今回は、二泊三日の山形県長井市の農業研修です。
長井市は、山形県の南部で、米沢市の北側。
お隣はすぐ米どころ新潟県ですから、農業のメインはなんといっても水稲。
ただし、前回の福島県の研修で、水稲は設備投資が大変で、新規就農者には、敷居が高いと学習。
今回はスルーさせて頂いて、それ以外の農家の研修をお願いしていました。
コーディネートして頂いたのは、長井市役所産業活力推進課の遠藤さん。
ありがとうございました。
東北には、いままでも何回か、旅行していますが、長井市は今回が初めて。
山形新幹線で赤湯まで来て、そこから山形鉄道フラワー長井線で長井駅まで。
関東では、昨日まで台風の影響で雨模様でしたが、こちらは快晴でした。
市内を流れるのは最上川。
ここ長井市は、江戸時代は米沢藩の商業の中心地。
この最上川が商船を日本海まで運び、そこから北は北海道(当時は蝦夷)まで。
西は、下関廻りで、上方(大阪・京都)と文化交易交流が盛んだったとのこと。
北前航路と言われていたそうです。
市内には、当時の面影を残す、僕好みのレトロ建築があちらこちらに。
そして、ここ長井市は、けん玉や、ボードゲームの生産が有名なのだそうです。
では、農業はどうか。
やはり、ここは冬は雪に閉ざされます。
12月から2月までは、基本的に露地栽培は不可能。
そんな東北地方で、お米の次に商売になるものといえば、やはりりんご。
初日は、まずりんご農家の「横沢果樹園」にお邪魔したいました。
りんごの収穫は、11月になってから。
今の時期は、それに向けての管理作業。
りんごの「葉取り」です。
「葉取り」とは、りんごに太陽の光を満遍なく当てるために、余計な葉を取り除く作業。
枝の先っぽを摘んで、その枝をシゴくようにして、一気に葉を落とします。
これを、「葉っぱを扱く」というのだそうです。
やってみると、これがなかなかの快感。
梯子で、高いところに登る恐怖感は、あっという間に吹っ飛んでしまいました。
さて、りんごといえば、僕の脳裏すぐ浮かぶのは「奇跡のリンゴ」の木村秋則さん。
何冊か本も読みました。
農薬も肥料もやらずに、自然農法でリンゴを育てるのが木村流です。
休憩時間に、横沢さんにちょっと聞いてみました。
「うちはやらないなあ。それに、虫が寄ってくるから、周りの農家に迷惑かかるし。」
横沢さん、ちょいと苦笑い。
横沢農園では、定期的に農薬殺菌をしているそうです。
確かに、およそ1haのリンゴ園で、僕が葉取りをやらせてもらった範囲では、虫食いの葉やリンゴは、ひとつも見かけませんでした。
高いところにあるリンゴなどは、鳥に突かれそうですが、その形跡もなし。
よくみると、りんごの樹の上の方には、赤い糸が巻いてあります。
「これは何ですか?」
聞いてみたのは、横沢さんの奥様。
「これで、カラスが寄ってこなくなるんですよ。」
この細い糸一巻きだけで、防鳥作用があるということですね。
そして、りんごの木の下には、満遍なくシルバーのシートが敷いてあります。
葉っぱがこの上に落ちるので、片付けやすいようにしていてあるのかと思いきや、このシートはレフ板の役割をします。
つまり、太陽の光を反射して、下からリンゴの実に太陽光を当てる為だそうです。
横沢さんが、「葉取り」の終わっ樹の下は、送風機で綺麗に落ちた葉を飛ばしていました。
この時期のおよそ二週間の間に、果樹園の全てのリンゴの樹の、「葉取り」を終えなければいけないので、この時期と、収穫の時だけは、人を雇うのだそうです。
この日も、僕と、横沢さんご夫婦の他に、サポートの人手が3人。
合計6人の作業になりました。
でも、それ以外の作業は、年間通じてほぼご夫婦お二人。
これも、試しに聴いてみました。
「朝から晩までご夫婦で一緒だと、仲良くないと出来ないですね。」
これには、お二人揃って、頷いていらっしゃいました。
「多少腹が立っても、こっちがハイハイ言うこと聞いていれば大丈夫。」
とは、横沢さん。
リンゴは、苗からやるとすれば、ぼちぼちと実がなるまでに4年。
違う品種のリンゴを、所々に植えておかないと、受粉しないそうです。
商売になるまでには、10年とおっしゃっていました。
これは、僕のような定年退職組の新規就農ではちょっと無理な話。
木村秋則さんの「奇跡のリンゴ」でも、自然農法に変えて、実がつくようになるまでに10年かかっていました。
いろいろお聞きすると、りんご農園も、後継者不足は深刻とのこと。
新規就農で始めるのは厳しいけれど、後継者がいなくて、廃業するりんご農園もあるので、それを引き継ぐ方法もあるとおっしゃっていました。
但し、これは僕も独り身。
後継者がいないのは、明白なので、それもなかなか難しいところ。
それでも、いろいろと貴重な話を聞かせてもらいました。
夕方近くになって、周辺の農家20軒ほどで、費用を持ち寄って作ったという「直売所」を見せてもらいました。
横沢さんのご自慢は、この直売所は、JAも市役所も通していない、完全に農家自前の直売所であること。
入口の前には、「20周年記念」の横断幕。
通常、「直売所」は、交通量の多い、国道沿いにあることが多いのですが、ここは周囲にはなにもない普通の県道。
つまり、ついでに寄るのではなくて、わざわざここに買いに来る人が、一定数いるということです。
年間の売り上げが、5000万円とおっしゃってましたからなかなかのもの。
スタッフも常時二人。
夏のお盆の時期になると、行列ができると言っていました。
さて、研修の二日目。
お邪魔したのは、「寺泉トマト」
地元では有名な、甘いトマトを作っている農家です。
その母体は、「寺泉ライスセンター」。
大きなハウスが合計6棟。
そのうちの4棟で、トマトを栽培していました。
我が畑のトマトは、すべて土耕の露地栽培ですが、ここではすべて水耕栽培。
トマトが定植されている、樋の中に詰めてあるのは、土ではなく、スギやヒノキの樹皮で作った特別なブロック。
100mの長さのハウス内は、室温12°にキープ。
植えるタイミングを少しずつずらしながら、年間を通して出荷できるように、栽培を調整しているそうです。
トマトの旬はやはり夏。
その時期になると、多数のトマト農家の出荷が重なるので、売れ残ることもあるそうですが、「寺泉トマト」の真骨頂は、むしろその旬のピークが過ぎてから。
競争相手がいなくなってからの、地元トマト市場は、「寺泉トマト」の独壇場。
逆に、それからの方が売れ残りはなくなるとのことです。
けして、トマト作りの環境としては、恵まれているわけではないという長井市。
しかし、あえて設備投資をし、維持管理のコストをかけて、トマトが出回らない時期にも、品質の変わらないトマトを供給することで、一定の顧客を開拓してきたとのこと。
暖房費のかさむ冬場にも、赤字すれすれで、トマトを出荷し続けるのも、掴んだお客さんを離さないための企業努力。
トマトの糖度は、6を超えるとかなり甘く感じるのですが、この「寺泉トマト」では、糖度が8にもなるトマトも出来るそうです。
扱っている品種は、大玉はほとんど「桃太郎」。
ミニトマトは、「アイコ」が多いとのこと。
その他、苺用のハウスがひとつあるのですが、苺は単価は高くても、栽培コストがべらぼうに高くなるので、採算が合わず、現在は「ツボミナ」という、寒さに強い青物野菜を栽培。
あまり高くは売れないとのことですが、暖房コストが抑えられるので、こちらの方が利益は出るとのこと。
本日やらせていただいた作業は、収穫作業。
これが、収穫キットになります。
この台車を転がして、収穫していきながら、以下の選別表に合わせて、トマトを一個一個選別していきます。
ハウス内のトマトに、真っ赤に完熟したものはありません。
そうなる前に収穫してしまいます。
しかし、そのトマトは、一日おいて、選別して、出荷する頃に真っ赤に完熟。
顧客が手に取る頃に、ちょうど食べ頃のトマトになっているというわけです。
A品とB品の主な差は、やはり表面の傷。
トマトは、箱入れをするときに、お尻を上に向けて並べます。
ですから、お尻の傷は致命傷。
お尻の部分が、こうなっているものは、廃棄だそうです。
そして、よく出来た、甘いトマトのお尻はこちら。
しかし、こっそりと聞いてみたら、案の定答えは予想通り。
「味は、変わらないんですけどね。」
10人ほどのスタッフが、収穫してきたトマトは、まとめられて、出荷用のハウスに運ばれます。
運び込まれたトマトは、この簡易自動選別機に乗せられ、きっちりと重量別に仕分けされます。
そして、袋詰め、箱詰めされて、「寺泉トマト」の完成。
この見事なトマトをいただいてきましたが、これは立派過ぎて、箱に入りきらないのでNGになったトマト。
色艶最高でズッシリと重く、絶対にうちの畑では作れないトマトですね。
もちろん、とてもジューシーで甘いトマトでした。
完成したトマトは、この時期は、直売所で販売されるものがほとんど。
もちろん、A品とB品とでは、値段が違うのですが、特に、表示はしていないとのこと。
規格外のトマトは、「わけあり」トマトとしてさらに廉価で売るか、おまけで無料配布するそうです。
僕などは、味が変わらないと分かっていますので、あえて、規格外のトマトを選んでしまいそうです。
直売所で並ぶとまとには、もちろん「寺泉RC」のラベルが貼られます。
午後からは、長井市の写真撮影にお付き合いしました。
市内の若手農業従事者が、自慢の農作物を持って、ポーズをするというもの。
「農業人フェア」などの、長井市のブースの、壁に飾るものだそうです。
その中の一人は、埼玉県の所沢から移住して、就農した29歳の寺島くん。
そして、お世話になった「寺泉とまと」のワカナちゃん。
彼女は、将来的には、自分のハウスを持って。トマト農家を経営したいそうです。
次回の「農業人フェア」は、伺うつもりですので、その時に、今回撮影した「彼らの笑顔」が観れるかもしれません。
さて、農業研修で来ているのですが、市役所の遠藤さんには、市内の観光スポットも案内してもらいました。
まず向かったのは、上流にある長井ダム。
長井市は、水が美味しいことでも有名ですが、その供給源がこのダム。
豊富な地下水を、この上流で調整しているのだそうです。
ちょっと風が強くて肌寒かったですが、紅葉を堪能させていただきました。
そして、市内に下りてきて、次に向かったのが、「丸大扇屋」。
ここは、北前航路で、上方とも交流のあった、藁葺き屋根の旧商家。
往時は、反物屋だったようです。
中には、当時の商売や、生活の様子が伺える展示物が多数。
囲炉裏あり、機織機あり。
古民家フェチとしては、一日中いられるところでした。
田舎暮らしが決まれば、出来れば、こんな味わいのある家に住んでみたいところ。
ここまで大きい必要はありませんが、市内にこんな古民家は空いていないのか、尋ねてみたところ。
遠藤さん、やや苦笑い。
さて、研修最終日。
朝から生憎の雨模様でしたが、ニュースでは、台風の影響で、関東はエライことになっているとのこと。
そういえば、昨日の埼玉県所沢から来たという新規就農者の寺島君が言っていました。
「山形を選んだ理由は、災害が少ないから。」
なるほど。
若いのにしっかりリサーチしています。
さて、本日の研修メニューは、花卉農家。
福島では、トルコ桔梗とかすみ草の農家を見学しました。
これは両方とも切花。
本日お邪魔したのは、ポット売りの花卉農家。山平さんのハウス。
ハウスは6棟。
そして、露地にもたくさんのポット。
研修に出発する前に、宿泊所の隣にある「コメリ」の店頭を覗いてきましたが、いま盛りなのはパンジー。
単価は、80円でした。
山平さんのハウスでも、今まさにそのパンジーが出荷待ち。
そして、その次の出荷になるのが、葉牡丹。
これが、露地に所狭しと並んでいました。
どれくらい出荷するのかとお聞きしたら、およそ20万ポットとのこと。
あまりに多すぎて、ちょっとピンと来ません。
とにかく、花卉は、見てくれがすべて。
如何に、姿形でお客さんにアピールするかが勝負。
これから出荷する葉牡丹も、通常は摘芯一回のところ、2回挟みを入れる工夫をして、差別化を図っているそうです。
そんな努力の甲斐あって、今では、注文に供給が追い付かないくらいになっているとのこと。
しかし、経営がやっと軌道に乗るというところまでいくのに、およそ8年かかったとおっしゃっていました。
これは、定年退職組には、かなり厳しい。
花卉栽培は、管理作業が、野菜などに比べてかなり大変とのこと。
最低でも水やりは、ほぼ毎日やらなければならないので、初めてしまうと、どうしても、完全な休みは取れないそうです。
人手も、雪の積もる冬場以外は、常時確保が必要。
また、冬は冬で、ハウスが潰れないように、除雪作業は欠かせないそうです。
いろいろと説明していただいた山平さんでしたが、すでに後期高齢者となっているお父さんも、現場で一緒に元気で働いていらっしゃいました。
りんご果樹園の横沢さんのところもそうでしたが、みなさん家族の仲が至極良好。
幸福の国ブータンに行ったときも、同じことを思いましたが、成功する農家、廃業する農家の差は、案外そのあたりにあるのかもしれません。
「元気でないと、農家は出来ねえよ。」
お父さんは、そうおっしゃってましたが、僕から見れば、その逆。
農家で体を動かしているから元気なんですよ。お父さん。
さて、本日お手伝いしたのは、ポットの移動。
一輪車を使います。
スタッフの方は、心配そうでしたが、一輪車なら、畑の草むしりでは毎回使っているので問題なし。
パンジーを移動したハウスに、今度は芝桜のポットが並ぶと言っていました。
やや、雨が本降りになってきたところで、ちょうどお昼。
これにて、3日間の山形県長井市の農家研修はすべて終了です。
当初の予定では、この後の土日で、二回目の「福島県相双地方農業体験バスツアー」の予定でした。
そのつもりで、米沢のビジネスホテルを予約していたのですが、主催者側から、台風19号の影響で、インフラがいまだ回復しないので、今回は見合わせますという残念な連絡。
それに今回のこの台風は、この週末は、福島を直撃するニュースでは言っています。
一刻も早い被害からの回復と、みなさんのご無事を祈りつつ、明日は、せっかくですから、城下町米沢を散策して帰ります。
白状しておきますが、定年退職をして、はや2ヶ月。
体重はさっそく4キロも増えております。
食べる量は減っていないので、もちろん運動不足が原因。
百姓志望のベジタリアンが、デブではお話になりません。
定年退職をして、やはりどこか緊張感が緩んで来たようです。
逆立ちしても、老後を遊んで暮らせる身分ではありません。
再度、ダイエットの基本を思い出して、スイッチの入れ直し。
「動かないなら食べるな。」
「食べたいなら動け。」
最後になりましたが、長井市役所産業活力推進課の遠藤さん。
今回は、いろいろとお世話になりました。
心より、御礼申し上げます。
ありがとうございました!
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