラストのセリフは、そのどれでもなく、案外こんな翻訳が、原作に一番近いと番組は紹介してくれました。
それが・・
「とにかく寝よう。」
なるほど、これも面白い。
でも、流石にこれでは、映画のラストにはならないかな。
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