1978年11月3日金曜日の深夜。
僕は自室で、テレビをつけっぱなしのまま寝ていました。
まどろんでいると、なにやら、聞いたことがあるようなないような不思議な楽曲が耳に入ってきます。
モソモソとベッドから起き上がってつけっぱなしのテレビを見ると、そこには見たことがあるようなないような不思議な映像。
そして音楽。
しばらくすると、その音楽は、その頃、浴びるように聞いていたビートルズの楽曲のパロディと判明します。
チャンネルは当時の「東京12チャンネル」。
その頃よく見ていたイギリスのバラエティ番組「空飛ぶモンティ・パイソン」の枠で放映されていたその番組は、ビートルズのサクセス・ストーリーをパロディにした「オール・ユー・ニード・イズ・キャッシュ」であると判明。
番組の中に登場するバンドは、ビートルズならぬラットルズ。
パロディとしては、あまりにも高いクォリティのその番組に、僕は目を丸くしながら、テレビにくぎ付け。
見終わった時には、日付を超えていました。
終了してみれば悔やまれるのは、まだ、夢の中にいた、番組冒頭の15分くらいを見逃したこと。
まだビデオ録画なんて習慣のなかった頃の作品。
以来ことあるごとに、レンタルビデオや、再放送などはチェックしてはきましたが、このマニアックな作品には、なかなか再会できないでいました。
僕にとっては、幻のこのテレビ映画を、この度、Amazone のラインアップから発見。
輸入商品ではありましたが、早速購入。
届いたBlu-ray が「The Ruttles Anthology」。
ほぼ40年ぶりに、あの日見逃していた、冒頭の15分を含む全映像を通して鑑賞いたしました。
ラットルズの四人のメンバーは以下の通り。
ロン・ナスティ(ネタ元は、ジョン・レノン)
演じたのは、ニール・イネス。
ダーク・マックィックリー(ネタ元は、ポール・マッカートニー)
演じたのは、モンティ・パイソンのメンバーの一人、エリック・アイドル。(彼は、レポーター役も兼任)
スティッグ・オハラ(ネタ元は、ジョージ・ハリスン。
演じたのは、リッキー・ファター。
バリー・ウォム(ネタ元は、リンゴ・スター)
演じたのは、ジョン・ハルシー。
ビートルズの本国イギリスで製作されただけあって、改めて見ても、よく練られ、よく研究された脚本であることにまず感服。
番組は、ビートルズの結成から、解散までの8年間を、そのまま、ラットルズという架空のバンドに置き換えて、フェイクのドキュメンタリーとして構成。
当時としては、巧みな映像とモンタージュ技術、そして音声技術を駆使したモキュメンタリー作品になっています。
中でも見事なのは、ニール・イネスとエリック・アイドル。
この二人が、ジョンとポールの仕草や演技を、徹底的に研究していてお見事。
ジョージを演じたリッキー・ファターは、インド系のイギリス人で、これもジョージのビートルズ後期の音楽性を考えるとニヤリ。
このリッキー・ファターですが、ジーョージの「一番寡黙なビートルズ」というイメージを逆手にとって、演奏シーン以外は一言のセリフもありません。(これも再見して発見)
この辺りもニヤリ。
ニヤリといえば、インタビュー・シーンに登場する大物。
このあたりは、「モンティ・パイソン」の面目躍如。
ひとりは、ミック・ジャガー。
もう一人は、ポール・サイモン。
まあ、お二人ともなかなか洒落がわかるようで、この架空のバンドであるラットルズについて、あたかも実在のバンドであるかのように、しれーっとコメントしています。
いかにも英国センス。
それから、40年前は気がつきませんでしたが、ロック少年の役で、ローリング・ストーンズのロン・ウッドも出てましたね。
そして、エリック・アイドルが、アメリカの名物番組「サタデイナイト・ライブ」のホストを務めたこともある関係で、この番組の常連タレントであった、ブルース・ブラザーズの二人、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイド。そして、ビル・マーレイなども芸達者なところを見せていました。
もともと、このラットルズの出発点は、この「サタディナイト・ライブ」でのパフォーマンスなんですね。
そして、何と言ってもビックリするのは、イジられた本人である、ビートルズのジョージ・ハリスンもテレビのレポーター役で出演していること。
この辺りが、洒落の分かる英国気質といいますか、この番組が、陳腐なバラエティにありがちな単なる「悪ふざけ」になっていない証かもしれません。
ビートルズの設立した会社のロゴは、「アップル」ではなくて「バナナ」。
アメリカでの球場ライブの先駆けとなった「シェア・スタジアム」は「チェ・スタジアム」。
ジョンの妻は、日本人ではなくて、ドイツ人ヒットラーの娘。
とにかく、いちいちニヤリです。
そして、このテレビ映画の白眉は、なんといっても音楽。
楽曲すべてが、この番組のために作られたラットルズのオリジナルです。
すべて、ビートルズの楽曲を、ネタ元にしていますが、これが単に、パロディとは片付けられないほどのクオリティ。
シングルやアルバムにもなっています。
とにかく、40年前に聞いただけの楽曲なのに、今聞いてもちゃんと耳に残っていたのは驚きでした。
ビートルズを彷彿させる、この番組内のすべての楽曲を手がけたのは、ニール・イネス。
ジョン・レノンのロン・ナスティを演じた彼です。
まるで、ビートルズの未発表曲を聞かされているようなほどの完成度。
彼の高い音楽性が、この番組のレベルを上げるのに、大きく貢献しているのは間違いありません。
彼が七人目のモンティ・パイソンと言われたのもうなづけます。
日本のお笑い界に、これができる人が果たしているかなあ。
先日、荷主の謝恩会にお邪魔した時に、コージー冨田軍団の、「モノマネ芸」を、ナマで見る機会がありましたが、たしかに盛り上がりはするものの、あの芸は、やはり「お笑い」の域を出ないもの。
この番組のレベルではありませんでしたね。
そういえば、あのタモリが1981年に発表したアルバム「タモリ3 ー戦後日本歌謡史-」の中で、各楽曲のオリジナルのメロディを微妙に変えるセンスが、なかなかいい線いってたなと今思い出しています。
そのタモリですが、思い返せば、彼の芸能界への正式デビューが、この東京12チャンネルの「空飛ぶモンティ・パイソン」でした。
番組を見終わって、なんだかムラムラと、ラットルズのナンバーをカラオケで歌いたくなってしまいました。
しかし、このマニアックな楽曲があるはずはないなと思っていたら、なんと最近はまっているネットオラオケのSMULE のラインナップにちゃんとあることを発見。
早速歌ってしまいました。
オリジナルは、YouTube で観れるかもしれませんが、素人カラオケもまたおつなもの。
こちらです。
「ゲットバック」をイメージした
「ヘルプ!」をイメージした
日本のお笑い番組も、嫌いではないので、結構見ますが、残念ながら、洒落のセンスにおいては、まだ我が国は、発展途上。
こういうパロディを、「悪ふざけ」や「悪趣味」に落とさないギリギリのエスプリなり、ウィットは、まだまだ英国に軍配が上がりそうです。
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