プライム・ビデオのラインナップに、クラシック映画がズラリと並んでいて、ニンマリしてしまいました。
昔の映画を見るのは、結構好きです。
この映画は、昔も昔。
1932年製作と言いますから、今からもう90年も前の映画です。
昔の映画を見るときのお約束は、可能な限り、当時の観客のつもりになって鑑賞すること。
最新技術に慣れた目で、ああだこうだと言っても始まりません。
まずは、「古い」ことを、歴史を楽しむように見るべきですね。
学校の授業で、「古典」を勉強するようなものです。
さて、Wiki を見ていたら、この作品は、アカデミー賞の歴史の中で、ちょっと面白い珍記録を持っていると書いてありました。
それは何か。
この作品は、1932年度のアカデミー賞作品賞を獲得しているのですが、実はノミネートされていたのが作品賞部門だけ。
つもり、他の一切の部門では、ノミネートもされていないんですね。
作品賞を受賞した作品が、他の一切の部門で、ノミネートもされていないというのも、確かに珍しい。
しかも、その唯一ノミネートされた作品賞部門で、堂々とオスカーを獲得しているわけです。
まあ、珍記録と言っていいのでしょう。
俳優の演技、演出、音楽、脚本にはそれほど見るべきものはない。
それでも、作品は、受賞に値する。
ではいったい、この映画の何が評価されたのか。
実は、この映画が評価されたのは、当時としては、斬新だったそのスタイルなんですね。
後に、「グランドホテル方式」と呼ばれることになる、画期的なそのドラマツルギーです。
引用を借りるとこういう事。
「一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって、そこから物語が展開する方式」
つまり、はっきりとした主役は決めずに、複数のキャラクターが、一つの場所を舞台に、様々なドラマを同時進行で演じていくという映画の構成ですね。
言ってみれば、場所そのものが「主役」というわけです。
もう今では、当たり前になりすぎていて、ピンと来ない人もいるかもしれません。
でも、このスタイルの、出発点はこの映画だったというわけです。
この映画には、当時のMGMの主役級のスターが勢ぞろい。
こういう企画を捌くには、実にもってこいのスタイルなわけです。
というわけで、しいて言うなら、この作品は「アカデミー賞企画賞」か、もしくは「アカデミー賞発明賞」を贈呈するべき作品。
しかし、もちろんそんな部門賞はないので、そのアイデアを讃えて作品賞のみ受賞ということになったのでしょう。
中学生の頃に見た、「ポセイドン・アドベンチャー」や「タワーリング・インフェルノ」も、行ってみれば「グランド・ホテル形式」。
「大空港」などもそうでしょうから、パニック映画には、このスタイルは向いていると言えます。
「グランド・ホテル」に、キラ星のように集う豪華スターは、以下の通り。
グレタ・ガルボ。
ジョン・バリモア。
ジョーン・クロフォード。
ライオネル・バリモア。
ウォーレス・ピアリー。
ルイス・ストーン。
いかにも、みんな知っているような書きぶりですが、僕が知っているのは、女優2名のみ。
ただし、グレタ・ガルボは、松任谷由実が、松田聖子の楽曲を作曲する時に使用していたペンネーム「呉田軽穂」の元ネタであるということや、35歳で映画界を引退した伝説の女優という知識のみ。
「ニノチカ」も、「椿姫」も見ていません。
ジョーン・クロフォードは、1950年の「サンセット大通り」と、1962年の「何が、ジェニーに起こったのか?」の怪演を知るのみ。
男優陣にいたっては、この映画のクレジットで知った人ばかりで、オールスター映画と言われても、ちょっとピンときませんでした。
この映画が製作された1932年といえば、世界史の教科書で習ったあの世界恐慌のまっただ中。
その時代背景を反映してか、登場人物は、みんなお金の問題を抱えています。
ただ一人、お金とは関係なく、落ち目の自分を憂い、自分の部屋に忍び込んだ泥棒と恋に落ちるというノーテンキなバレリーナを演じているのがグレタ・ガルボ。
まあ、とにかく彼女を美しく、魅力的に撮らなければというバイアスが、映画スタッフに、相当かかっていたことは伺える演出です。
もちろん、こちらにも同じくらいの手間をかけないと承知しないわよという、ジョーン・クロフォードの迫力も相当なもの。
トップ女優としてのプライドが、火花を散らしているのが見えるようでした。
ちなみに、二人が同じ画面に同時にいるシーンは、ワンカットもありません。
ジョン・バリモアの色男ぶりは、如何にも古典的。
ライオネル・バリモアは、同じ姓なので、調べてみたら、ジョン・バリモアの実のお兄さんでした。
ちなみに、ジョン・バリモアの孫娘が、ドリュー・バリモア。
映画の冒頭と最後で、印象的なセリフを言うのが、顔にあざのある退役軍人の医師を演じたルイス・ストーン。
「ここは、休む事なく、人々が来ては去る。」
人間の営みというのは、川の流れのうたかた(水の泡)のようなもの。
すぐに頭に浮かんだのが、鴨長明の方丈記に出てくる、あの有名な冒頭の一行です。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。 淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」
という訳で、この映画の主役は、スターたちではなく、あくまでグランド・ホテルですよという映画でした。
それともうひとつ。
グレタ・ガルボが、思ったよりも低音で、ややヒステリックに叫ぶ、このセリフも、やけに耳に残りました。
「一人にして!」(I want to be alone !)
まあ、90年後の今は、こんな騒動になっておりますので、そうしていただいた方が、いいのですが・・
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