午前十時の映画祭。いよいよ大円団。
本日は、「七人の侍」を、ウニクス南古谷で見てまいりました。
観賞後、そのままフードコートに移動して、ブログ書き込み開始。
働いている皆さん、平日の昼間に申し訳ない。
定年退職している百姓準備生なので、時間だけは今のところたっぷりあります。
「七人の侍」は、僕の記憶では、60年の人生でおそらくこれが6回目。
今回は、町山智浩と春日太一の、YouTube 「七人の侍」予習編と復習編を、映画の前後でしっかりと学習してからiPad に向かっております。
もちろん、黒澤明研究本は、映画オタクとしては、過去に何冊も読んでいます。
けれど、それをただなぞっても面白くないので、今回は、本日の率直な感想のみでまいります。
なにせ、色々なエンターテイメントの要素が、これでもかと盛り込まれている映画ですので、話はあちらこちらに飛んで収集つかなくなるかもしれませんが容赦ください。
まずいきなりタイトルの話からまいります。
今回はまずこれに気がつきました。
冒頭のタイトルですが、これみんな斜めになって、出てくるのは承知していました。
農民の不安や恐怖、野武士の影といったネガティブの要素を、冒頭のタイトルで可視化しておいて、一番最後にバンと現れるエンドタイトル「七人の侍 終」は、きちんと横にまっすぐ。
つまり、全ては映画的にまるく回収したという、とてもわかりやすいビジュアライズ。
3時間30分もの長尺の映画になると、作る方も色々な要素を盛り込んで、ストーリーを複雑化したくなるもの。
しかし、アクション映画は、やはり、ラストのカタルシスに向かって、ストーリーはあちこちに散らばらないように盛り上げていくのが常道。
この辺りのツボは、さすがの黒澤明、きちんと心得ています。
すべての人間ドラマは、ラストの決戦に向かって、きちんと揃えられているので、見ている方は、泣かされ、笑わせられながら、最後にはちゃんと、手に汗握らされている。
とにかく、テーマ性のある映画には疲れていたという黒澤監督が、日本映画が苦手とされていた爽快なアクション映画に、きちんと日本流のドラマ性も盛り込んで、世界に一泡吹かせてやろうと挑んだこの大作。
完成までは、いろいろな苦労もあったようですが、最終的にはしてやったりという作品になったということでしょう。
改めて思います。
よくぞ、こんな映画を作っていただきました。
6回目ですが、6回見ても、やはり見事に面白い。
これには恐れ入ります。
今回もまた、あっという間の3時間30分でした。
これは、もうすでに気がついていたことですが、過去の5回の「七人の侍」を見ての感想。
実は、感情移入する侍が、その回ごとに違っていたんですね。
これは面白い発見でした。
一番最初に見たのは、おそらく池袋文芸坐。
大学生の頃で、授業にも出ずに、アルバイトしては、映画館に通っていた頃。
この時に、唸ったのは、寡黙な剣士久蔵でした。
演じていたのは、宮口精二。
とにかく、あのカッコ良さには痺れました。
映画の中で、勝四郎が「あなたは素晴らしい人です」と、涙目で言っていましたが、まさにあの感想が、その時の自分の感想そのもの。
それから10年の月日が流れて、自分が会社で管理職になった頃に見たのが2回目。
この時はもちろん、志村喬演じる勘兵衛のセリフ一言一句に心惹かれました。
リーダーに求められる資質。
そして、場面状況に応じた適切な対応。
それがこれほどわかりやすく可視化された教材はなかったですね。
リーダーと農民の間に入って、チームをまとめる五郎兵衛や、七郎次に関心をもったことも。
して、ムードーメーカーとしての菊千代や、平八に注目した回もありました。
そして、もちろん、「七人の侍」製作における、いろいろなトリビアを知るうちに、黒澤明監督の映画技法に膝を打ってみた回もあります。
それぞれの回の関心事が、その時の自分を反映しているわけです。
とにかく、これまでの5回が5回とも、同じ映画を見て、それぞれ違った楽しみ方をしていることに気がついて、驚きました。
どこまで、奥が深い映画なんだと、恐れ入っていた次第です。
ならば、今回の6回目は、はたしてなにを楽しませてくれるのか。
これは、自分自身でも興味津々でした。
定年退職して、これから農業の道へ踏み出そうと思っているのが今の自分。
映画のラストで、勘兵衛が生き残った七郎次に言います。
「また負け戦だったな。勝ったのはあの農民たちだ。」
そうなんです。今回は、明らかに、その農民たちに感情移入して映画を見ていることに途中でハタと気がつきました。
藤原鎌足、左卜全、高堂国典、土屋喜男。
この映画で、農民を演じた役者たち。みんないい役者です。
侍たちだけではないんですよ。
彼らがいなくても、間違いなくこの映画は成り立っていません。
橋本忍、小國英雄、黒澤明の脚本は、この農民たちを単純に被害者としては描いていません。彼らの残酷さ、卑劣さ、臆病さ、そして逞しさまでも丁寧に描きこんであります。
勘兵衛が、農民たちのために意を決した時、彼らに言います。
「この飯、おろそかには食わんぞ。」
ここは、どの回でも、グッとくるところなんですが、今回は、「カッコいい!」ではなく、明らかに「ありがとう!」という感動になっているんですね。
どうやら、いつのまにか、僕もいっぱしの百姓になっていたようです。
長老の高堂国典も、味わいあるセリフを言ってますね。
侍たちに警戒心を隠せない村人に向かってこう言います。
「首が飛ぼうって時に、髭の心配してどうすっだ。」
野武士との小競り合いの後、火の手が上がる水車小屋から、母親が子供を抱いて出てきます。
そして、その子供を菊千代に手渡すと、彼女は力尽きたようにバッタリ。
こんな場面で今回は涙腺が崩壊。
その後の、三船敏郎の大芝居よりも、こちらの方に感動していました。
あきらかに、今までにはなかった経験です。
鑑賞している自分が、年齢とともに、あきらかに変化していることにハッとします。
それで、ハタと気がつきました。
定年退職して以来、あちらこちらの田舎へ出かけて農業研修をしてきたのがこの半年間。
そこで出会った農家の方達が、あきらかに、この映画を見ながらオーバーラップしているんですね。
映画にこんなシーンがありました。
いよいよ明朝が決戦という夜、農民たちは飲んで歌います。
野武士たちに、すべて剥奪されているはずの彼らが、どこからか隠してあった酒を持ち出し、侍たちに分け、そして肴をつまんでいます。
この農民たちのしたたかさと、逞しさに、微笑んでいる自分を今回は発見するわけです。
百姓は、いざとなれば強い。
野武士の嵐が去った後、農民達は、歌を唄い、田植えをはじめます。
そして、生き残った三人の侍は、静かに村を去ります。
なるほど。そうだったか。
この映画の主人公は、七人の侍たちではなく、実はこの百姓たちだ。
これだけの製作費と、これだけの才能を結集して、結局この映画はそれを描こうとしていたんだ。
6回目にして、ここにようやく気がつきます。
そうなんです。間違いなく、この映画はそう作られていますね。
さあこれで、7回目を見るのがまた楽しみになりました。
今度は、登場人物の誰に感情移入している自分に会えるか。
その時は、もしかしたら後期高齢者になっているかもしれません。
だとすれば、年齢的には、高堂国典が演じた、村の長老・儀作か。
まあそれは、その時のお楽しみ。
映画オタクとしては、もちろん新しい映画も見ていきたいところですが、やはり名作といわれる映画の再見も捨てがたい。
やはり、いい映画は何度見てもそれなりに美味しい。
さて、三船敏郎に、あまり触れていませんでした。
今回改めて発見した、ちょっとびっくりしたシーンがひとつ。
村へ向かう6人の侍を追いかけていく菊千代。
その道中、彼は河原で、川に入っていき、魚を手掴みで捕まえて、串に刺して焼魚にする。
文章にすればなんでもないシーンなんですが、このセリフのない芝居を、三船はワンカットでやってみせるんですね。
6人に手を振って、水に入り、潜水し、魚を両手で掴んで浮かび上がって来る。
魚は尻尾を振ってますから、ちゃんと生きています。
河原に上がって、その魚に串を刺し、火で焼く。
ここまでが、刻みなしのワンカットです。
川の中には、なんらかの仕掛けがあるのでしょうが、それにしてもお見事でした。
こういうことが、あたりまえに素で出来る役者って、今はそういないんじゃないだろうか。
昨日読んだ、「倍賞千恵子の仕事」という本には、自分はなにか作業をしながらセリフを言うのが得意な「ながら女優」という下りがありました。
昔の俳優には、それが出来る人がたくさんいたのでしょう。
例えば、千秋実が演じた平八は、登場シーンで、薪を割りながらセリフを喋っています。
斧を振り下ろした薪は、最後の一つを除いて(これは失敗というわけではなく、台本にそう書かれている)、どれも見事にまっぷたつ。
侍の旗を縫い上げるシーンもそうでした。
縫い終わって、糸を歯で切って、その流れで芝居をする。
もちろん、何テイクか、撮っているのでしょうが、これが自然に見えるから大したものです。
とにかく、昔の映画の俳優たちは、こういう基礎が、エキストラに至るまでしっかり出来ていた。
これが、間違いなく映画自体の底上げになっていたことは間違いありません。
黒澤監督は、役者たちに、下手な小芝居も大芝居もさせない。
求めているのは、自然なリアルさ。
唯一、そのあたりを好きにやらせていたのが、三船敏郎です。
なにが飛び出すかわからない、彼の演技のスリリングさは、認めていたのでしょう。
ちなみに、百姓たちが、侍たちにコメを与えて、自分たちが食べていたヒエ。
勝四郎は、「あれは酷い。」と言っていましたが、今は雑穀として、立派に健康食です。
農家民宿に泊まったりすると、普通に夕食として出て来ますよ。
白米に混ぜて炊いたり、コロッケに入れたりと、工夫すればおいしく食べられます。
むしろ、今では、侍たちにこそ、食べてもらいたい食材です。
野菜ソムリエとしては、おすすめ。
さて、「午前十時の映画祭」。
見ておくことに決めている、残る一本はいよいよ「大脱走」のみ。
これは来週に鑑賞予定。
「ららぽーと富士見」まで、足を伸ばせば鑑賞できます。
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