昔読んだ和田誠さんの「お楽しみはこれからだ Part4」に、この映画のことが書いてあった。
この映画は見ていなかったけれど、それで名前だけは覚えていた。
「赤い靴」というのは、よく知られている童謡「赤い靴」とは無関係。
「異人さんに連れられていった」話ではなく、アンデルセンの童話の方が原作。
赤い靴を履いて踊るうちに、呪いをかけられた少女は、赤い靴を脱げなくなってしまい、死ぬまで踊り続けるというのが童話の内容。
映画は、これになぞらえたバレリーナの悲劇の物語。
演じたのは、これが映画デビューのモイラ・シアラー。
彼女がたどる運命が、この童話と二重構造になっている。
共演者の多くが、当時のバレエ界の現役ダンサーたち。
ファンタジーあふれる、バレエシーンが、やはりこの映画の白眉でしょう。
監督は、マイケル・パウエルとエメリック・プレイスバーガーのコンビ。
文芸派のプレイスバーガーは、映画「日曜日に鼠を殺せ」の原作者。
パウエルの方は、ヒッチコックの映画に協力したり、後に「血を吸うカメラ」などを撮った怪奇ファンタジー派。
二人の個性がうまく融合して、1940年代のイギリスで、センスのいい作品をコンスタンスに作っていましたね。
個人的には、二人のコンビ作品では、デボラ・カーのファンだったので、「黒水仙」は記憶あり。
二人の作品の特徴となっているのが、当時の最新技術だったテクニカラー。
まだまだ、モノクロ映画が主流だった頃に、二人の作る映画の色彩表現は、強烈なインパクトがあったようです。
バレリーナの白い衣装と赤い靴の対比。
そして、テラスから飛び降りた彼女の赤い鮮血。
いずれも、まずテクニカラーありきの作品。
かのマーティン・スコセッジは、この映画にリスペクトを惜しまない監督。
2011年には、この作品をデジタル・リマスター化して発表しています。
映画の中盤で、幻想的なバレエシーンがたっぷり描かれていたので、ラストのバレエシーンも同様だったらちょっとくどいと思っていたら、ここは上手でした。
団長が、バレリーナの悲劇を観客に伝えます。
「ミス・ペイジは、今夜この舞台に立つことは出来なくなりました。」
すると、本来彼女のいるはずの場所に、ピンスポットが当たり、周囲のダンサーたちと一緒に、まるで彼女がそこで踊っているようにライトが移動していくという演出。
彼女の身に訪れた悲劇が際立ちました。
アンデルセン童話「赤い靴」の呪いは、この映画では、つまり若い二人の恋愛だったというお話。
以下は、映画の名セリフ集「お楽しみはこれからだPart4」からの引用。
バレエ一座のオーナーとダンサーの会話。
「愛などという疑わしいものに頼る人間は、偉大な踊り手になれない。」
「純粋で立派な意見です。けれど、本能を変えることはできませんよ。」
「だが、無視することはできる。」
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