生憎の雨でしたので、畑作業は午前中で切り上げて、映画館へ。
今日は何を見るか、決めていました。
「パラサイト 半地下の家族」
英語圏でない国としては世界で初めて、堂々と、米国でアカデミー賞作品賞を獲得した韓国映画です。
監督は、ポン・ジュノ。
恥ずかしながら、韓国映画を、映画館で見たのは今回が初めて。
今まで見た韓国映画は、すべてレンタル・ビデオか、テレビ放送を録画したものです。
TSUTAYA に行けば、韓流作品が、大きく棚を割いていることは承知していましたが、僕が韓流作品で覚えている作品は「冬のソナタ」くらいのもの。
タイトルは忘れましたが、ホラー映画なら何本か見た記憶があったかもしれません。
正直に申し上げますよ。
そこまでの、僕が知る範囲の韓国映画なら、そのクオリティは、まだまだ、世界に追いつけ追い越せレベル。
黒澤映画や、小津安二郎など、世界誇る日本映画の傑作群を、浴びるように見てきた身としては、やはり映画は、伝統ある日本映画に、まだまだ一日の長があるだろうと、たかを括っていました。
しかし、その自惚れは、今回この作品を見て、完全に粉砕されました。
まだ、公開中の映画ですから、語りすぎには配慮したいと思いますが、まずは、その映像のクオリティが素晴らしい。
完全にハリウッドレベルです。
安っぽさのかけらもありません。
無職の家族が、大富豪の家に寄生していくという、大まかなストーリーは、そのタイトルからも、予告編からも承知していました。
ジャンルで言えば、貧富の格差を痛烈に風刺した、ブラック・コメディだと想像していました。
このテーマなら、普通の作り方をすれば、それほど製作費のかからない映画にもできたはず。
しかし、本作はそれを潔しとしません。
この映画では、半地下の部屋と、その周辺の街並み。そして、大富豪の邸宅。
これがすべて実物大のセットを建てて、撮影されたと言いますから気合が入っています。
ある意味では、至って地味なテーマのこの映画に、かけられている製作費が、黒澤映画並み。
映画から伝わってくる圧倒的なクオリティは、間違いなくそこから来ています。
脚本だけなら、長い伝統を持つ日本映画。
この映画に、負けないレベルのものは、書けるでしょう。
でも、いざそれを映画にしようという時、はたしてここまでの製作費を出すスポンサーが、我が国にいるかというお話。
「おいおい、この脚本なら、もうすこし安上がりにできるだろう」
そんなふうに、値切られてしまいそうです。
というか、今の日本映画には、マーケットを世界に求めるという気がそもそもない。
国内で、こじんまり当たれば、それでよしとするという傾向がありありです。
山田洋次監督が、文化庁の長官と対談するテレビ番組を見たことがあります。
そこで、山田監督は、切切と訴えていました。
今の日本映画界では、スタッフたちが食べていけないのが現状。
一握りの有名監督と、スター俳優以外の映画関係スタッフは、ギリギリの待遇でやっている。
このままでは、日本映画を支えてきた、有能なスタッフたちの職人芸が、引き継がれていかない。
もっと国が、映画産業に対して、予算をつけて、補助をしてくれないと、日本映画は衰退する一方。
ところが、町山智浩氏の話によれば、韓国はそこが違います。
映画産業に対して、国の方針として予算がつぎ込まれている。
韓国の若い世代の映画スタッフたちを、国費で援助して、ハリウッドに修行に行かせていると聞きます。
要するに、ハリウッドの映画クオリティと、お金の掛け方を、肌で学習した映画人が、それを自国に戻ってフィードバックしている。
ここが、決定的に日本映画と違うところです。
韓国は、自国の映画産業の発展を、国策としてすすめている。
日本からハリウッドに修行に行っている人もいますが、彼らはみんな自費だそうです。
国からの援助は皆無。
となれば、この差が、映画のクォリティに出ないわけがない。
つい先日、「感染列島」という映画を見たばかりです。
感想は、このブログにも書きました。
しかし、これをハリウッド・リメイクした「コンテイジョン」と比較してどうだったか。
描いたストーリーのスケールの大きさは、確実に「感染列島」の方が大きいんです。
しかし、それが仇になりましたね。
つまり、スケールの大きい映画に、日本規模の予算しかつかなければ、残念ながらチープさが可視化されてしまうわけです。
これをもっと限られた枠のドラマにして、そこに潤沢なハリウッド・マネーを注ぎこめば、映画はどうなるか。
当然、そのお金の掛け方は、画面の隅々にまで、行き渡ります。
それが、映画のクオリティというもの。
それは、脚本や演技以前に、画面自体から伝わってくるものです。
どんなに、俳優たちが演技で頑張ったとしても、「感染列島」が、米国でアカデミー賞をとれる映画にはならないことは、残念ながら、僕にもわかります。
やはり、どこか画面が、東宝特撮パニック映画の域を出ていないわけです。
しかし、この「パラサイト 半地下の家族」は、映画の製作自体が、すでに完全にハリウッド・レベル。
空気を読めないトランプ大統領が、どんな暴言を吐こうとも、昨年アカデミー賞にノミネートされた、他のどの作品と肩を並べても遜色ない作品であることは確実。
日本映画は、ある時期までは、間違いなく、世界のどの国と比べてものない引けを取らないクオリティを誇っていました。
しかし残念ながら、今や我が国は、経済や、ウイルス対策だけでなく、映画産業においても、お隣韓国の後塵を配しているぞと、痛感せざるをえない本作。
なんの分野においても、今や落ち目の日本。
せめて、映画くらいはと思っていましたが、今や、世界に通じる映画を作れる監督は、是枝監督や、三池監督など、本当に数えるほど。
国会では来年度予算の審議中ですが、自分の利益だけにご執心なこの国のお偉い様たちが、地盤沈下していくだけの、映画産業の勃興のために予算をつけてくれるなどとは到底思えず。
この極上の韓国映画を見て、なんだかひどく暗澹たる気持ちになってしまいました。
映画は、観る前の予備知識がありましたので、家族全員が大富豪の家にパラサイトするまでは、想定内のストリー展開。
確かに、そこまでは、ニヤニヤしっぱなしのブラックコメディ・テイストでした。
しかし、主がいない邸宅で、一家がパラサイトに成功した宴をしていた雨の夜に、玄関のチャイムが・・
ここからの展開は、ちょっと僕には、想像がつきませんでした。
改めて、アカデミー賞作品賞および監督賞受賞の快挙。
お隣の国、韓国映画界に対して、心より敬意を表するとともに、賛辞を贈りたいと思います。
おめでとう。
そぼふる雨の中、映画館を出て来て、おもわず自分の着ている服の、匂いを確認してしまいました。
コメント